WirelessWire News The Technology and Ecosystem of the IoT.

by Category

クジラ ボート イメージ

大企業とベンチャー、それぞれの経営手法

2018.04.16

Updated by Ryo Shimizu on 4月 16, 2018, 09:57 am JST

ギリア株式会社が発足してからもうすぐ1年が経とうとしています。

実を言うと一年前にはこんなことになるとは想像していませんでした。

会社の設立は6月末、その5ヶ月後にWiLが参画し、三社体制へ。そして今、さらに資金調達を進めています。

パナソニックから飛び出したCerevoの岩佐さんが再びパナソニック傘下に戻る、というニュースが先週は界隈を沸かせました。

ギリアは、ベンチャーでありながら大企業とのコラボレーションを行う、という変わった経営形態を採用しています。

メリットは、まず大企業の持つ信用力がベンチャーに加わること。優秀な人材が大企業から送り込まれてくることが挙げられます。

しかし、もっと重要なメリットがあることが最近わかりました。どうしてみんなここに注目しないのでしょうか。それは、大企業の経営ノウハウが手に入ることです。

筆者自身は、Microsoftとドワンゴという規模は大きいもののあくまでも成功したベンチャーで働いた経験があるに過ぎません。会社経営のノウハウは全く持っていなかったので、自分の会社UEIを設立したときの給与体系と人事評価システムはMicrosoft方式をまず踏襲して、その後、自分の会社の状況にあわせて修正を加えていきました。

Microsoftでは、30人くらいのチームのなかで3人くらいのエンジニアをまとめていたに過ぎず、ドワンゴでも、5~15人規模のプロジェクトチームを率いていたに過ぎませんでした。26歳で会社を作ってしまった筆者は、それ以上の規模のチームを率いた経験を持たずして組織を作らなければならなかったのです。

会社が20人規模、40人規模になるまで、あっという間でした。40人くらいになると、ギリギリ全員の顔と名前がわかりますが、それを超えると難しくなってきました。

組織を完全に二つにわけて、筆者は自分がコントロールしやすい20人規模のチームを持ったまま、会社全体としては120人規模くらいまでは成長していったのですが、それは単に全く別の会社が一つの法人を共有しているような状態でした。

そこで、実態に合わせて会社を分割し、また20人規模の会社に戻しました。
ギリア株式会社が発足したのは、まさにそのタイミングだったのです。

大企業から派遣されてきた取締役が全社員に聞き取り調査を行い、筆者の組織の問題点を洗い出してくれました。

「この会社は清水くんを中心とした星型のシステムになっている。これだと規模をこれ以上拡大できない」

鋭い指摘でした。筆者は耳まで真っ赤になった気がしました。実際、それで会社を危機的状況に陥らせてしまった経験がある人間としては、図星としか言いようがなかったのです。

確かに、あらゆる意思決定を自分がするのが当たり前になっていて、広告の文言からデザイン、オフィスに設置する自動販売機のデザインまで、全部自分がコントロールしようとしていたのです。

ゲーム開発ではそれが当たり前だったし、プロデューサーはあらゆるものに責任を持つ仕事だったからです。でも、会社という組織では、経営者がいちいち個別の案件を把握するわけにはいきません。

筆者はこれまで、「経営はプログラミングである」という信念を持って経営を続けてきました。実際、今年で15周年を迎えるUEIは、艱難辛苦を乗り越えながらも、直近は三期連続で黒字を出すことができ、前期は10年ぶりに決算賞与を出すこともできました。

しかし、それはあくまでも中小企業的な組織としての成功であり、「中小企業にしてはなかなか死なない」会社を作っていただけでした。

プログラミングのメタファでいえば、初期のファミコンや、プレイステーションの頃まではプログラマーが一人で全部やる、ということがなくもありませんでした。プログラマーが開発チームのリーダーとなって全部作るわけです。

これが、大規模なWebサイトやら基幹業務システムになると、全てを一人のプログラマーが担当するのは無謀です。つまり会社をプログラムと考えると、複数のプログラマーによるチーム開発を導入しなければならないということです。

