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モータージャーナリスト 清水和夫氏

つながるクルマと自動運転が社会イノベーションをもたらす――モータージャーナリスト 清水和夫氏

2017.11.28

Updated by Naohisa Iwamoto on November 28, 2017, 14:27 pm JST

東京モーターショー シンポジウム2017では、セキュアIoTプラットフォーム協議会が主催した「安心・安全につながる車社会の実現を目指して ~コネクテッドカーのセキュリティを考える~」シンポジウムが開催された。シンポジウムの基調講演には、モータージャーナリストで内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システム推進委員会の構成員などを務める清水和夫氏が登壇。クルマのセーフティとセキュリティ、そして社会のイノベーションへの動向と今後について講演した。

自動運転の時代、そしてクルマやインフラがつながる「コネクテッド」の時代の、セキュリティとはどのようなものか。モータージャーナリストとして多くの取材をしてきた立場と、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システム推進委員会の構成員などの立場という異なる側面を持つ私の視点から説明してみたい。

様々なモノがインターネットにつながるIoTは、経済成長のカギを握ると言われている。ある調査では、2020年には6兆ドルの経済効果があり、500億のデバイスがインターネットにつながり、2億5000万台がコネクテッドカーになるという。クルマがネットワークにつながったときに、何が起こるか考えてみたい。

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クルマ同士がつながることで得られるベネフィットは、2011年3月の東日本大震災で効果が確認された。ホンダはインターナビと呼ぶ通信ナビゲーションシステムで、自動車の位置情報などのプローブ情報を収集し、交通情報や渋滞予測などのサービスに活用していた。そして震災の日、「ホンダのクルマなら、クルマ同士がつながっている」という連絡がユーザーから入った。災害時にどこが通れるか、情報を提供できるのではないかと被災地の情報を確認したところ、リアルタイムにクルマがどこで戻ったかが手に取るように分かった。この情報はインターネット事業者と協議して、災害通行マップとして提供された。このとき、日本道路交通情報センター(JARTIC)のインフラ情報はダウンしていた。国の情報、道路側のシステムが倒れても、クルマ同士がつながることで得られる情報が役立つ、初めての例だったと考えている。

このように、すでに情報は多くの種類があり、国や民間などレベルも様々だ。交通情報やプローブ情報だけでなく、波の高さの情報や地震計の情報など、多くの情報を横展開することで、新しい価値を生み出すことができる。その1つが、自動走行システム向け高精度3次元地図データの提供に向けたダイナミックマップ基盤株式会社の事業だ。例えば米国では国防の問題や州政府と連邦政府の独立性の問題などから、一気通貫のデータがない。日本はチームジャパンで連携した動きができる。コネクテッドに関しては、日本は先進国だと言うこともできる。

「つながる」ことを前提に事故を減らすセキュリティを

コネクテッドカーについては、メルセデス・ベンツがCASEコンセプトを標ぼうしている。Cはコネクテッド、Aはオートノマス(自動化)、Sはシェアード、Eはエレクトリックの頭文字で、世界のイノベーション、自動車業界のイノベーションは、このコンセプトの通りに進んでいる。個人的にはCASEが横並びになっているのは、少し違うなと感じる。実際にはコネクテッドの「C」が下にあって、その上にオートノマスの「A」などが乗っかる形だろう。「つながる」ことをグランドデザインにして、事故を減らす取り組みが進むのである。

SIPで若い人と話しをする機会があった。そこでは、半分ぐらいの若者が運転免許証を持っていない。興味がない、お金がかかる、面倒くさいというのだ。止まる曲がる走るがクルマの醍醐味だが、それだけでは若者にクルマが届かない。行き詰まっているのである。そうしたとき、コネクテッドが社会にイノベーションを起こすと考えられる。雨の日、傘を差してタクシーを探しても、空車はつかまらない。そんなときにライドシェアができたらどうだろう。コネクテッドや自動運転が広まると、社会イノベーションが起こるのだ。

自動運転に目を向けると、その歴史は決して浅いものではない。米国の国防高等研究計画局(DARPA)では、2004年から砂漠などでロボットカーによる無人運転のレース「DARPAグランドチャレンジ」を実施してきた。軍事用に技術やノウハウを蓄積することが目的だったが、それが民間転用されるようになってきた。軍事技術と言われると、日本の自動車メーカーは参加しにくかった。その間に独フォルクスワーゲンと米ゼネラルモーターズ(GM)が熾烈な技術競争を行っていた。日本は少し取り残されたのかもしれない。

