変なホテル 写真提供:ハウステンボス株式会社

ハウステンボス株式会社 代表取締役社長 澤田秀雄氏(前編) 「1割は人間」と割り切って進化を加速する

ヒトとモノを巡る冒険 #005

2016.11.21

Updated by 特集:ヒトとモノを巡る冒険 on 11月 21, 2016, 11:52 am JST Sponsored by ユニアデックス株式会社

「モノ」「ヒト」「サービス」の3つの分野で先進的な取り組みをされている企業様へのインタビューを通し、IoTがもたらす未来とそこまでの道筋を描きだすことに挑戦する本特集『ヒトとモノを巡る冒険』。第5回目は世界初のロボットホテルとして注目を集める『変なホテル』をオープンさせた、ハウステンボス株式会社 代表取締役社長 澤田秀雄氏に、ユニアデックス株式会社 山平哲也が、お話をうかがいました。(構成:WirelessWire News編集部)

ハウステンボス株式会社 代表取締役社長 澤田秀雄氏

澤田 秀雄(さわだ・ひでお)
1951年大阪府生まれ。ドイツ・マインツ大学留学中に世界50カ国以上を旅行した経験を生かし、1980年に旅行代理店を設立。90年に社名をエイチ・アイ・エス(H.I.S)に変更し事業を成長させる。2010年ハウステンボス株式会社代表取締役社長に就任。

変化し、進化するホテルという意味をこめた『変なホテル』

山平:『変なホテル』という名前のインパクトがとても大きいのですが、どのような経緯でこの名前に決まっていったのでしょうか。

澤田:プロジェクトのスタートは4年前でした。最初はスマートハウスを作って、僕がそこに住んで、いろいろ実験をしていたんです。その頃は、まだ名前はありませんでした。でも実験だけじゃ面白くないから実用でやろうということになって、ロボットホテルの建設を計画したのが3年前です。1年間かけて生産性を上げる為にはどうしたらいいか、自動ロボット化をどうするのか、みんなで話し合いながら構想を練り、2年間かけて建設して、去年の7月からオープンしました。

でも、計画の途中で技術がどんどん変化していったんです。建設時には使えなかった技術でも、進化したらAIを使っていこう、IoTを使っていこう、新しい技術が出来たら積極的に取り入れていきましょうということになった。そこで、建設の途中でとりあえず名前を決めないと、となった時、「じゃあ『変なホテル』にしよう」ということになりました。「変化し、進化するホテル」という意味ですね。お客さんの要望でも変わりますし、時代に合わせて変化し、進化し、生産性やサービスクオリティを上げていきます。

▼『変なホテル』フロント
『変なホテル』フロント

山平:この名前は、社内の会議か何かで決まったんですか。

澤田:外部の優秀なデザイナーに依頼して、名前を考えて頂きました。いくつか提案していただいた中にこれがあったんです。まぁ、『変なホテル』って……、最初はためらいましたけど(笑)。

山平:戸惑いはあったんですね(笑)。

澤田:ありましたね(笑)。ホテルの名前って、だいたいみんなカッコいいじゃないですか。まぁ、だけど、いいんじゃないか、ということで(笑)。

山平:この名前はインパクトがかなりありますね。今日ハウステンボスに着いて、スタッフさん達に「どちらのホテルに行かれるんですか」と聞かれる度に、「変なホテルに行くんです」「変なホテルに向かってます」と繰り返し言っていたんですが……なかなか、口に出していて「変な気持ち」になりました(笑)。

「変なホテル」発表に際して、想定していなかった反応は何かありましたか。

澤田:実は世界では、ハウステンボスより『変なホテル』の方が知られているんです。このホテルを、世界のメディアが取り上げたんですよ。我々はこのホテルの反響がこんなに広がるとは、思っていませんでした。「新しいホテルがハウステンボスに出来て、ちょっと生産性が高くて、九州では皆さん知っていてくれる」くらいかなぁ、と想定していたのです。

ところが記者会見を初めて東京と九州同時にやったら、それがパッと広がっていった。で、広がったときに、我々が想定していたよりも、世界が注目したんですよ。これが一番意外でした。「なんで注目するのかな?」と思ったくらい(笑)。ロボットがフロント業務をやっているホテルというのは、おそらく、世界初なんですね。だから取り上げられたのでしょう。オープニングの時は、アメリカのABC、イギリスのBBC、ドイツ、中国、その他世界中の国々から50社くらいのテレビ局が来ました。それには驚きましたね。

泊まり心地をよくして、そこそこのサービスで、値段を下げる

山平:フロントロボットが注目されていますが、仕組みとして一番大変だったのもフロントですか?

