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地域課題ドリブンのIoTが「受け身」の自治体を変えるかもしれない、大分県IoT推進ラボの可能性

2017.06.29

Updated by Asako Itagaki on 6月 29, 2017, 07:00 am JST

2016年度より、経済産業省とIoT推進ラボは、地方での取り組みを通じたIoTビジネス創出を支援する目的とした「地方版IoT推進ラボ」の選定を行っている。2016年6月に開始された第1回募集では29の地域、翌年3月の第2回選定では24の地域が認定された。その中でも大分県は、IoT推進ラボを中核とする、大分県版第4次産業革命〝OITA4.0〟構想を発表。IoTやAI、ロボットなどの先進技術を取り込み、地域課題を解決し県産業に新たな活力を想像することを目指している。

縦割りのかべを払拭し、県内産業の活力創出を

大分県は製鉄業と石油化学コンビナートの両方を抱える大分臨海工業地帯、テクノポリス指定以来の半導体産業の集積、ダイハツの立地に伴う自動車産業の集積などによる「バランスのとれた工業県」として産業基盤を築いてきた。また、「日本一の温泉県」として、観光も主要産業の一つである。

だがこれらの産業も産業構造の変化や国際競争により、変化への対応を余儀なくされている。地場中小企業も、これまでの大企業相手の取引だけでなく、自ら新事業や新分野開拓に取り組む必要に迫られている。

もう一つの大きな課題となるのが急激な人口減少への対応だ。現状117万人の県人口が2040年には100万人を割り、2080年には半減するという推計結果もある。既に人材確保は難しい状況となっており、生産性の向上が製造業・サービス業を問わず大きな課題となっている。農林水産業従事者の高齢化と後継者不足も深刻だ。

miyamotoこうした状況下、IoTによる第4次産業革命の流れに乗ることで、これまで築いた産業基盤をベースに、新たな技術を取り込んだプロジェクト創出や製品・サービス開発を通して県内産業の活力創出を目指すというのが〝OITA4.0〟の目的だ。「行政は縦割りになりがちと批判を受けますが、それを払拭したい。さまざまな部局とうまく連携しながら、情報通信産業の振興のみならず、製造業、農林水産業、サービス業などさまざまな県内企業の良いところを引き出し、新たな製品やサービスを作っていきたいと考えています」と、〝OITA4.0〟を主管する大分県商工労働部情報政策課IT戦略推進班主幹(総括)の宮本賢一氏(写真)は語る。

「IoT推進ラボ」を核にした第4次産業革命を目指す

〝OITA4.0〟の核となるのが「IoT推進ラボ」だ。県内に顕在化した地域の課題(ニーズ)とIoT、ロボット、センサーなどの技術やアイデア(シーズ)をマッチングしてプロジェクトを創出する。県民生活や企業活動への貢献度が大きく、ビジネスとしても有望なプロジェクトには、メンターによる人的支援や、補助金による支援を行う。

▼〝OITA 4.0〟の全体像
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「我々商工労働部の最大の使命は地場企業の振興ですが、IoTの取り組みには先進技術を取り込む必要があり、県内企業の力だけでは完結できません。外の力を借りるために、県外の専門的知見と人脈を持つ方に、適宜アドバイスをいただき、個別プロジェクトをサポートしていただく仕組みを用意しました」(宮本氏)〝OITA4.0〟など産業政策への助言を行う商工労働部の戦略アドバイザーには、SCSK株式会社R&Dセンター・NPO法人雲援隊理事の吉田柳太郎氏、株式会社ウフル執行役員IoTイノベーションセンターGMの杉山恒司氏、経済産業省OBで情報サービス産業協会の副会長なども務めた河野憲裕氏、産業技術総合研究所九州センター所長代理の平井寿敏氏が就任する。

もう一つの柱がドローンだ。県内にその研究開発を行える企業が複数存在しており、これらの企業が加入し、6月13日に県産業科学技術センター内に設立された大分県ドローン協議会が中心となって、産業用ドローン開発を進める。農林水産業、土木建築業などのユーザーの意見を吸い上げ、機体や付属部品、関連サービスの開発を目指す。

▼大分県ドローン協議会
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空を飛ぶものだけでなく、陸上や水中を動くドローンの開発や、開発した機体を活用するサービス開発、操縦する人材の育成も地場企業で取り組んでいく。「インフラ点検や測量などの実験は既にはじまっており、今後はより現場の可能性を掘り下げていきたい」(宮本氏)とする。

これらのプロジェクトを支える基盤づくりとして、IT人材育成と企業誘致にも取り組む。IT人材育成施策の特徴の1つが、情報セキュリティに着目した取組だ。都道府県レベルでは初めてIPAとの間に「情報セキュリティ強化」、「ITの利活用促進と人材育成」を内容とする連携協定を締結した。接続デバイスの数と種類が増えるIoTでは、セキュリティに対する脅威も増大するため、IoTの普及と安心・安全の両立のためには県内自治体や企業における情報セキュリティ強化とそれにあたる人材の育成が不可欠であるとの判断だ。「情報セキュリティマネジメント合格者1000名・情報処理安全確保支援士資格登録者100名」という数値目標を掲げ、県内企業のサイバー攻撃に対する不安を緩和しIoT化を促進すると同時に、県内企業が開発する製品・サービスへの信頼性を高めることを期待する。

企業誘致については、サテライトオフィス整備推進事業として、廃校などの既存施設を活かしてサテライトオフィスを整備する市町村に対する助成金の交付や、県内に進出するBPO、コールセンター、情報関連産業の企業に対して、一定数以上の新規地元雇用などを条件にした補助を行う。

