オプテックス株式会社R&D戦略部部長 中村明彦氏

オプテックス株式会社 戦略本部 開発センター長  中村明彦氏 (後編)流儀の違いを乗り越え「自前主義」に陥らないことが大事

日本のIoTを変える99人 【FILE 018】

2017.01.23

Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on 1月 23, 2017, 07:00 am JST

センサーを起点としたIoT事業への取り組みを強化するオプテックス。「得意なことは得意なところに任せる」という企業文化はIoTにも通じるが、一筋縄にはいかないと中村氏は語る。

オプテックス株式会社 戦略本部 開発センター長  中村明彦氏

中村 明彦(なかむら・あきひこ)
オプテックス株式会社 戦略本部 開発センター 所長。大手制御機器メーカーに勤務し、センシング技術とワイヤレス通信、インターネット技術の融合について研究開発、それを活用した事業開発に携わる。2007年、オプテックス株式会社に入社し、IP技術を活用した製品(カメラ、システム)、センサネットワークシステム開発に従事。最近は、IoT技術を活用したセンサーソリューション開発の推進リーダーとして活躍。第一級陸上無線技術士。

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ハードウェアメーカーとIT系パートナーの間にある大きな溝

これまでのオプテックスのビジネスは「お客様にセンサーを売る」ところで完結していたので、とてもシンプルでした。ところがIoTになったことで、ゲートウェイ、通信、クラウド、データベース開発、そして場合よってはアプリ開発と、今までに比べてやることが大幅に増えます。「得意なことは得意なところに任せる」のであれば、そのあたりの開発はIT系パートナーにお願いしたいところです。しかしこれがなかなか難しいんですね。

我々は「ものづくり」の会社ですから、ソフトウェアの会社とは仕様の取り決めの仕方、要件定義のやり方から違うし、用語も違います。一例を挙げると、ハードウェアリリースの手順では、まず企画は会議から始まるので、「PoCってどういう手順にもとづいてやらないといけないのでしょうか」みたいな話が出てくるんです。うちの部署では今の流れにあわせるよう心掛けていますが、全社的にはやはり「ハードウェアはハードウェアの流儀」という部分があり、まだ大きな溝がある気がします。

すれ違いから来る「自前主義」への誘惑

かみ合わないことは他にもあって、IoTの議論をしていると、ITの方々はデバイス=ゲートウェイと捉えて、「IPでアクセスできるところがデバイスのエンド」とされているようで、そこに違和感があります。セキュリティシステムなどでも、インターフェイスはキーパッドからタッチパネルに変わってきていますが、最も重要なセンサーそのものはほとんど変わっていません。

スマホに加速度センサーやGPSセンサーがついているといっても、それを屋外に設置したり、水にそのまま浸けてしまうわけにはいかないですよね。センサーを作るというのはあくまでもそのためのハードウェアを作るということで、ケースひとつ作るにしても何千万円というお金をかけて金型を作らなくてはいけません。「3Dプリンターで簡単に作れるように」といっても、あれはあくまでも概念を形にするためのもので、実用強度を保つには問題が出てきます。中に入れる基板も必要だし、量産のためには生産ラインも組まなくちゃいけない。

先行投資と時間が必要で、企画してからリリースまでにどんなにがんばっても最短で半年、うちの場合通常なら1年はかかります。クラウドサービスのように「サクッと作ってリリースする」という感覚は、メーカーの人間から見るとなかなか理解できない。時間のものさしが全然違うんです。

品質に対する考え方も異なります。ものづくりをやってきた我々の品質マネジメントはISO9000シリーズに準拠していますので、ものづくり工程に合わせて話をしようとします。そうするとクラウドサービス開発においても「量産試作に相当する工程はどこか」とかそんな話になります。

また、センサーの世界では、世の中に出すときには品質は100%でなくてはいけないし、弊社の取り扱っている製品においては、「ネットワークを介してファームウェアアップデートで不具合を修正」とか考えられない。それはある意味当然で、「スマホのアップデート感覚で、インターネット接続されていない建物に設置されたセンサ―の不具合をファームウェアアップデートで修正」なんて現実には不可能ですよね。そういう意味でスマホのソフトウェアやクラウドのソフトウェアに要求される品質とは違うのですが、同じ感覚でパートナーに対して品質要求すると「過剰な要求」になってしまい、そこでトラブルになります。

そうした齟齬を避けようとすると、ともすれば「自前主義」に陥りそうになるというのが悩みです。でも、一番大事なのは顧客価値。新しい付加価値を提供して顧客満足を上げるためには、その開発に集中できる環境を作らなくてはいけません。そのためには、「得意なことは得意なところに任せる」ことが大切です。常に人を中心にしつつ、機械がどういう形で世の中の役に立てていくかということにフォーカスしていかなくてはいけないと思います。