澤田:フロントよりも、客室が大変でした。部屋にもいろんな工夫をしてるんですよ。ドアに顔認証を付けたり、空調が輻射パネルだったり。「ちゅーりーちゃん」というコンシェルジュロボットを入れてみたり…。

▼各客室ドアについている顔認証システム
各客室ドアについている顔認証システム

▼ちゅーりーちゃん
ちゅーりーちゃん

特にオープニングは結構大変でした。開始当初は7月、8月で夏だったのですが、非常に暑くなってきて、輻射パネルじゃ冷えない、とかね。最初は「省エネでやろう」というコンセプトで、部屋に冷蔵庫もテレビも置いていなかったんです。そうしたら泊まった人から「暑いのに冷蔵庫もない、テレビもない、楽しみが無いじゃないか」って言われてしまって。ご指摘を受けて、今はテレビも小さな冷蔵庫も入っています(笑)。変化してますから。

「世界一生産性の高いホテル」というオーダーに応えた、全く違うコンセプトの二棟

「世界一生産性の高いホテルを作りたい」というオーダーに対して、あなたなら、いったいどう応えるだろうか? その答えの「2つ」が、ここ『変なホテル』に建つイーストアームとウェストアームだ。東京大学生産技術研究所と鹿島建設へ依頼されたこの二棟、どちらも同じ72室の客室を抱える。どちらが本当に快適で、効率的なのか、生産性が高いのか。ハウステンボスでは効果を測り始めている。

▼『変なホテル』外観 イーストアーム 2015年7月オープン(建築:東京大学生産技術研究所) 写真提供:ハウステンボス株式会社
『変なホテル』外観 イーストアーム 2015年7月オープン(建築:東京大学生産技術研究所)

建築コストをどれだけ下げられるかは重要なポイントだった。イーストアームは軽量鉄骨、ウェストアームは木造という違いはあるものの、工期を短くする為に、いずれもプレハブリケーション工法(ある程度パーツを工場で組み上げておく簡単な工法)を採用。7ヶ月弱の期間で建てている。

▼『変なホテル』外観 ウェストアーム 2016年3月オープン(建築:鹿島建設) 写真提供:ハウステンボス株式会社
『変なホテル』外観 ウェストアーム 2016年3月オープン(建築:鹿島建設)

ウェストアームは木造だが、最新のCLT工法を取り入れ、木材の線維が直交するように重ねて強度を高めた部材を使っている。まだ建設時には建築基準法で不認可の工法だった為、大臣認定を受けて建てたそうだ。利用木材は100%が九州のスギ材。この工法が普及すれば、日本に豊富に眠っている森林資源活用の可能性も広がり、地元の林業の活性化に繋がるという構想から、鹿島建設が採用した(2016年4月にCLT関連の建築基準法告示が公布・施行されている)。

▼イーストアーム ポーターロボットと、スロープの様子
イーストアーム ポーターロボットと、スロープの様子

「ロボットが活躍するホテル」をコンセプトにしたロビー棟は、ロボットがスムーズに移動できるよう2階への移動はスロープでできるようになっている。また、空調についても設計の段階でひさしを長めに作り、太陽が高い夏は直射日光が入らないように、逆に太陽が低い冬場は日光が取り込めるようになど、工夫がされている。

▼イーストアーム客室輻射パネル
イーストアーム客室輻射パネル

輻射パネルは、ヨーロッパなどでよく見かけるセントラルヒーティングと同じ原理。管の中を水が通っており、夏は冷たく、冬は温められたものが循環している。即効性は無い為エアコンとのハイブリッド運用となっているが、快適な温度を保つことには効果があり、空調システム全体のランニングコストが2割程削減出来ているという。

