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地元の人間ではない学生には、しがらみにとらわれない“逆張り”のアイデアがある〜三大学連携プレゼンテーション大会2017から

2018.01.30

Updated by Takeo Inoue on January 30, 2018, 12:03 pm JST

昨年末、東北工業大学にて同校および専修大学、玉川大学による「三大学連携プレゼンテーション大会2017」が開催された。そのテーマは、秋田県仙北市にあるエンターテインメントリゾート施設「あきた芸術村」についての新たなビジネスプランを構築すること。今回は、この大会の参加各チームによるユニークなアイデアから「都会の若者の地方への期待」について考えてみる。

あきた芸術村の新事業についてアイデアを競うコンペティション

このプレゼンテーション大会は、メディアオフィス アトリエ・マ・ヌゥー舎 主宰 兼 東北工業大学 講師の力丸萠樹(もえき)氏による特別授業として開催されたものだ。力丸氏は、図解技法による自己分析と、コミュニケーション技法の「図解プレゼンテーション」を説く人物だ。

▼メディアオフィス アトリエ・マ・ヌゥー舎 主宰 兼 東北工業大学 講師の力丸萠樹(もえき)氏
メディアオフィス アトリエ・マ・ヌゥー舎 主宰 兼 東北工業大学 講師の力丸萠樹(もえき)氏

大会のテーマは「あきた芸術村の持つ豊富な資源を使った学生視点での新たなビジネスプランを構築する」だ。あきた芸術村は、日本でも屈指の規模を持つ名門劇団「劇団わらび座」の本拠地として、秋田県仙北市に展開するエンターテインメントリゾート施設だ。同施設は、「共生」をキーコンセプトに、人と文化の出会いと交流の場として、年300回にわたる常設公演を行っているほか、芸術・芸能・ホテル・温泉・地ビール・工芸・郷土料理を楽しめるアート・ヴィレッジ(芸術村)となっている。

審査員は、劇団わらび座の代表取締役社長 山川龍已氏、同本社営業部次長 大信田潤一郎氏、同デジタルアートファクトリー チームディレクター 長瀬一男氏、在京企業のノークリサーチCEO 兼 創生する未来代表理事 伊嶋謙二氏、ツクル代表の三宅創太氏、コンテンツ計画 代表取締役社長 有坂民夫氏。また、学識者としては、玉川大学工学部 マネジメントサイエンス学科 准教授 小酒井正和氏、専修大学商学部 マーケティング学科教授 岡田穣氏、東北工業大学講師の浅野純子氏、バレーラルナ・アルトゥーロ氏、同学OBで日本年金機構仙台東年金事務所の伊東優志氏。地元からはTSP太陽 第2営業本部 秋山史啓氏と、かぜの子チェーン エバンジェリスト 成田康宏氏が入った。

プレゼン大会は、各チームごとに20分間(質疑応答を含む)ほどで自分のプランを発表。総じて「あきた芸術村には豊富な資源があるにもかかわらず、認知度が低いため、どうやって存在を知ってもらうか?」という観点からのアイデアが多かった。それぞれのプランで提案された集客方法については、いまどきの大学生らしく、TwitterやFacebook、instagramといったSNSの効果を狙う点も共通していたようだ。

修学旅行生をリピーターにしよう

最初に発表したのは、東北工業大学の KITUMAI-HIT50チーム。同チームは、修学旅行で訪れる小中学校生をターゲットとし、リピーターを増やす施策を提案した。あきた芸術村の顧客層が高齢者中心であるが、その逆を張って、小中学生層を将来の顧客として育てるアイデアだ。

▼東北工業大学 KITUMAI-HIT50チームの皆さん。
東北工業大学 KITUMAI-HIT50チームの皆さん。

リピーターとなるよう導くには「記憶に残る体験や思い出づくり」が重要。同チームは、きりたんぽ鍋などの名産品を使った食事や、体験型演劇、ソーラン節の踊り大会による印象付けを企画した。また日常的に長く使える木工品の製作体験、旅行生の宿にわらび座の団員が扮する「なまはげ」が登場するサプライズ体験、大学生の協力を得たワークショップの開催、写真・映像の活用などを提案した。

▼小・中学生の修学旅行生をターゲットに、将来のリピータ客を増やす施策として「記憶に残る体験や思い出づくり」を考案。
小・中学生の修学旅行生をターゲットに、将来のリピータ客を増やす施策として「記憶に残る体験や思い出づくり」を考案。

思い出づくりに役立つアイデアとしては、木工体験で製作したシャープペンのプレゼントや、自宅へのダイレクトメール(ハガキ送付)による振り返り、さらにタイムカプセルを施設内に保管し、数年後の卒業旅行に合わせて郵送することで、リピータになってもらうという工夫を披露。またTwitterなどのSNSによって情報発信も促す。映像活用という面ではyoutubeの動画を大学生が制作する。