オプテックス株式会社

センサーとIoTの本質は同じ

IoTという流れの中で、サービスをやらないわけではないですが、原点はあくまでもセンサーに着目して事業を展開していくというところには変わりはありません。とはいえ、ちょっと視点を変えてIoTを「インプットがあってアウトプットがある系」であるととらえると、系全体としてセンサーと同じことをやっている。「インプットとして細かいセンサーデータがたくさんあって、それをまとめて処理するCPUがあって、アウトプットはスマホの画面に出すのか機械の制御に出すのか」の違いだと考えると、センサーも処理系の一つに過ぎません。

IoTの「I」ってインターネット、すなわち通信じゃないですか。一方でハードウェアの中は通信のかたまりで、メモリアクセスのバスだって通信です。通信がインターネットになったら「IoT」という名前がついてもてはやされているけれど、概念としてはUSBと変わりないんです。30cmの距離をケーブルで接続していたものが、300㎞離れても見えるようになった、というだけの話ですよ。

日本ではあまり話題になっていませんが、re: invent2016で出てきたAWS Greengrassはすごい衝撃で、「クラウドがついに組み込み機器に入ってきた」とでも言えばいいでしょうか。これまでクラウドで動いていたAWS Lambdaが、ネットワークが切れてもローカルな機器の中で動くようになったんです。逆にクラウド屋さんからみると、「デバイスもクラウドの一部になった」ということかもしれませんね。

でも、「インプットがあってアウトプットがあって、フィードバックがある」という、原理原則に変わりはありません。処理がクラウドになっていたり、接続がインターネットになっていたりといった違いがあるだけです。

クラウドの勉強会に行くと「スマホのアプリを操作してRaspberry Piに接続したLEDが点灯しました!」って歓声が上がるのが不思議なんですよね。原理としてはポートを叩けば光る、っていうことと同じなので、別に珍しくもなんともないんですが、普段、完成されたデバイスを見ているとそれが新鮮に感じるんでしょうね。

重要なのは「インプットがどう処理されてアウトプットされるのか」

センサーの通信って元々はファクトリーオートメーションの概念から出てきたもので、1950年代から60年代頃まで遡るんですね。さらに遡ると、モールス信号だって「スイッチでリレーをオン/オフする1ビット伝送」のIoTじゃないかと思うんです。そのくらいまで遡れることをあえて今まだやっているのかなという気がします。

IoTソリューションも商品もサービスも同じことで、要望をヒアリングして、どうするかを考えて、おもてなしをして、その結果のフィードバックをいただいて変えていく。AIも全部原理原則はここに戻ってくるので、インターネットだから、クラウドだから、という以前に「インプットがどう処理されてアウトプットされるか」が大事なんだと思います。

その原点はやはり「世の中で困っていること」を解決することで、IoTはその一つの手段にすぎない。AIにしても、AIありきで考える人が多いけど、AIで効率化ができる部分とそれよりも人がやった方が早い部分があります。うちのセキュリティサービスの場合も、侵入者の検知はセンサーを使う方が効率的だけど、検知した後をどうAIで効率化するかを考えるよりは、駆けつける人を配置する方が早いんですよ。

IoTは新たな出会いの触媒

セーフメーター

IoTって触媒、媒体で、結果的に人と人の出会いを作ってくれるものなのかなと感じることがあります。「セーフメーター」をきっかけに全くこれまで接点の無かった業界、食品流通をされている方と知り合うきっかけになったように、異業種の方と話すことで自分の知らない世界を知ることができるのがIoTの可能性ではないでしょうか。

従来の売り切り型のモデルでは、実際に発注いただくのは施工会社さんだったり、海外向けの売れ筋商品は代理店が間に入って販売するので、エンドユーザーとの距離が遠い面がありましたが、新規事業に取り組む我々の部隊ではお客様の要望を聞いたり、アイデアを元に開発していくことが増えています。

実際のところ、IoTの実ビジネスが見えているのは、サービスやソリューションを作っているIT系の人たちよりも、エンドユーザーだと思います。先日参加した京セラコミュニケーションシステムさんのSigfoxのカンファレンスの会場では、ICT系のイベントの割にはスーツを着た方が多かったんです(笑)。ただ方々は話を聞くと具体的な案件を皆さんもたれてるんです。「新入社員の事故率を下げたい」というニーズは営業車両を1000台単位で持たれているような企業には切実ですし、セーフメーターのようなソリューションはとてもインパクトがあります。弊社の商談もエンドユーザーの方からの引き合いから進むことが多いです。

「新しいサービスをやりたい」といっても、真に新しいサービスというのはもう、なかなかないと思うんです。その中で最後に何が勝つかというと、既に販路を持っている人が、新しい考え方を取り入れて提案していくこと。エンドユーザーの顧客価値を持っていることが、これから大事だと思います。

うちの強みは、40年近くセンシング業界で商売させていただいていることと、グローバルのビジネスモデルを知っていることです。今まではハードウェア提供が中心でしたが、IoTに取り組むことでもう少し上のレイヤーを理解して、あらためてハードウェアを見直していくということがデバイスのメーカーにとって大事なことだと思います。やればやるほど、デバイスが大事だと思うし、これがIoTの原点だと思っています。

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