エネルギーについては、ウェストアームで東芝の「水素エネルギーシステム」を採用している。太陽光発電の余分で水を分解し、水素を作り、貯めておく。夜や冬場など太陽光に乏しい時期は、その溜まった水素で電気を起こし利用電力を賄っており、棟の一部は完全に電気を自給自足しているそうだ。将来役立ちそうな最新技術を積極的に導入し検証しているようすを、ここでは見ることができる。

山平:オープンから1年経って、いろいろな課題を解決されたと思いますが、これはちょっと大変だったというのはありますか。

澤田:あまり無いですね。課題は、お客様のアンケートを見て、1つずつ潰していきます。あ、泊まったら、アンケート書いていってくださいね。今度来た時、良くなっていますから。お客様にはそれぞれ嗜好があって「安く泊まれたらいい」というお客様もいれば、「安く泊まれても面白くなかったらダメ」というお客様もいらっしゃる。さまざまな意見に全て対応することはできませんが、出来る限り改良していくんです。そうすると満足度が上がっていきます。今の『変なホテル』は、まだ僕の基準では60点になってませんけど、いずれこれを70点、80点にしていきたいなと思ってます。

山平:点数がまだ少し足りないと感じているのは、サービスのところや、おもてなしのところだったりするのでしょうか。

澤田:ホテルというのは、3つの要素があると思っています。1つ目は泊まり心地がいいこと。「泊まり心地」というのは、ベッドがいいとか、枕がいいとか、掃除がキチッとされてるとか、そういうことですね。2つ目は値段。『変なホテル』は20何平米の部屋だから、60平米の部屋と比べたらあんまり高くは出来ないですよね。そしてもう1つが、おもてなしとか、サービスクオリティと言われるものです。

5つ星ホテルである為には、いいレストランが揃っているとか、マッサージ、エステサロン、プールが付いてるとか、最低限の要素があるでしょう。我々は5つ星は目指さず、3つ星、4つ星で満足のいくホテルにしていきたいと思ってます。いかに泊まり心地をよくして、そこそこのサービスで、そして値段を下げるという挑戦。あと、どのように楽しくやっていけるかというところですね。

山平:なるほど。従来のホテルで提供されているようなサービス、おもてなしは、どのように面白くなっていくんでしょうか。ロボットならではとか、AIならではの、人間に出来ないようなサービスやおもてなしが新たに姿を現すのではと、ついつい期待してしまうのですが。

澤田:できたらロボットでやりたいですね。普通、人間がヒューマンコミュニケーションでやっているサービスを、今後どうやって満足度を上げていけるか、徐々に研究しています。例えば、フロントの恐竜ロボットが、顔をパッと見た瞬間に「お兄さん、カッコいいですね」と話しかけてきたら嬉しいですよね(笑)。「おっ、恐竜が俺のことカッコいいっていってる」って、おもてなしの雰囲気するじゃないですか。

音声認識のAIがもっと発達する必要がありますので、我々はその実験に取り組みつつあります。あと、お客様の顔の表情をロボットの目のセンサーが読み取って、クラウドにコンピュータが繋がって、AIに「こういう時はこういうふうに答えよう」って学習させておく。そうすれば、お客様の顔がちょっと困っていたら「どうしたんですか」って恐竜が話しかけるとか、顔がニコニコしたら「今日は楽しそうですね」「今日はなんか楽しいことおありですか」とかできますよね。なんか楽しいじゃないですか、恐竜がそんなふうに喋ってたら(笑)。これも、もうすぐできるようになると思います。

ロボット活用は、ハード、ソフト、運用の3側面で考えると上手くいく

山平:課題はアンケートを見ながらつぶしているということですが、新しく取り組まれる様々なアイディアは、どういう方々が出しているのでしょうか。

澤田:外部チームも合わせて、みんなで、どうしたらもっと生産性が上がるか、どうしたらもっとお客様のサービスとかクオリティが上げられるかってことを、いろいろ考えています。

例えばうちの場内でも、ゴミ箱にはセンサーが付いていて、9割程度までゴミが入ったらセンサーが働くので、回収に行く。そうすれば省力化になりますよね。IoTみたいなものですね。(ホテルの中でも)あまりお客様が宿泊されていなくて、ゴミ箱を使ってなかったら「ここはゴミ箱いらないんじゃないか」と検討するとか、いろんな意味で進化できますよね。

