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IoT、スマートフォークとトランプ大統領当選の関係

IoT, Smart Folk, President Trump

2016.11.25

Updated by Mayumi Tanimoto on November 25, 2016, 07:25 am JST

トランプ氏アメリカ大統領当選がまだまだ驚かれていますが、私の一番の関心は、UFO情報の開示が遅れたことと、トランプカジノでのギャンブルが、米国民全員必須の活動になって違反者は牢獄に打ち込まれるかどうかです。

今回の選挙は、大手メディアや世論調査会社の大半が予測を外しましたが、この現実は、ビックデータに感しても、さらにIoTに関しても重大な示唆を含んでいます。

いくらマシンが発達し、データの「量」が増えたとしても、重要なのはデータの質の精査、分析モデル設計、結果の解釈であり、それらはすべて統計学の深い理解がある人間がやらなければならない、ということです。

選挙に限らず、世論調査の多くは、データの収集を昼間の固定電話への電話や、対象者への聞き取り調査に頼っています。固定電話対象の理由は、アメリカに限らず他の国でも携帯電話番号へプログラムを使ってランダムに発信することが禁止されていたり、携帯電話の番号とユーザのプロファイルの入手が難しいからです。

2004年にはアメリカの消費者の6%ぐらいが携帯電話のみに依存していましたが、2014年には60%に達しています。多くの人が固定電話すら持っていないのに、意見を拾うには固定電話に頼っているわけです。想像通り、昼間かかってくる調査の電話に答える人は、老人や暇でしょうがない在宅勤務者です。

さらに英語圏ではここ10年ばかりの間に、テレマーケティングセールスが増えて、インドやモルドバから、ブロードバンドや信託投資を買えといってくる電話がかかってくるようになったので、コーラーIDをみて知らない番号だったら電話を取らない人も増えています。(私もそうしてますが)

その結果かつては70%、80%もあった回答率が今では5−8%もあれば良い方だなんて事が増えています。これは学術論文用の調査でも同じです。

日本政府の世論調査は回答率が55%なんてものがありますが、うちの家人(統計家)はこれをみて「羨ましいな」とため息を付いています。

さらに電話だと匿名性のバリヤが若干薄くなるので、本音を隠して答える場合もあります。アメリカでは調査員に差別主義者だと思われたくない隠れトランプ支持者が多数いたわけです。これはイギリスのEU離脱に関しても同じでした。

ビックデータを表層的に理解している人は、なにか凄いシステムにデータさえ入れれば素晴らしい分析が可能だと誤解していますが、こういう例を見ていると、データの収集方法を考えるのも、質を審査するのも人間ですから、マシンが素晴らしくても意味がなということがよくわかります。

これはIoTにとっても重要で、いくら大量にデータ収集できるようになっても、収集方法やデータを精査するのは最終的には人間ですから、量は増えてもゴミだらけということもあります。例えばテレビの前のユーザーの物理的行動を大量に集めることができても、それは猫や2歳時の動きかもしれません。

スマートフォークが動く回数を回収できたとしても、それは持ち主の34歳会計士の行動履歴ではなく、オフィスでこっそりフォークを振り回してみた総務部の暇人かもしれません。彼は会計士が嫌いなので、毎日こっそりとフォークを振り回しているのです。そもそもフォークを何回動かしたは一体何の役に立ってくれるのか、売っている方もよくわかっていないかもしれませんし、おそらくそれは知りたくもないことでしょう。

統計専門家の中にはIoTに興奮していない人がいる理由もわかります。彼らの中にはビックデータを鼻で笑う人も少なくないのです。なぜならデータの質を精査できる人、妥当なモデルを組める人は多くはなく、まともな統計専門家はスマートフォークについて考えたくありませんし、折りたたみ自転車にも、キノアにも、ヨガにも興味がなく、リスク回避型の保守的な人が多いので、トイレの便座をネットに繋ぎたくないからです。

トランプ氏が当選したことは驚きでしたが、私にとってのより大きな驚きは、大手メディアや学識専門家すら、予想の大半が大外れした理由を議論していないことです。

彼らのデスクにはスマートフォークとスマート水筒が並び、IoTセントラルヒーティングは毎月壊れるのに配管工は時間通りには現れず、スマートメーターのエラーのために電気代200万円を請求されているに違いありません。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。