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前回の記事では従業員エンゲージメントの定義が正式には存在しないがゆえに、企業がそれぞれ独自にエンゲージメントの定義が必要であると書いた。定義が定まらないのであれば、測定方法も定まってはおらず、ではどうやってエンゲージメントを計測すればよいのかと迷う経営者や人事担当者は多いのではないかと思う。そこで、今回は、従業員エンゲージメントの測定方法の紹介と、分析するにあたり留意すべき点などについて述べる。

あまり面白くない答えだが、従業員エンゲージメントの測定方法として、最も導入ハードルが低く実際よく利用されているのはアンケートである。頻度としては、月1回〜半年に1回くらいが多いだろうか。最近では、コンピュータで手軽にアンケートをとることが可能になったことからパルスサーベイ(意識調査)を行っているところもある。パルスサーベイは頻度の高い手軽なアンケートと考えれば良い。デイリーで行うところもあれば、週1回というところもある。

もっと進んだ計測方法としては、生体データを計測し、心拍数などの体調の良し悪しから従業員が今、仕事に集中できているかどうかを判定する実験もあるようだが、生体データは当然従業員本人に帰属するので、会社が勝手に生体データを使ってエンゲージメントを測定するのは難しい場合が多い。

他にも、海外の事例では、キーボードのタイピングから現在の仕事の集中度を測るといったようなことが行われたり、顔認証をつかって、表情から没頭具合を測るといったようなものもあるようであるが、この場合、ハードウェアの導入ハードルがかなり高い。

よって、現時点で最も妥当な従業員エンゲージメントの計測方法は、アンケートに他ならず、また、実際に従業員エンゲージメントを測定している企業のほとんどがアンケートでもある。ではアンケートで従業員エンゲージメントを計測するときに、どういう質問項目が良いのだろうか?

アンケートは実施する側にとっても、あるいはされる側にとっても、質問項目が少ないほうがありがたい。従来の従業員サーベイでは、設問数が100を超えるようなものも散見されたが、これではあまりに負担が大きくなりすぎ、頻繁に調査を実施するのは不可能になってしまう。

最近の従業員エンゲージメントサーベイは、少ないもので2問、多くて15問程度で設計されているものもあるので、その程度であれば、月1回、半年に1回の頻度でアンケートを実施することが可能であろう。

最も少ない質問数の従業員エンゲージメントサーベイとしては、eNPS(Employee Net Promoter Score)がある(※1)。
質問としては以下のようなものだ。

Q1:あなたはお勤めの職場を友人・知人にどの程度すすめたいですか?
0から10段階で答えてください。(0が全くすすめたくない、10がとてもすすめたい))

Q2:Q1でそのスコア選んだ理由を教えてください。(フリーコメント)

他にも、アメリカの調査会社ギャラップ社が行っているエンゲージメントサーベイは、以下12問となっている(※2)。

Q1:職場で自分が何を期待されているのかを知っている
Q2:仕事をうまく行うために必要な材料や道具を与えられている
Q3:職場で最も得意なことをする機会を毎日与えられている
Q4:この7日間のうちに、よい仕事をしたと認められたり、褒められたりした
Q5:上司または職場の誰かが、自分をひとりの人間として気にかけてくれているようだ
Q6:職場の誰かが自分の成長を促してくれる
Q7:職場で自分の意見が尊重されているようだ
Q8:会社の使命や目的が、自分の仕事は重要だと感じさせてくれる
Q9:職場の同僚が真剣に質の高い仕事をしようとしている
Q10:職場に親友がいる
Q11:この6カ月のうちに、職場の誰かが自分の進歩について話してくれた
Q12:この1年のうちに、仕事について学び、成長する機会があった

上記の2つの従業員エンゲージメントを測定するための質問項目のどちらを採用するかは、その企業が従業員エンゲージメントをどう定義するかで異なってくるが、いずれにしても多くの企業では、その質問項目の意味性を確認し納得するために、従来から実施している従業員サーベイや人事評価などと組み合わせてその性能等を分析したいはずだ。

この分析を行う際に、注意しなければいけないこととしては、「相関関係」と「因果関係」を区別するということだ。相関関係とは、ある2つの変数の片方が変化すると、もう片方の変数も同時に変化する関係のことであり、因果関係とは、ある2つの変数の間に、原因となる変数と、結果となる変数がある関係性のことを指す。

例えば、以下の図1では、「長時間労働」と「昇進」は相関関係にあったとする。これは長時間働いている人は昇進している傾向があるということを示している。因果関係ではないので、昇進している人は長時間労働の傾向あると表現することもできる。そして、「昇進」は「従業員エンゲージメント」と因果関係にある。つまり、昇進(原因)することが、従業員エンゲージメント(結果)を上げるということであり、この場合、従業員エンゲージメントが高いと昇進すると逆の解釈はできない。では、上記のような関係があるときに、「長時間労働」は「従業員エンゲージメント」と因果関係があると言えるだろうか?

▼図1:因果関係と相関関係について
因果関係と相関関係について

もし、「従業員エンゲージメント」と「長時間労働」に因果関係があるならば、長時間労働すればするほど従業員エンゲージメントがあがるということになってしまう。もし、人事担当者が単なる相関を因果だと考え、長時間労働すれば従業員エンゲージメントがあがるということで、長時間労働を推奨しようものなら、もたらされるのは悲劇だけだ。相関関係は比較的エクセルでも算出できてしまう手軽さもあり、よく使われる分析手法ではあるが、相関関係を因果関係であるかのように誤解するのは間違った施策につながる。

「長時間労働」と「昇進」が強い相関関係にある場合、「長時間労働」と「従業員エンゲージメント」の間に、あたかも因果関係があるようにみえてしまう。この「長時間労働」のように原因の「昇進」と結果の「従業員エンゲージメント」の両方に影響を与えてしまう変数のことを交絡因子と呼ぶ。この交絡因子かどうかという判定は、統計的には判別が可能である。手法についての詳細は参考書籍(※3)を参考にしていただきたい。

まとめると、従業員エンゲージメントをキーにしてよりよい組織作りを目指す場合の手順は下記の通りとなる。

1.従業員エンゲージメントの定義を決める
2.1の定義に沿う質問項目を決める
3.人事データや従業員サーベイを組みあせてて分析を行う
4.因果関係のある変数は人事施策を検討する
5.4の施策が有効であったかを振り返る

アンケートは実施しているがいまひとつ効果のある人事施策が打てないとお悩みならば、まずは相関関係と因果関係を意識した分析をしてみると良いだろう。

大成弘子(おおなり・ひろこ)

※1:eNPSは、もともとは、顧客ロイヤルティの指標としてベイン・アンド・カンパニーが提唱したNPS®(Net Promoter Score)を従業員のロイヤルティを計測するものとして応用した指標である。

※2:ギャラップ社のエンゲージメントサーベイの質問項目については、以下のサイトより抜粋。
http://president.jp/articles/-/23978

※3:因果関係の分析手法についてわかりやすく記載された本としては以下がある。
『「原因と結果」の経済学—データから真実を見抜く思考法』中室牧子/津川友介著(ダイヤモンド社)2017年
『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』伊藤公一朗著(光文社新書)2017年

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