最近は標準的に装備するクルマも増えた自動停止だが、これも実は人間を使ったテストはまだ世界のどのメーカーも実行していない。雨が降ると7割は失敗するシステムもあるし、時速30kmを1kmでも超えたら反応しないシステムもあるように、命を委ねるにはまだまだ物足りない。一方で、自動運転が可能になれば、お年寄りでも目的地にスムーズに到達出来るようになる。いま、米国ではティーンエージャーがスマートフォンを持ったままやお化粧をしながら運転していることが問題になっている。これもどうせ言ってもだめなら、お化粧や読書をしながら自動車で移動できるように自動運転を取り入れることもニーズからすればあり得るだろう。

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米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)が米国に拠点を置く自動車技術者協議会(SAE)のレベル分けによれば、自動運転の「レベル2」は人間が責任を完全に持つもの、「レベル4」はシステムが責任をもつもの、そしてその間の「レベル3」は人間とシステムが行ったり来たりするものと定義されている。独アウディは、フラッグシップモデルの「A8」に2018年以降にレベル3の自動運転機能を搭載すると表明している。高速道路の渋滞時ぐらいはテレビ見てもいいのでは?という考え方もある。一方で、ドライバー主役のレベル2で運転支援を充実させていくというメーカーもある。安全思想や哲学が自動車メーカーごとに異なるのだ。さらに「レベル5」はドライバーレスの完全自動運転を指す。

レベル3で自動運転をしているとき、自動運転が対応できない状況になってドライバーに運転の主導権を戻すときどうしたらいいか。警告をするにしても、レベル3で4秒と言われているトランジションタイム(移行時間)で、人間は重大な局面の判断を下せるのか。リアルワールドで実験していかないと、答えは見つからないだろう。事故を減らすことが一番の大義であるわけで、そのために自動運転システムを作っているのに、システムがあることで事故が起こるのでは本末転倒になってしまう。さらに、その自動運転システムが第三者に乗っ取られたりしないように、セキュリティ対策を施す必要性も高まる。

オーナーカーよりも物流や移動にフィット

それでは、自動運転とセキュリティを考えたときの出口戦略はどのように考えたらいいだろうか。

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SAEの自動運転のレベルを見ていくと、先ほどの例のように人間とシステムの間で責任が行ったり来たりする「レベル3」はかなり難しいことがわかる。白線が見えなくなったら「レベル3」ではシステムからドライバーに運転が渡される。それよりも、位置がわからなくなったらシステムが人に頼らずに自動的に側道に止める「レベル4」のほうが安全性が高い可能性はある。完全自動運転の「レベル5」は、遠隔操作で運転する社会実験が行われているが、クルマの外にいる人が「運転者」になるのだったら、それは「レベル3」と同等になってしまう。通信切れや通信遅れがあったときの対応も議論になっており、「レベル5」の実現も大変だと感じている。高度運転支援の「レベル2」の次は、「レベル4」が実現しやすいのではないか。

自動運転の実現を見通したとき、自家用車や商用車のうちでも、オーナーカーは早期の実現が難しいのではないかと考えている。オーナーカーは「勝手なところに行く」ことが特徴で、自動運転の実現にはハードルが高い。一方で、物流や公共の移動などには、オーナーカーよりも早く「レベル4」が適用できそうだ。過疎地の移動手段として、場所限定し、速度を制限した形での「レベル4」は、過疎地の交通の課題解決に役立つだろう。オーナーカーの自動運転は、2020年ごろに高速道路に限定して「レベル3」が始まるかどうかといった時間感覚になると見ている。

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それでも、自動運転の技術的な課題はかなり見通せるようになり、解決の方法も見つかってきている。一方で、社会面や法律面の合意はこれからだ。特に気になっているのが社会面で、自動運転車が登場したときお金を出して買う私たちにどのようなニーズがあるかを懸念している。過疎地の自動運転には大きな意味がある。一方で、オーナーカーで渋滞時に運転をシステムに任せて、テレビで野球を見るだけに数十万円の差額を払うかは疑問だ。コネクテッドの価値と一緒になって、自動車が走るだけでなく、移動空間・時間をどう楽しむかを併せて考えていく必要があるだろう。

《プロフィール》
清水和夫(しみず・かずお)氏

1954年 東京生まれ 武蔵工業大学電子通信工学課卒業。1972年のラリーデビュー以来国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして活躍を始める。自動車の運動理論や安全性能を専門とするが、環境問題、都市交通問題についても精通している。日本放送出版協会『クルマ安全学のすすめ』『ITSの思想』『燃料電池とは何か』 ダイヤモンド社『ディーゼルこそが地球を救う』など多数。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。