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センシング技術を取り入れたウェアラブル演出はエンターティンメントを変えるか?

2016.12.12

Updated by Yuko Nonoshita on December 12, 2016, 06:25 am JST

ウェアラブル技術を取り入れた新劇「YOUPLAY」に挑戦する演出家のウォーリー木下氏と、ウェアラブル演出を舞台裏から技術で支えた神戸大学の寺田努准教授が、テクノロジーがライブやエンターティンメントにもたらす新しい可能性について語り合った。

▼演出家のウォーリー木下氏(右)と神戸大学の寺田努准教授のトークセッションは神戸市主催の「ウェアラブルって何だ? フェスティバル」という「神戸ITフェスティバル 2016」の併催イベントで行われた。

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テクノロジーを使えばで誰でも役者になれる?!

プロジェクションマッピングやメディアアートを取り入れた、舞台演出用のセンサーウェアラブルの開発に10年以上前から取り組んできた寺田氏は、神戸大学在籍時に劇団を立ち上げた木下氏とタッグを組んで様々な演出を行ってきた。木下氏が代表を務めるオリジナルテンポは「俳優があまりいなくて技術者ばっかり」という体制で、HMDでサブ情報が観られる「東京パフォーマンスドール」のライブや、2.5次元ミュージカルと呼ばれるハイパープロジェクション演劇「ハイキュー」の演出を手掛け、注目されている。

テクノロジーを取り入れたライブ演出は、パフュームやEXILEらアーティストや、リオデジャネイロオリンピックの閉会式でも採用されたことで認知度は上がっているものの、海外ほどはメジャーではない。その理由の一つとして、日本では演劇に対する敷居が高く、観る機会が限られていることを両氏はあげている。

▼テクノロジーを取り入れた演出は徐々に増えているが、日本では演劇そのものを観る機会が少ないという。
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そうした状況に対し、3年前に大阪で開催された「YOUPLAY」は、観客自身が舞台に立つインプロビゼーション(即興劇)で、「演劇の基本である”ごっこ遊び”をゲームのように楽しむことで演劇の敷居を下げる」ことを目指したという。ヘルメットをはじめ各種センサーを着けても違和感がないよう、宇宙空間にいるスペースレンジャーたちの物語を設定。「ウェアラブルで舞台のどこにいてもスポットライトが当たるようにしたり、動きに合わせて音や投影されるアニメーションが変わるなど、役に没頭できる仕掛けを取り入れた」(木下氏)。

▼ウェアラブル演出劇「スペースレンジャーの不思議な惑星」は半年間公演が続くほど人気を集めた。
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心の動きに注目したセンシング開発が演出の可能性を拡げる

「全くの素人が即興劇を楽しめるのか?」という心配は杞憂で、役者の足もとに投影される酸素インジケーターの表示を活動量計の数値に合わせて減るようにしたところ、メモリがゼロになった途端死ぬ演技をする人がいるなど、驚くほどみんな役者になりきっていたという。木下氏は「YOUPLAYは演者が役に没頭し、錯覚させることを狙ったもので、演出というよりデザインするという考え方をした。プロの役者には邪魔かもしれないが、創造性を邪魔しないITの組み合わせ方は考えられると思った」とし、「今度は学校や廃虚などの広い場所で、1回あたりの参加者を増やしてやってみたい」と話す。

今後のウェアラブル演出の可能性として寺田氏は、「身体運動と感情の関連が研究されているが、たとえば恐怖を感じるより先にカラダの毛が逆立つといった反応をセンサーで読み取り、それを演出につなげられないか」とし、センシング開発は心理学との関わりも必要になっていることから、「笑う時のおなかの動きを再現すると笑いたくなるという使い方もありかも」と話す。木下氏は「満員電車に乗るのが嫌ではなくなる演出を考えるだけでも意義があり、そういうのをやってみたい」と言い、これからは舞台以外でも新しい挑戦を見せてくれるかもしれない。

▼寺田氏らの研究室が開発したコスチュームはダンサーの動きを邪魔せず400個のLEDを自在に光らせる技術で注目されている。
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※修正履歴
12/19 21:00 ウォーリー木下氏の劇団名をSunday「オリジナルテンポ」としておりましたが、正しくはオリジナルテンポでした。その他、一部文章の修正も含め、お詫びして訂正いたします。(本文は修正済み)

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野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。

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