WirelessWire News The Technology and Ecosystem of the IoT.

by Category

AI イメージ

10年後、AI全盛時代にどう生きる?100年前の事例から考える

So Long and Thanks for all the Fish

2016.10.20

Updated by Ryo Shimizu on October 20, 2016, 07:44 am UTC

 先日当欄でも告知したように、新刊「よくわかる人工知能」の出版記念イベントで品川女子学院の漆紫穂子校長先生との対談イベントを角川第一本社ビルで行いました。

 漆先生といえば、家業として継いだ品川女子学院を、中1の生徒5人という状況からわずか7年間で入学希望者数60倍、偏差値が20も上がったという驚異的な改革を成し遂げた教育者です(漆校長先生のブログ)。筆者は勝手に漆先生を「ベンチャー教育者」だと思っています。

 ふとした時に漆先生が「今自分が興味を持っているのは人工知能です」と仰っていたのを聞きつけ、それならばぜひ、人工知能について漆先生になんでも聞いていただいて、それにお答えする形でこれからの未来の人材育成について忌憚ない意見交換をしましょうということでこのイベントが立ち上がりました。

 漆先生は品女のPTAの中にもファンが多く、イベントも100名の枠があっという間に埋まり、同時中継のニコ生も述べ1万人以上が来場するなどおおいに盛り上がりました。

 このイベントでは、前半30分で筆者がAIについてのオーバービューと、AIを教育する際に気をつけるべきことを語りました。

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-10-20-6-33-15

 まず強調したのは、AIは初期状態が乱数から始まるため、必然的に全てのAIが個性を持っているということ。

 たとえば全く同じプログラムに全く同じデータで学習させても、それによってAIが獲得する「イメージ」は全く違います。

 ところがイメージがかなり違っても、あるときに「これは○○」という共通認識を持つようにすると、たとえ中身の表現状態が全然違っていても、互いに同じものと認識することができます。

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-10-20-6-34-54

 そしてこの状態は人間も同じではないか、と筆者は思うのです。

 fMRIという装置を使って、人間の脳活動を積極的に測るという実験が多数行われていますが、たとえば平仮名の「あ」を見た時の脳の反応すら、人によって千差万別であることが知られています。

 人間を含む高等生物の脳が、たった一対のDNA構造から自動生成されていることから分かる通り、生物の成長の過程を分子生物学的に考えると、そもそも乳児サイズまで成長する過程を遺伝子が完全にコントロールすることは不可能ですし、脳の初期状態は完全にランダム性に左右されると考えられます。

 したがって、たとえ遺伝子が全く同じ一卵性双生児であったとしても、初期状態が乱数である以上、仮に全く同じ人生を歩んでも脳神経の結合状態は異なるはずです。

 これがたとえ双子であっても完全に同一の人格にはならないひとつの理由でしょう。そして生物の成長過程がランダム性に強く作用されるということは奇しくも一卵性双生児が発生する確率は人種やホルモン分泌に関係なく0.4%であることが知られています。

 つまり人間を含む生物は産まれた瞬間から自動学習を始め、それぞれランダムな初期状態から環境を学習していき、他の高等生物と関わることで様々なことを学んでいくわけです。人間同士は言語によりより高度な相互理解が可能でしょうが、人間と非人間では言語による会話が不可能なため、ごく原始的なコミュニケーションに限定されます。

 ヨハネによる福音書にはこう書かれています。

In principio erat Verbum et Verbum erat apud Deum et Deus erat Verbum
はじめにことばがあった。ことばは神と共にあり、ことばは神であった

 もしかすると言葉を扱えるという事実が、人間をこれだけ高度な文明を築ける存在に押し上げていったのかもしれません。言葉がうまく扱えるということは大変重要なことで、たとえば魅力的な人物を意味するglamour(グラマー)という言葉は、文法を意味するgrammerに起源があるとも言われています。

 言葉という中間表現を媒介することで、たとえ全く異なる脳内表現であったとしても互いに理解しあうことができます。それと似た状態は、反対にお互いが理解できない状態も生む可能性があります。

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-10-20-6-48-49

 たとえ人間同士であっても「会話が噛み合わない状態」というものがあります。
 それは明確に言語化されていなかったり、ある言葉が相手の脳内の表現状態とは異なっていたりする場合、お互いに接触点が見つからず会話が成立しないということかもしれません。

 ところで、AIによって仕事が奪われてしまうかもしれない、という潜在的な恐怖心が、おそらく一線級の教育者である漆校長先生が「人工知能が発達すると仮定したら、子どもたちに今何を教えればいいのか」という興味を抱く理由のひとつではあるでしょう。

