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プレゼン大会の参加者が全員集合。ゲストも交え、総勢で50名近くが集まった。

やはり、若者、よそ者は宝物だ。〜三大学連携プレゼンテーション大会2017から

2018.01.31

Updated by Takeo Inoue on 1月 31, 2018, 12:00 pm JST

前回から続く

昨年末、東北工業大学にて同校および専修大学、玉川大学による「三大学連携プレゼンテーション大会2017」が開催された。そのテーマは、秋田県仙北市にあるエンターテインメントリゾート施設「あきた芸術村」についての新たなビジネスプランを構築すること。今回は、この大会の参加各チームによるユニークなアイデアから「都会の若者の地方への期待」について考えてみる。

「感謝」「感動」という気持ちを素直に信じて企画しよう

東京からの参加となった専修大学の岡田ゼミは、首都圏の顧客を誘導するためのビジネスプランについて発表した。同ゼミでは、首都圏の人々があきた芸術村を訪れる目的として、壮大な自然と観劇による「感動」と、文化や芸術と触れあう非日常的な機会への「感謝」を挙げた。

▼東京から参加した専修大学 岡田ゼミの皆さん。
東京から参加した専修大学 岡田ゼミの皆さん。

同ゼミの提案は、感動と感謝を大きな柱とし、それらを伝えるキッカケの場所としての芸術村をフィーチャーするものだ。これは、わらび座の企業理念である「人の心を育てるビジネス」に通ずる。具体的には「花畑」「天体観測」「観劇」「ビール」という4つの施策を考えたそうだ。

▼感動と感謝を大きな柱に「花畑」「天体観測」「観劇」「ビール」という4つの施策を提案。天体観測は地方ならではのアイデア。
感動と感謝を大きな柱に「花畑」「天体観測」「観劇」「ビール」という4つの施策を提案。天体観測は地方ならではのアイデア。

まず、花畑については、芸術村にあるエコニコ農園の休耕地を利用し、花を育てるというもの。花畑は美しい風景による感動を与えるだけでなく、感謝を伝えるプレゼントにもなる。そこで地元オリジナルの「NAMAHAGEダリア」を利用し、記念品づくりをしてもらう。

天体観測も地の利を生かしたアイデアだ。都会は街灯が多く、星がきれいに見えないが、秋田ならば満天の星空を楽しめる。天体観測に加え、芸術村の役者に星座の物語を語ってもらったり、普段は伝えづらい感謝のメッセージを代読してもらうアイデアも発表。

演劇に関しては、国内3本の指に入るわらび座が創る舞台だからこそできる感動を伝えてもらう。また芸術村で作られる田沢湖ビールは、あまり知られていないが国際的な賞を獲るなど隠れた名品だ。美味しいビールの試飲会を開いたり、土日限定で屋台として出店することで、地域との連携も強固できる。

この4つの施策をセットにした宿泊プランを提供し、顧客満足度を高められるならば、リピータの増加にも貢献できるだろう。

アニメとミュージカルの融合により、若者のユーザーを狙う

日本が誇るアニメを集客手段にしようと考えたのは、東北工業大学のTeam takkunだ。いま若者の間でアニメが大人気であることは周知の事実だろう。国内のみならず、海外でも日本のアニメが放映され、子供のことからアニメを観て育った世代も多い。一方、最近ではアニメの原作をリアルな演劇に落とし込む「2.5次元ミュージカル」といった新しいコンテンツも生まれている。

▼東北工業大学 Team takkunの皆さん。
東北工業大学 Team takkunの皆さん。

Team takkunのアイデアが面白い点は、従来と逆の発想であること。これまでアニメの原作をリアルな芝居にするという発想はあった。たとえば「テニスの王子様」や「弱虫ペダル」などのアニメを演劇化する2.5次元ミュージカルはインバウンドでも大変人気が高い。一方でアニメに造詣の深いファンの間では、大事なシーンが抜け落ちたり、キャラクターの性格や声にギャップがあるなど、物足りない側面もあるようだ。

そこでTeam takkunは、わらび座のミュージカルをアニメ化しようという逆アプローチでの集客を考えたのだ。こういった従来にない発想は、審査員のなかで評価する声も多かった。実はあきた芸術村は、地元の伝統芸能をアーカイブして後世に伝えるために、独自のモーションキャプチャ(動作記述システム)を開発している。同チームはこれを活用し、演者の動きをアニメにする手法を提案。

▼わらび座のミュージカルをアニメ化するアプローチはユニーク。モーションキャプチャ(動作記述システム)で演者の動きをアニメにする。
わらび座のミュージカルをアニメ化するアプローチはユニーク。モーションキャプチャ(動作記述システム)で演者の動きをアニメにする。

また新しい演劇の楽しみ方として、わらび座の演劇を生配信し、ニコニコ動画のように観劇者の感想を投稿できるようにする。現場の雰囲気を視聴者に伝え、感激を共有することで、客層を拡大する施策も披露した。最終的に若者だけでなく、世代を超えたロイヤルカスタマーを含め、コミュニケーションの場を広げていくことが狙いという。

春夏秋冬を通じて若者を集客する

東北工業大学のチームOKOTAは、事前のアンケートから、10代後半から30代までの若者が、わらび座の演劇よりも温泉や食事に興味があるとし、年間を通じた芸術村への集客方法を考えた。

