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なぜ技術者の起業はうまくいかないのか?

Why do engineers companies fail?

2016.10.31

Updated by Mayumi Tanimoto on 10月 31, 2016, 07:00 am JST

日本でも欧州でも、会社をやめたい、自分のビジネスをやりたいというエンジニアの方が少なくありません。飲み会に行くとそういう相談を受けることもあります。

技術のわからないマネージャ、営業の酷い見積もり、偉そうなプロジェクトマネージャ、事務仕事ばかり要求してくる監査屋、週末も働けというのに自分は休んでる幹部、無理を言ってくる顧客、トレーニングやカンファレンスに自由に行くことができないスケジュール、オフィスのパーティションの低さ、馬鹿らしいチームビルディングイベントやクリスマスパーティー、低能な同僚。

そういうものにうんざりしている人が多いのです。日本だと欧州よりも報酬が低い上に、労働負荷が凄まじいので、更にストレスを抱えている方が多いでしょう。

こういう悩みは日本だけではなく、英語圏でも同じです。以下は coding confessional というプログラマの裏掲示板サイトに掲載された告白です。

I like coding. But since I startet to work at my own company, most of my time is now spent in dealing with clients, sending emails, reporting progress and so on... I would love to go back to just code, and leave behind all of this bureaucracy, but I'm afraid of not being able to get a new job at someone's company.

俺はコーディングが好きなんだ。でも自分の会社で働き始めてから、俺の時間は客対応、メールの送信、進捗報告なんかばっかりだ。こういう事務作業は全部投げ捨てて、単にコーディングだけやってた頃に戻りたいよ。でもさ、誰かの会社で新しく雇ってもらえる自信がないんだよね。

この短い投稿にはビジネス、つまりテック業界でお金を生む本質が書かれています。

技術がなければサービスも製品も生まれないわけですが、顧客と交渉し、進捗を説明し、無理なスケジュールを調整し、障害を謝罪し、マスコミの記者に良い記事を書かせ、技術がわからない投資家にお金を出させるということができなければ、ビジネスは成り立ちません。

テック業界であっても相手にするのは人間なので、結局、お金を産む活動の大半は「どうやっってコミュニケーションをとったか」であるということです。

知能的には技術者に劣る営業マンの方が、昇進スピードが早く、ボーナスが多いのもこういう理由です。

技術者がせっせと最新動向を勉強している合間に、営業マンは幹部におべっかを使い、経理の女の子におみやげを渡し、クラス会に出て次の転職先を物色し、顧客のお気に入りになっています。

つまり、安定した地位を確保し、早く昇進し、高い報酬を得たいなら、バカげた飲み会に積極的に参加し、監査人に笑顔で対応し、頭の悪い幹部に対して幼稚園児がわかるレベルで技術を説明し、ワガママなユーザーにも丁寧に対応しなくてはならないといことです。

私がかつて一緒に仕事をしていた人々の中には、知能的、技術的に大変優れている人が大勢いましいた。しかし彼らの多くは、全く昇進しないばかりか、優秀なのに窓際部署にいたりします。

その原因は、コミュニケーションが苦手なので、社内のサポートスタッフに冷たく当たったり、上司や幹部に技術を丁寧に説明しなかったり、他の人々の立場を理解しなかったためです。

頭は良いのにとてももったいないことだと思いました。これは日本だけではなく、欧州や北米でも同じでした。

これはテック企業だけではなく大学や研究所の研究者も同じです。周囲に冷たい人や、独りよがりの人は、共同研究をしたいという人が寄ってこなかったり、企業が資金を出してくれないので、研究成果が上がりません。

一緒に仕事をしてくれる大学院生を怒らせてしまい、訴訟を起こされることもあります。

イギリスの大学の場合、論文を発表できないので首になってしまう人もいます。優秀な研究者はコミュニケーション能力も優れています。

自営だとコミュニケーションの重要度は更に高くなります。一人親方だと、趣味や人柄を十分理解してくれる同僚や、我慢強い上司に囲まれているわけではありませんし、魅力的な広報担当の女性や、言いくるめるのがうまいカスタマーサービスの人がいるわけではありません。

毎日同じことを繰り返し、しかし間違えなくやってくれるアドミの人もいません。顧客を怒らせてしまったら、お金が入ってこなくなります。

つまり、技術者が成功したいなら、まずは社内の周囲の人に常に感謝し、自分はなんでもできるわけではないことを自覚すること。そして、自営になるなら、コミュニケーションの部分は優秀な仲間に投げるか、自分ですべてやる覚悟をするということですね。

損している方多いのではないでしょうか。

高度なコミュニケーションはAIには不可能です。技術者の仕事はどんどん自動化されていきます。最新技術に追いつくもの大変です。

しかし幹部や顧客を言いくるめる口のうまさは、どうやっても自動化されません。
 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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