山平:そうすると、いろんな作業のすべてをロボットでこなすということではなく、運用の一部に人が入っているということですね。

澤田:ロボットに100%やらせようとすると、まだあと10年、15年待たないとダメなんですよ。でも、ロボットにやらせるのは8割か9割でいい。『変なホテル』でも、フロントで答えられないことがあったり、困った時はちゃんと連絡出来るように、バックヤードでキチッと人がチェック、管理しています。9割はロボットがやって、1割は人間にしたら、10人必要だったスタッフが1人でいいということになりますから、充分生産性は上がっています。

窓拭きロボットや芝刈るロボットも、あれで9割は出来るんですよ。だけどどうしても端の方に残ったところは人がやるんですね。9割はロボットがやって、1割は人間がやればいいんです。そう考えると、進化の過程が早くなるんですね。全部やらせようとすると進化が遅くなっちゃう。今9割なものが、将来的には95%、100%になるかもわからないですけど。

▼窓拭きロボット
窓拭きロボット

▼芝刈りロボット
芝刈りロボット

山平:「人間がやらなきゃいけない1割」と「ロボットでもできる9割」を見極めるには、コツのようなものがあるのでしょうか。

澤田:掃除でしたら隅の方とか、ちょっとした死角は、人間が目で見ないと出来ませんね。クロークも、一定の大きさの荷物は出来ますけど、それより大きな荷物はどうするのか、という問題は出てきます。そういう時に人がケアしなきゃいけないという問題が出てきます。

▼クロークロボット
クロークロボット

山平:少し複雑なものとか、標準からちょっと外れてるものをどうするかということ。

澤田:そう。ただ我々も、お客さんからどういう質問が多かったか全部チェックして、その中でも多い質問はロボットが答えられるようにしていっています。

山平:いま人間がこなしていることでも、徐々にロボットにやらせるようにしていくんですね。

澤田:そうです。そうすると徐々に生産性が上がってきますから。

山平:「ロボットを入れて現場のオペレーションを効率化していきましょう」という取り組みは、どういうところから始めたら良いと思われますか。

澤田:うーん、やっぱり簡単なことからでしょうね。複雑なことは時間がかかりますし、それ相応の頭脳も必要ですから、簡単なところからやって行くほうが早いですよね。最初は、トライするとほとんど問題があると思います。使いづらいとか、誤認証するとか。だけど「何が問題か」ということは分かるわけですから、それを直していけばいいだけです。問題に対応出来る技術はどこにあるのか世界中から探してきて、それを導入するとか、やり方はいろいろあります。

だいたいロボットの性能は「ハードウェア」「ソフトウェア」「運用」、この3つで決まるんですよ。この3つをうまくやればいいのに、ハードだけに頼るとか、ソフトだけに頼るとか、運用で100%やらせようとするから、できない。完璧というのはなかなかできないけど、残った1割は人間がやればいいんですよ。

(後編に続きます)

山平 哲也

IoTの実現に向けたユニアデックスの取り組みはこちらをご覧下さい。

【聞き手】山平 哲也
ユニアデックス株式会社 エクセレントサービス創生本部 プロダクト&サービス部 IoTビジネス開発室長
企業向けシステムエンジニアとしてキャリアをスタートし、インターネット普及に伴いIPネットワーキング技術などを担当。2001年に米国シリコンバレーにおける拠点立ち上げ。2007年からICTソリューションのマーケティング企画部門を経て、現在、IoTを中心としたエコシステム構築とビジネス創造を推進している。
山平哲也氏によるインタビュー“あとがき”は、ユニアデックスのオウンドメディア「NexTalk」をご覧ください。

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ユニアデックスは、IoTで新たな価値を想像すべくさまざまな取り組みを進めています。本特集では、エクセレントサービス創⽣生本部 プロダクト&サービス部 IoT ビジネス開発室⻑である山平哲也が、「モノ」「ヒト」「サービス」の 3 つの分野で先進的な取り組みをされている企業様へのインタビューを通し、IoTがもたらす未来と、そこへ至る道筋を描きだすことに挑戦します。(提供:ユニアデックス株式会社

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