既に幅広く利用されている「空撮」だけではなく、ドローンは災害対応、橋梁の調査、宅配など、様々な産業への応用が試みられている。農業分野もその一つで、従来のラジコンヘリに代わる農薬や肥料の散布、あるいは作物の生育状況のモニタリングなどは、既に実用化されている(DJI社の「農業事例」のページへ)。
“農業国”イスラエル(実は農業国のイスラエル、秘密は「水」)でも、当然、ドローンの活用は進んでいる。元々、国防軍の中にドローン部隊があり、先端技術の開発に従事したエキスパートが数多く存在するため、彼等が軍を卒業した後、様々な産業応用開発を進めている。「AERODROME」という企業もその一つで、ホームランドセキュリティと農業という二つのソリューションを提供している。
農業ソリューションの基本コンセプトに既存ジャンルのドローン応用と特に変わったところはなく、様々な波長の光を扱えるマルチスペクトル・カメラを用いて、作物の育成状況をモニタリングするものだ。図のように、可視光と赤外光の反射光を評価することで、作物が健康に育っているのか、病害虫等で育成状況が悪いのかなどを判断する。
彼等のソリューションの特徴は、徹底的なデータ解析と最適化を進めているところである。
まず、目的に応じた様々な波長や解像度のセンサーを自主開発することで、複数の指標を計測できるようにした。それにより、通常使われる作物の生育・活性度を示す指標「NVDI(Normalized Difference Vegetation Index)」で作物の育成状況をモニタリングする場合に比較し、より正確な評価ができるとしている。
▼下図の左が既存のセンサーで測定したNDVIの写真、右が彼等のセンサーで複数の指標から測定したNDVIの例である。
また、カリフォルニアのプラム農園で白化(chlorosis、植物の葉中のクロロフィル濃度の不足)の発生している場所を特定するためにも使われている。これも、従来のNDVIだけでは評価することができず、別のセンサーと異なる波長でクロロフィルのマップを測定することから実現できるという。
他にも、農薬による雑草除去にも使えるという。雑草がどれくらい除去できたかを正確に評価することで、散布する除草剤の量を最小化し、農地や人に負担を与えないようなソリューションを開発している。
彼らは、ドローン自体も設計している。エアロダイナミクスから見直すことで、航続時間55分、最大航続距離4kmのドローンを実現している。樹木等の障害物を自動回避する、最適な飛行ルートを経て最終的に手元に戻るルートプランナーなどは、軍出身のドローン技術者の面目躍如たるところであろう。
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登録はこちらNTT武蔵野電気通信研究所にて液晶デバイス関連の研究開発業務に従事後、外資系メーカー、新規参入通信事業者のマネジメントを歴任し、2007年ネクシム・コミュニケーションズ株式会社代表取締役に就任。2014年にネクシムの株式譲渡後、海外(主にイスラエル)企業の日本市場進出を支援するコンサル業務を開始。MITスローンスクール卒業。日本イスラエル親善協会ビジネス交流委員。E-mail: hitoshi.arai@alum.mit.edu