▼東北工業大学 チームOKOTAの皆さん。
東北工業大学 チームOKOTAの皆さん。

あきた芸術村の最寄り駅である角館は、桜の名所として知られている。そこで桜が満開になる春に開催される「角館桜まつり」と併催する形で、5000人規模の野外公演を企画。また夏には、芸術村でつくられた田沢湖ビールをフィーチャーし、足湯ビール風呂を設置するという案を考えた。花火大会を鑑賞しながら、ビール風呂につかって一杯という魅力的な組み合わせだ。

▼春夏秋冬を通じた4つの施策で、あきた芸術村に若者を集客。特に面白かったのは芸術村のウリであるビールの足湯と花火の鑑賞。
春夏秋冬を通じた4つの施策で、あきた芸術村に若者を集客。特に面白かったのは芸術村のウリであるビールの足湯と花火の鑑賞。

また秋には田沢湖ビールなど、地元ビールと美味しい食材を活かした「オクトーバーフェス」を開催。フェスも若者の間で集客性の高い人気のイベントだ。そして冬の2月半ばには「かまくら雪まつり」で集客を見込む。駐車場に3mぐらいのかまくらを20棟ほどつくり、そこで温かい鍋を食べてもらう案だ。

同チームでは、このようなイベントや食文化などをSNSで発信することで、大学生などの若い世代を呼び込めるようにしたいという。

「動作記述システム」を使った3つの新事業

プレゼンのトリを取ったのは玉川大学 小酒井ゼミのチーム。同チームは、わらび座の多くの資源のうち、独自に開発された「動作記述システム」に焦点を絞り、その技術を応用した新しい感動を生み出す事業案を考えた。まさに工学部ならではの緻密なアイデアといえるだろう。

▼東京から参加した玉川大学 小酒井ゼミの皆さん。
東京から参加した玉川大学 小酒井ゼミの皆さん。

動作記述システムとは、伝統舞踏の動きをモーションキャプチャを使って「舞踏符」から「舞踏譜」と呼ばれるデータに変換し、踊りの動きを標準化するわらび座の独自技術だ。同チームは、この技術から以下の3つの技術の実現可能性を示した。

▼独自の動作記述システムで展開する3つの新事業は先端技術を導入。工学部ならではの緻密で具体性のあるアイデアだった。
独自の動作記述システムで展開する3つの新事業は先端技術を導入。工学部ならではの緻密で具体性のあるアイデアだった。

ひとつ目は、「観客のエピソードを劇に反映させる」というもの。観客のTwitterでのつぶやき(喜怒哀楽)を機械学習で分類・分析し、前出の舞踏符と組み合わせることで、「わらび座AI」(機械学習エンジン)でシナリオを作成。わらび座の役者がカスタマイズされた演劇を実際に聴衆の前で演ずる。

2つ目は、「舞踏譜とAIによる日本伝統舞踏の体験」だ。ARメガネが付いたお面をかぶって、そこに映し出されたARゲームを通じて、伝統舞踏を体験させるというアイデアだ。ゲームであるため、訪日外国人も言葉の壁を越えて、新たなコミュニケーションが可能になる。これにより、伝統文化を大切にするわらび座ならではの強みを発揮できそうだ。

3つ目は、「顧客が演劇にリアルタイムで参加する」というもの。劇中のターニングポイントとなる部分で、顧客がスマホなど使って舞踏符を選ぶ。これによりストーリーが分岐する顧客参加型実験として、参加に対するコトへの価値を増やせる。なお演者に動作指示を与える仕組みに、富士通の「Ontenna」という頭に付けるインターフェースを利用する。音源の鳴動パターンをリアルタイムで変換し、音のリズムやパターン、大きさを知覚できる装置だ。

同チームは、これらを実現するために、舞踏の振りに記号を付けた従来の舞踏符に加えて、新たに「演劇符」なるデータフォーマットも考え出した。これは、人が受ける4つの感覚(視覚、聴覚、嗅覚、触覚)と劇中の動作を付随させたもので、さまざま動作を細かく表現し、臨場感の演出も可能になるという。同チームの内容は具体性に富み、学会発表のような趣を醸していたことが印象的だった。

やはり、若者、よそ者は宝物だ

今回のプレゼン大会では、大学生らしい新鮮なアイデアも数多く飛び出した。コストなどで現実的に難しいと思われる課題もあったが、まずアイデアを出してみなければ何事も始まらない。そういう意味では否定から入るのでなく、若者の発想を肯定的にとらえ、具現化に向けて検討していくことも必要だろう。

実際に、わらび座の山川氏は最後の講評において、「いずれのチームの発表も素晴らしいアイデアばかりだった。ぜひ皆さんには、我々の会社に就職してもらい、若い世代のアイデアを実現化してほしい」と熱く語り、大いに感激していたようだ。今後は、これらのアイデアを参考に、具体的な動きも考えたい意向だ。若い力日本の未来を変える。そんな期待が膨らむプレゼンバトルだった。

▼劇団わらび座 代表取締役社長 山川龍已氏
劇団わらび座 代表取締役社長 山川龍已氏

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井上 猛雄 (いのうえ・たけお)

東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにIT、ネットワーク、エンタープライズ、ロボット分野を中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)などがある。