AI

マーク・アンドリーセン「イノベーションが足りない」(Voxインタビュー)

2016.10.13

Updated by Hayashi Sakawa on 10月 13, 2016, 06:09 am JST

マーク・アンドリーセン(ネットスケープ・ブラウザ開発者、ラウドクラウド共同創業者、現VC)が「人工知能(AI)は世界をこう変える」というテーマで、自分の目に見えるテクノロジー分野の現状や今後の見通しを語ったインタビュー記事が先ごろVoxという媒体に掲載されていた。

Venture capitalist Marc Andreessen explains how AI will change the world - Vox

英語の見出しから伺える通り、現在はベンチャーキャピタリストの立場にあるアンドリーセンが、その立場から投資家や一般の経営者など「ビジネスパーソン」に分類される人たちを意識して話をしているといった内容の記事だ。そのせいか特定分野の現場で活動してきている人たちにはたぶん物足りないかなと思える部分もあるが、一方でテクノロジー分野を取り巻く社会や経済分野の動きを俯瞰的に眺めた部分なども含まれており、全体として示唆に富む内容と感じた。今回はこの記事から特に印象に残った点を3つほど紹介する。

AI関連のベンチャー企業が活躍するのはこれから

アンドリーセンは2年ほど前まで、AI関連の分野は資力で勝る一部の大企業にしか手を出せない、あるいは勝ち目のない分野と考えていたという。そう思われた理由については、この分野の人材不足やプロジェクトの規模の大きさ・複雑さ、それに(ディープラーニング技術で必要とされる)膨大なデータを入手することの困難さなどを挙げている。

大企業間で優秀な人材の奪いが生じ、なかには「プロスポーツのスター選手並み」の報酬を出す大企業も出てきた(ベンチャー企業には到底たち打つできない)、アマゾンは「Echo」(音声認識機能付きのスピーカー)の開発に1500人のエンジニアを投入し4年がかりであの製品を完成させた、あるいはグーグルやフェイスブックのようにたくさんのデータを集める仕組みをぽっとでのベンチャーが簡単につくれるわけはないなどとアンドリーセンは話している。

そう考えていたアンドリーセンが考えを変えたのは、たとえばImageNetのようなデータベースやTensorFlowのような研究開発のツールが公開され、結果的にベンチャーでもAI関連の面白い技術開発に取り組める環境が整ってきたため。2年前なら1500人の人手が必要だったことがいまなら5人でできるようになっている、などともアンドリーセンは指摘している。

ほかに、かつて大企業で働いていた人材が外部に飛び出してベンチャーを立ち上げる例も出始めているとして、アンドリーセンはオットー(Otto)の名前を挙げている(グーグル自動運転車開発プロジェクトの主要メンバーらが今年初めに立ち上げたオットーを、その後ライドシェリングのウーバーが買収したのは以前にWWNでお伝えした通り)。

イノベーションが不足している分野がたくさんある

技術革新の影響で生産性が大幅に向上し、結果的に製品やサービスのコストが劇的に低下した分野があるいっぽうで、技術革新の不足からコストが上昇し続けている分野もあると指摘したアンドリーセンは、前者に含まれるものとしてテレビ(ハードウェア)、コンピュータ、メディア(コンテンツ)、それに食品などを挙げている。いっぽう後者については、医療、教育、建設、処方薬、高齢者介護、育児関連などの分野が含まれるとし、いまのところこれらの分野は政府が補助金を出して不足分を穴埋めしているけれど、市場が弾力性にかけるために、補助金の増加がそのまま価格上昇につながってしまっていると説明している。

後者に分類される各分野がどうしてそうなったか、という点については、市場の独占・寡占、政府の管理する(非効率な)市場、価格操作などいくつかの理由を示唆しているが、いずれにしても技術革新を通じて生産性を引き上げないと提供コストの上昇は止まらないとアンドリーセンは考えているようだ。裏を返せば、テクノロジー系ベンチャー(を含む新規参入組)にとってこれらの分野に大きな成功のチャンスが眠っている、ということだろう。

自動化が新しい雇用を生むこともある

AI-ロボットの普及の影響で、ホワイトカラーの専門職も含めたさまざまな仕事(雇用)が失われるのではないかという点について訊かれたアンドリーセンは、かならずしもそうなるとは限らないとして、ATMの普及が進んでも数が減らなかった米国の銀行窓口係の例を挙げている。

Voxの別の記事中にあるグラフからは、米国では1980年代にATMの普及が本格化し、90年代には急激に台数が増加したが、この間、窓口係の数はほぼ一定あるいはゆっくりと増え続けていたことが読み取れる。

この点に触れて、アンドリーセンは人手を使ってより高いレベルのサービスを提供することが銀行同士の競争で差別化の機会につながったという言い方をしている。仕事の中身自体は変わっても、窓口係という役割はなくならなかったということだろうか。

なお、この記事からリンクされている別の記事には、そのあたりの因果関係についてのもう少し詳しい説明が出ている。ジェームズ・ベッセン(James Bessen)という経済学者が調査してわかったことだそうだが、それによると、ATMが登場したことで以前より低コストで支店を構えることが可能になった銀行は、90年代にたくさんの新規店舗を開設した。また当初の目的は合理化、つまりATM導入で人件費を抑えながら店舗数を増やすことにあったが、その後来店した顧客に人間を通じてより付加価値の高いサービスを提供できそうなことが次第にわかってきた、ということのようだ。記事に付されたグラフをみると、窓口係の数が減少から増加に転じたのが90年代の終わりのことで、それまでは減少が続いていた、といったこともわかる。

それとは別に、アンドリーセンは「コンピュータの発達で医師の仕事の一部がなくなる」などと予想していたヴィノード・コスラ(サンマイクロシステムズ創業メンバーのひとり、現在はやはりVC)の発言に反論する形で、「簡単な症状の診断などはコンピューターがするようになるだろうが、同時に医師の仕事もより高度な内容のものへと変化し、また医師はより賢いコンピューターを使えるようになるため、結果的に報酬も高くなる」などと述べている。

なお、アンドリーセンは「既存の製品にAIを活用した機能を付加するというやり方はなかなかうまくいかない(大きな成功にはつながらない)」「AIの存在を前提に、新しいアーキテクチャーを考え出し、これまで不可能とみられていたまったく新しい種類の製品を生み出せる可能性がある」などとも語っているが、そうしたアプローチをとる実例としてはスカイディオ(Skydio)というドローン関連の投資先しか明かしていない。もっとよく知りたいという方は、Andreessen Horowitzの投資先リストにある名前を順番にみていくと、面白そうなベンチャーが見つかるかもしれない。

【その他の参照情報】
Grocery Prices Are Plunging - Bloomberg
Why history suggests that today's wage stagnation is temporary - Vox
Uber’s CEO doesn’t think self-driving cars will cost jobs, and he might be right - Vox

WirelessWire Weekly

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坂和 敏

オンラインニュース編集者。慶應義塾大学文学部卒。大手流通企業で社会人生活をスタート、その後複数のネット系ベンチャーの創業などに関わった後、現在はオンラインニュース編集者。関心の対象は、日本の社会と産業、テクノロジーと経済・社会の変化、メディア(コンテンツ)ビジネス全般。

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