再び訪れてもらうには「行きやすさ」も大切だ。特に学生・生徒の場合は、それほどお金を持っていないため、金銭面でのサポートとして「リピータパスポート」をつくるという。交通費と宿泊費をセットにしたプランで、1回目の修学旅行リピーターは30%オフにして、その他の学生も5%の学割とする。また仙台駅などからの発着など、シャトルバスの整備も行う。芸術村内の食事処や木工体験などの割引券も用意する。

若年層を狙った顧客育成は即効性はないかもしれないが、長い目で見れば効果が見込めるだろう。マクドナルドが子供向けにハッピーセットを用意しているのは、子供たちが大人になった際にリピータになってもらうための施策だ。同チームの発案は、長期的な視野に立ったアイデアといえるだろう。

もうひとつの芸術村でリノベーションワークショップを開催!

続いて登場したのは、東北工業大学のカカオ100%チーム。同チームは、現在のあきた芸術村を、“演劇を通じた交流の場”ととらえた。そしてそれをさらに一歩め、演劇という特殊な空間だけでなく、日常でも濃密な交流ができるような「小さな芸術村」をつくるアイデア(仮称:KADARUプロジェクト)を提案した。

▼東北工業大学 カカオ100%チームの皆さん。
東北工業大学 カカオ100%チームの皆さん。

いま地方では、過疎化や空き家問題がクローズアップされている。逆に、その空き家を活用し、全5回のリノベーションワークショップを開催することで、住民との距離を縮め、あきた芸術村との接点を間接的に増やすという施策だ。

ワークショップの展開は、地域住民にとどまらない。わらび座や仙北市と連携し、県外からの若者の誘致や、起業家の施設提供にも貢献していくという。移住体験や目的別の説明会を開き、空き家物件やリノベーションなどの資金見積りなど、実際の行動に移すうえでの交渉やサポートを実施する計画だ。

KADARUプロジェクトでは、リノベーションワークショップのほか、お手軽な作品から本格的な家具までつくれる木工ワークショップも開催しようという。また、わらび座の過去作品の上映会や、芸術村が誇る田沢湖ビールとブルーベリーを組み合わせた「ブルーベリービール」を開発して提供。従来のビールに甘さ、酸味、香りを加え、女性や若者にも受けるような商品として展開する。

▼空き家を利用し、地域密着の芸術村の拠点をつくる。リノベーションや木工ワークショップ、わらび座の過去作品の上映会などを開催。
空き家を利用し、地域密着の芸術村の拠点をつくる。リノベーションや木工ワークショップ、わらび座の過去作品の上映会などを開催。

リノベーションも含めた新しい施設をつくるために、同チームではクラウドファンディングや、仙北市の中小企業活性化支援事業助成金の応募など、具体的な資金調達の方法も検討していた。

プロジェクションマッピングとARが融合した演劇と地方型フェス

「楽しかった。じゃ終わらせない」を合言葉に、共有したいと思わせる若者向けイベントの展開を発案したのは東北工業大学のパンダクション。同チームは工業大学らしく、プロジェクションマッピングやARなどの最先端技術と、若者に人気の地方型フェスの事業を提案した。

▼東北工業大学 パンダクションの皆さん。
東北工業大学 パンダクションの皆さん。

地方フェスはライブよりも参加要素が強く、会場との一体感も生まれやすい。集客力もあり大規模になれば収益も得られる。同チームは「わらフェス」として、アーティストとわらび座のコラボ劇場やトークショー、ステージ参加型のダンス大会、芸術村特産品のブルーベリーキャッチ(投げたブルーベリーを口でキャッチ)、テーマソングの合唱、シャンパンファイト(ビールかけ)といった楽しい催しのほか、フェスと宿泊をセットにしたメニューなどを提案した。

▼若者に人気の地方型フェスと面白いイベント、プロジェクションマッピングやARなどの最先端技術によって、顧客を呼び込む施策だ。
若者に人気の地方型フェスと面白いイベント、プロジェクションマッピングやARなどの最先端技術によって、顧客を呼び込む施策だ。

一方、プロジェクションマッピングの技術では、リアルと映像を組み合わせ、そこにしかない空間を生み出せる。わらび座は演劇やビールなど多くの事業を展開しているが、さらに独自コンテンツを確立し、半永久的な広告媒体としての利用も見込めるという。

プロジェクションマッピングは、劇場内で投影するが、何もない空間では使えない。そこで、AR(拡張現実)も加えるアイデアを考えた。たとえばマイクロソフトの「HoloLens」や、スマートグラスのようなデバイスを観客が装着し、プロジェクションマッピングとの相乗効果を狙うというものだ。機材としては、高輝度プロジェクターや端末などが必要になるが、レンタルで対応する案を示した。

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井上 猛雄 (いのうえ・たけお)

東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにIT、ネットワーク、エンタープライズ、ロボット分野を中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)などがある。