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日本初開催、「サイバーテック東京 2017」の意味を考える

2017.12.05

Updated by Hitoshi Arai on December 5, 2017, 20:54 pm JST

毎年1月末にイスラエルのテルアビブで開催されるサイバー・セキュリティの国際イベント「サイバーテック」が、11月30日に「サイバーテック東京 2017」として日本で初めて開催された。

1日限りのイベントであるにも関わらず、サイバー・セキュリティ分野をリードするイスラエル企業が集まっているということで注目を集め、主催者発表で2000人が参加した。当日夜のNHKニュースでも放映されたので、参加はしなくてもこのイベントがあったことを認識されている方も多いのではないだろうか。

サイバーテック東京 2017

実はこのイベントは、イスラエルと日本両国の協力で周到に企画された。半年前の5月に、両国間の官民での交流を一層加速するために「日本・イスラエルイノベーションネットワーク(JIIN)」の設置が合意されており、その第1回総会が前日の11月29日に開催されている。

JIINの総会には、日本側からは世耕経済産業大臣、イスラエル側からはエリ・コーヘン経済産業大臣が出席し、今後の活動方針等を定めたTOR(Terms of Reference)に両大臣が署名した。イスラエル側からは、イノベーション庁CEOのアハロン・アハロン氏、サイバー局新サイバーテクノロジー・ユニット最高責任者イガル・ウナ氏等、政府の要人、および主要民間企業のトップが出席し、このメンバーがほぼ全員翌日のCyberTechにも参加して講演を行なった。

もう一つのタイミングは、わずか10日ほど前に駐日イスラエル大使であるヤッファ・ベンアリ氏が日本に到着したことである。11月着任のベンアリ大使は、前日のJIINイベントとサイバーテックのオープニング・プレナリーにも出席、本イベントが新大使の紹介の場にもなったのではないだろうか。イスラエル側としても力を入れたと感じられるイベントであった。

イベントでは、講演と展示が用意された。講演の方はランチ以外は全く休憩も無く、朝9時から夕方18時まで、15分から20分刻みの講演やパネルディスカッションが連続して次々に行われた。最後から2番目に登壇した経済産業省寺澤氏は、「私は本日35番目!のスピーカーだ」と聴衆を笑わせた。 興味深い個別のセッションや展示内容は別の記事で報告するとして、オープニングとクロージングのプレナリー・セッションで目についたトピックをピックアップする。

サイバーテック東京 2017 プログラム

日本側の登壇者は、政府関連も民間も総じて「自分達の取り組みの紹介」が中心だったように感じられた。例えばIoT、重要インフラ、オリンピック等、何を守らねばならないか、という視点から、各組織が何をすべきか、という「内部施策」や「ポリシー」に関する報告が多かった。

一方、イスラエル側は、例えばエリ・コーヘン経済産業大臣が、“Japan and Israel both operate with tough neighborhoods”とコメントするなど、まず「外部脅威に対してお互いにどう対応していくか」という認識があった。ここに日本とイスラエルの基本的な差を感じた。

また、サイバー局新サイバーテクノロジー・ユニット最高責任者のイガル・ウナ氏はその講演の中で幾つかの事象を取り上げ、例えば今年、世界的に脅威を与えた「WannaCry(ワナクライ)」が米国で元々開発されたツールであることに触れ、「RedがBlueになることもあり、逆にBlueがRedにもなり得る」とコメントした。聞けば当たり前とも思える内容だが、オフェンスとディフェンスの両面に蓄積のあるイスラエルの専門家だからこその指摘であり、ディフェンスの発想しかない日本人にはなかなか気付かないポイントである。

さらに、その視点から何をすべきか、ということになると、現状「セキュリティ人材育成」から取り組んでいる日本とは全く次元の異なるメッセージになる。ウナ氏の提案は、「ハッカーが隠れる場所をなくす」ための世界的な協力である。それこそがハッカーにとってのナイトメアだと指摘した。

イスラエル政府は、この点についても既に取り組んでおり、Robustness、Resilience、Defenseの三つの観点から政府のどの機関が何に責任を負っているか、という明確なチャートを紹介した。これは、日本にとっても大変参考になる図である。イスラエルではIDFやMossadが担当しているDefenseを、日本では民間企業がどこまで対応できるのか、我々が考えるべき大きな課題であろう。

サイバーテック東京 2017

イスラエルからの参加者向けのメッセージとして面白かったのが、サイバーリーズン・ジャパン社長のシャイ・ホロビッツ氏である。ソフトバンクが投資をして話題になった会社で、イスラエル側から見れば日本市場進出の大成功事例の一つである。

当初、サイバーリーズン側は、全員が日本進出に反対したという。イスラエルのスタートアップが日本の大企業と付き合うのは、あまりに異なる文化、異なる市場であって、そんなに容易なことではない、と認識していたからだ。しかし、結果として成功した秘訣は、ソフトバンクCEOの宮内氏の熱意と、相互の信頼とリスペクトだったという。

サイバーテック東京 2017

米国市場では考慮しなかったローカライゼーションを日本市場では考慮して、日本向けのプロダクトとすることに努力したという彼のメッセージは、日本で成功したければ、“need to be here”であった。日本から見ると、米国市場では考慮しないローカライゼーションの努力をする、日本に住む覚悟で来てくれる、というのは有り難いことではあるが、一方で日本の文化・市場はそれくらい他国と異なるということを日本人として再認識する必要があるだろう。ホロビッツ氏は、これが始まりであり、日本・イスラエル両サイドに関わる人間として、Long Termの関係構築に努力すると宣言した。

周知の通り、イスラエルはサイバー先進国である。日本としては、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてセキュリティ対策が益々重要となっており、イスラエルの協力を得ることは不可欠である。イスラエル側としても、大きなビジネスチャンスとして捉えているはずである。

また、サイバーテックのようなイベントは、2国間の関係を強化する良いツールである、とも言える。単に彼等の技術やサービスを導入するだけではなく、ポリシーやエコシステムの作り方含め、イスラエルから我々日本人に無い多くの点を学ぶためのきっかけとして、意味のあるイベントであったと考える。

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新井 均(あらい・ひとし)

NTT武蔵野電気通信研究所にて液晶デバイス関連の研究開発業務に従事後、外資系メーカー、新規参入通信事業者のマネジメントを歴任し、2007年ネクシム・コミュニケーションズ株式会社代表取締役に就任。2014年にネクシムの株式譲渡後、海外(主にイスラエル)企業の日本市場進出を支援するコンサル業務を開始。MITスローンスクール卒業。日本イスラエル親善協会ビジネス交流委員。E-mail: hitoshi.arai@alum.mit.edu