しかし、人工知能はあらゆる産業を実際に変え始めています。既に仕事のほうが人よりも多くてパンク気味です。だからこそ増床するわけですが、ここで前と同じように、完全に投げっぱなしにしてしまうわけにはいきません。

考えてみれば、特にソニーという会社は市場まれに見る巨大コングロマリットです。様々な領域に挑戦し、成功し続けてきた経営メソッドがあります。

そこで培われた経営ノウハウをベンチャーに注入することで、ベンチャーのスピード感と大企業の安定感の両方を手に入れることができるというわけです。

ベンチャーの良さは身軽さと速さです。ある事業がダメだったらすぐに他の事業にピボットする節操の無さが、良くも悪くもベンチャーの凄さです。

しかし、速さは同時に欠点でもあります。
そもそもベンチャーが身軽で意思決定が速いのはお金がないからです。
ものすごい勢いでお金が流出していって、それを食い尽くす前に次のファンドを集めるか、売上を立てなければなりません。だからモタモタしてる暇はないのです。

そして素早く意思決定をしなければならないので、判断に余裕がありません。

「Done is better than perfect」が通用するのはFacebookがベンチャーだからです。

大企業の考え方を適用すれば、「How to make perfect」を先に探るのです。
大企業には完璧を目指す権利があります。そのための人員も資金も潤沢にある、という前提があるからです。

ただし、たいていの大企業の新規事業には欠点があります。
それは、規模を求めすぎることです。

新規事業を立ち上げようとするときに、目標とする売上が30億円以上じゃないと認められない、という大企業の話はよく聞きます。

しかし、海のものとも山のものともつかない新規ビジネスで、最初から30億円以上の売上が見込める仕事なんて殆どありません。

だから、新規事業はなかなか立ち上がらないのです。そして、みんながリスクを恐れる、という問題もあります。大企業では、冒険的なことに手を出すよりも手堅く地位を高めたい、という戦略を採用しがちなのです。命令系統のなかに一人でもそういう人がいると、事業は始まる前に終わります。

実際、筆者らも大企業との取り組みの中で、先方のリーダーとされる人がさんざんチームを振り回したあげく、「戦略的に考えて、このプロジェクトは始めないことにしよう」という「意思決定」をいかにももっともらしく言うシーンを何度も見てきました。しかも恐ろしいことに、この意思決定がくだされるのは、彼らが「やろう」と言い始めてから一年から数年経った後だったりするのです。

この傾向は、特に低価格の商品を扱う大企業に多く見られます。低価格の商品は利益率が低いので大ヒットか死か、という二択になります。そして大企業の規模を維持できる程度の「キャッシュカウ」を持っているので、そもそも新しい事業を成功させた経験のある社員がどこにも残っていない、という場合もあります。

問題の要は、大企業の中にいると冒険的なことに挑戦する人材、特に管理職がいない、ということになります。そもそも、就職先として大企業を選択している時点で冒険よりも安定を求める傾向の人たちが集まるのは当然です。ベンチャーは真逆です。例えば筆者の場合、最初から大企業に就職することは選択肢に全く入っていませんでした。普通に就職すれば、できることが大幅に制限されるのは目に見えていたからです。

そこで最近、コーポレートベンチャーキャピタル、いわゆるCVCが登場してきたのです。大企業の余裕とベンチャースピリットの融合、そこにこそ新しい事業を作り上げる秘密があるのかもしれません。

ベンチャーが最も困るのは資金と人材です。その一部を大企業から受け入れることで、優秀な人材を早いタイミングで確保しつつ、リスクを大企業のBSの中から明確に分離してあることで、責任範囲を限定できます。

大企業は、CVCを通じて社内で醸成するのが難しい冒険的な人材を手に入れることができ、同時に自社の無形資産を活かした新しい事業展開に挑戦できます。

その意味で、筆者の「プログラマー経営学」もバージョン2.0にアップグレードする時かもしれません。筆者が全く知らなかった大企業の経営メソッドをプログラマーとしてどう咀嚼していくか。そして大企業にはどんな経営メソッドがあるのか。それを学ぶのが毎日楽しみでなりません。

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

清水 亮(しみず・りょう)

ユビキタスエンターテインメント代表取締役社長CEO。1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

RELATED TAG