「IT産業と製造業など異なる産業の連携でよいサービスができて、使い手である県民や県内企業のみなさんのプラスになるという展開になれば良いと思うし、さらには多くの取り組みを大分の元気・活力として発信することで、『大分はおもしろそうだ』と県外の企業に感じていただきたい。そして、『大分で事業をやってみようか』という流れを作り、県内企業と県外企業にもつなげていきたいと考えています」(宮本氏)

大分IoTの特徴は「とにかくデータを集める」から始めること

6月12日には、地域課題解決型IoTプロジェクト創出に向けた補助事業説明会およびアイデアソンが開催された。大分県下の自治体や地元企業などから総勢70名が7つのグループに分かれ、行政担当職員と民間企業が一緒に地域振興を考える。

「大分県のIoT推進ラボの取組の特徴は、『とにかくデータを集める』から始めること」と宮本氏は説明する。「IoTだからといって、最初からネットワークにつなぐということにこだわるのは、仕組みがない中小工場や自治体などにはハードルが高いのではないかと感じます。まずはさまざまな分野で日常発生しているデータを集めるプロジェクトを立ち上げ、そのデータが役立つということを実感していただきたい。具体的な効果がある事例を身近に感じていただき、次のステップとして『そのデータを共有するといいことがあるかもしれない』という流れを作り、そのためにどんなインフラを用意すればデータ共有がスムーズにできるかを考えてネットワークを整備していくという手順ですすめるのがよいのではないかと考えています」(宮本氏)

furuya-1この日のアイデアソン実施に先立ち県内の先進事例として紹介されたのは、県内のワイナリー「安心院(あじむ)葡萄酒工房」の事例だ(写真は安心院葡萄酒工房 工房長の古屋浩二氏)。同工房では2016年に始まった「IoWプロジェクト」の実証フィールドとして、同社のブドウ畑にセンサーを設置しデータを収集している。IoWプロジェクトについては、詳しくはこちら をご覧いただきたいが、現在では15ヶ月分の照度、気温、湿度、赤外線などのデータと紐づいたぶどうの生育状況を撮影した画像データが、塩尻市のクラウドに蓄積されている。これらのデータを活用することで、適切な収穫時期を予測したり、病害虫が発生する条件を分析して農薬使用を最適化するような取り組みも始まっている。

▼安心院葡萄酒工房では、支柱に上向けに取り付けたセンサーで照度、温度、湿度、赤外線を24時間測定。
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▼カメラはゲートウェイのボックスに同居しており、定期的に画像データをクラウドに送信する。太陽光パネルでエネルギーを蓄積し、動作する。
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▼このシーズン、ブドウはまだ育ち始めたばかり。間引きや農薬散布、収穫などの農作業の時期もデータにもとづき最適化することで、収量と品質の向上をはかる。
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「地域課題解決の主役は現場の行政職員」

2時間のアイデアソンの後、「農家の技術継承のためのデータを収集と蓄積」「防災のための測量データや地滑り観測のためのセンサーデータのオープンデータ化」「センサーによる独居老人の見守り」「地域コミュニティ活性化を目指した地域貢献ポイントの導入」などのアイデアが発表された。グループによっては、すぐにでも事業化に向けた協力を進めたいという動きもあり、新たなプロジェクトの種はしっかりと蒔かれたようだ。

▼アイデアソンでは活発な議論が交わされた
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▼「1組3分」厳守で行われたプレゼンテーション
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今回のアイデアソンの特徴は、基礎自治体の行政職員が参加者のおおよそ6割を占めていたこと。しかも部署は産業振興や医療、福祉など、いわゆる情報政策関連部門以外の、現場を見ている部門が半数を占めており、自身が普段直面している「農林水産業」「防災」「商工業」「福祉・保健・医療」といった地域課題をテーマに取り組んだ。その点については「狙い」があったことが、この日の司会進行を務めた大分県商工労働部情報政策課の佐藤明夫主査から、アイデアソンの最後に明かされた。

「IoTというのは情報政策課や企画課が担当、ではなく、市町村で地域課題にあたられている皆さんも担当になります。県が立ち上げたIoT推進ラボは、大分県内の地域課題を解決するプロジェクトを多く生み出すための機関ですが、地域課題の解決にIoTを使うかどうかは玄関になる皆さんの力が必要です。県としては補助事業を今年度から準備するので、地域の課題を県の情報政策課に寄せていただきたい」(佐藤氏)

国の政策に基づき地方自治体で行われる各種施策は、ともすれば「受け身の支援」となりがちだ。佐藤氏のメッセージは、大分県IoT推進ラボが「地域の切実な課題を解決する、本気のプロジェクト」だけを支援するという強烈な宣言ではないだろうか。

さらに言えば、「受け身では何も解決できない」というのはIoTに限った話ではない。IoTプロジェクトへの参画を通して行政の現場が本気で地域課題に取り組む経験を積むことで、自治体の問題への取り組み方が根本的に変わる、草の根からの行政改革につながる可能性を秘めてるいと筆者は感じた。

6月29日には、「IoT推進ラボキックオフフォーラム」が開催され、7月7日には平成29年度おおいたIoTプロジェクト推進事業の公募が締め切られる。IoTを通して大分県がどう変わるのか、注目していきたい。

【関連情報】
〝OITA 4.0
大分県IoT推進ラボ – 地方版IoT推進ラボ
大分県ドローン協議会
安心院葡萄酒工房

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。