 実際に、歴史をひもとけば技術革新によって、とある仕事がなくなる、または大きな方針転換を余儀なくされる、ということは既に何度も起きています。

 たとえば写真です。
 最初の銀塩写真は19世紀初頭に発明されました。
 これが爆発的に普及したのは1888年にコダックがカメラを既製品として発売して以降と言われています。

 カメラの出現によって大きな路線変更を余儀なくされたのが芸術家たちです。
 それまでは、実景を見たまま描く写実主義が一般的でしたが、写実的な表現ならばカメラの方が得意である上に安価でさえあるという事実は、当時の芸術家たちをおおいに動揺させたようです。

 1881年うまれのパブロ・ピカソが26歳のとき、既に爆発的に普及しつつあったコダックカメラの写実表現に対抗して、いろいろな角度から見たものの形をひとつの画面に収めるキュビスムを提唱し、大きな路線転換を図ります。

 ピカソと親交のあったサルバドール・ダリも、若き日にキュビスムの影響を受けた芸術家であり、ダリはさらに1920年代にアンドレ・ブレトンが提唱した超現実主義(シュルレアリスム)を取り入れて独自の世界構築に成功します。

 ダリを代表とするシュルレアリスム絵画は、一見不可解かつ不合理な絵でありながら、細部は具象的・写実的に書き込まれるというバランスをとり、非常な人気を集めます。

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-10-20-7-04-05

 このダリの自画像は、細部を見るとピアノや時計、水牛の角などでびっしりと埋め尽くされていますが、全体として見るとたしかにダリの自画像になっているという不思議な、そして魅力的な絵画です。

 ところで去年からAI関連を追いかけている人は、このダリの自画像を見てピンと来るかもしれません。

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-10-20-7-05-54

 実は昨年、一時の話題を集めた、GoogleのDeepDreamも、まさしく同様の構造を持っているのです。

 ダリの自画像は、ダリの脳内にある「自分の顔」のそれぞれのパーツと、具象的なモチーフ(水牛の角、時計、ピアノなど)を組み合わせてひとつの作品として表現しているものです。

 GoogleのDeepDreamは、入力された画像に対し、畳み込みニューラル・ネットワークである程度の特徴を掴み取ったら、そこから過去に学習した、似たような部分的特徴を持つものを再現すると、こうした悪夢のような画像が得られます。

 そしてDeepDreamのようなものであっても、それぞれのAIの個性が出ることが分かっています。
 

 20世紀初頭に若き芸術家たちは写真という新しいテクノロジーに対抗して人間にしかできない芸術表現を追求しました。また一方で、写真がうまれたことで、写真自身を使って新しい芸術表現を試みる人々も生まれました。

 これはAIに関してもおそらくほとんど同じことが言えるのではないかと思います。

 ひとつは、AIという新技術にできないことを追求して、あくまで人間でいようとする考え方。これはこれで、写実主義に対するキュビスムやシュルレアリスムのような、新たな革命を生み出す可能性を秘めています。しかし、これを成し遂げるにはとんでもない才能が必要です。ピカソやダリが抽象絵画を指向したものの、現在の美術表現の主流はやはり写実主義です。これが漫画に発展すると、今度は写実的なものの描き方では到底追いつけないほどの表現に結びつきます。このデフォルメーションの技術や発想は、まだまだコンピュータの苦手なところです。

 もうひとつの方法は、多くの人々が写真器を手に入れ、それを使った個人的な表現手段を獲得したように、AIという新技術を自ら積極的に使いこなして世の中を渡っていく方法を身につけることです。

 これは21世紀にキュビスムやシュルレアリスムに匹敵する表現を発明するよりも遥かに手軽な方法です。

 これを筆写は「知能サイボーグ化」と呼びます。
 知能サイボーグはAIを自分の目的のために教育し、訓練し、自分の望む方向へ導くことが出来ます。そして自分の代わりにむしろAIに積極的に労働をさせます。

 知能サイボーグ化した人間と、生身の人間では、単純にいえばIQに1000倍程度の差がつくことになります。生身の人間は、たとえば東大卒であってもIQは120〜140程度と言われており(もちろん多々例外はあります)、通常の人間はIQ100ですからその知能の差は2割から4割程度です。大天才と言われるIQ200と比較しても、せいぜい2倍程度と考えられます。

 ところがAIは、簡単にIQを上げることが出来ます。特定の目的に限定して訓練すれば、人間よりも遥かに高速かつ効率的に知覚認識判断を行うことができるようになります。

 こうすると、知能サイボーグ化した人間と、生身の人間では思考や判断能力に於いて、勝負になりません。

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-10-20-7-21-51

 これはスマートフォンを持っている人と持っていない人でコミュニケーションのとれる頻度や情報への感度が大きく異なることと同じです。

 いずれほとんどの人が知能サイボーグ化するためにスマートフォンその他の機械を身につけるようになるでしょう。

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-10-20-7-23-10

 実はこれまで、コンピュータによって自らを知能サイボーグ化できたのはプログラマーだけでした。
 たとえば大量のデータの中から特定パターンのものだけ抜き出して別のデータを作る、といったことは、普通の人は手作業か、限りなく手作業近いやり方で行うしかありません。

 しかしプログラマーはプログラミング言語を通じて自分のやりたいことをコンピュータに指示し、コンピュータが自動処理することでその間に他の仕事をしたり、遊んだりすることが出来ました。

 同じ仕事をするのに、圧倒的に効率的に終えることができるので、プログラマーがプログラマーのいない領域に行くと、ほとんど神業とも思えるスピードでものごとが解決できます。

 たとえば、そのむかし、とある大企業の開くマーケットでコンテンツを売るためには、その大企業のなかで80人もの大人数が参加する会議を通過しなければならないという、謎の儀式がありました。

 その会議を通過する企画は1000に1つと言われており、各社の企画担当者はどうすればその会議を突破できるか毎月頭を悩ませていました。

 そしてその会議で求められることは、ほとんど不可能に近いことを不可能に近いスピードでやることでした。
 たとえばこんな具合です。

 「清水さん、午前中の会議で清水さんの企画を計りましたが、具体的なコンテンツの例が必要だそうです」

 「まだ作ってもないゲームの具体的な例ってなんですか?」

 「たとえば、アイテムとか、地形とか、モンスターとかのデータです。どうせ中身を精査する人はいないので、仮のものでいいんですけど・・・」

 「仮でいいんですか?どのくらいの分量が必要ですか?」

 「1cmくらいあればいいんじゃないかと・・・」

 筆写は絶句しました。作ってもないゲームのアイテムやらモンスターやらのデータを1cm・・・つまり数百ページぶん用意しなければならないのです。企画が通らなければそもそも開発に入れないので、なんという無茶を言ってくるんだと呆れました。これは各社の担当者も苦労するはずです。

 「わかりました。いつまでですか?」

 「午後1時から午後の会議に入りますので、12時45分くらいにはいただけると助かります」

 その会話の時点で時計を見ると12時15分くらいでした。
 わかりましたといって電話を切って、筆者は間髪入れずコンピュータに向かい、数千のアイテムとモンスターと地形の名前やパラメータ類諸々を自動生成するプログラムを書きました。データを生成するだけでなく、自動的に整形してそれっぽい企画書に仕上げてくれるというシロモノです。

 プログラムを書くのに20分くらい、プログラムが「仮の」のデータを大量生成するのに5分、それをメールし終わったときは12時40分を少し過ぎたくらいになっていました。

 こうしたやり方で、筆者は1000に1つと言われた企画会議をほぼ9割以上の打率で通過する企画マンでした。
 こんなことに意味があるのかと言われるかもしれませんが、それが当時のその会社の制度であり、その会議を通らないとまた翌月の会議に諮ることになるので一ヶ月ぶんの人件費をまるまる損してしまいます。これは会社にとっては死活問題だったというわけです。

 それに、会議を通すためだけのアイテムのデータなんてくだらなくて自分の頭を使うまでもないですよね?

 これも一種の知能サイボーグと言えます。

 以前、Excelを前に電卓を使って計算する人を見てビックリしたことがありますが、教本や教習所がないと正しく使いこなせないくらい、今のコンピュータは難しくなっているのです。今まではこうした知能サイボーグとの戦いの場はそう広くはありませんでした。しかし人工知能が身近になってくると、LINEを操るかのごとき簡単さで知能サイボーグ化できるようになるはずです。

 筆者が「人類プログラマー化計画」と銘打ったプロジェクトを推進しているのも、究極的には人類知的サイボーグ化が目標と言えるのかもしれません。

 そして現在、筆者の予想を遥かに上回るスピードで、人工知能のプログラミングが簡単になっています。
 この流れは、たぶんもう誰にも止められないでしょうね。

 そんなわけで筆者らも、本社である株式会社UEIを完全にAI専業の会社にして、その他の既存事業を全て子会社の株式会社UEIソリューションズに移譲しました。

 そして毎日のように新しいことが分かってくるんですよね。それが面白く、また同時に少し怖くもあります。
 現在、UEIでは人工知能に関連したコードを書くプログラマーと、人工知能事業の企画営業パーソンを募集中です。たぶん前職でそうした経験を持つ人は少ないでしょうから、基本的には未経験でも可能です。お問い合わせはinfo@uei.co.jpまで

 当日のイベントの様子は、ニコ生のタイムシフトでご覧いただけます。

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

清水 亮(しみず・りょう)

ユビキタスエンターテインメント代表取締役社長CEO。1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

RELATED TAG