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あきた寺子屋 ホライズンワークス 林真人氏

「地域活性化ゲーム「Regional Gate」でプレゼンテーション能力を磨こう

2018.01.18

Updated by Takeo Inoue on 1月 18, 2018, 12:00 pm JST

先ごろ開催された「あきた寺子屋」(主催:秋田産業サポータークラブ)では、大きな目玉として、組織・地域活性化ワークショップが行われた。このワークショップ(研修)は「Regional Gate」と呼ばれるボードゲームを用いて、地域創生に向けた新事業のアイデアを出し合い、具現化へと導くもの。ホライズンワークスの林真人氏が、今回のワークショップのために特別に考案した。ここでは、ゲームの概要とルール、さらに筆者が感じたメリットなどについて紹介しよう。

▼ホライズンワークス 代表取締役 兼 ブルーウォール 主任研究員 林真人氏
ホライズンワークス 代表取締役 兼 ブルーウォール 主任研究員 林真人氏

座学やOJTの前に取り入れたい! ゲームだからこそ得られる効果

「Regional Gate」は、参加者がプレイ通じて、地域活性化の方法やイメージがつかむことができる優れたボードゲームだ。

▼各人に配布された「Regional Gate」のゲームシート。地方活性化のアイデアを出し合うために、非常に凝った構成になっている。
各人に配布された「Regional Gate」のゲームシート。地方活性化のアイデアを出し合うために、非常に凝った構成になっている。

開発者の林氏は、これまで商工会青年部活性化研修ゲーム「Impulse Gate」や、起業体験ゲーム「ダイナミズム」、労務士事務所経営ゲーム「SR-Gate」など、数多くの分野でボードゲームを取り入れた研修を実施してきた。

一般的にゲームというと、遊びだというイメージがあるかもしれないが、今回の「Regional Gate」を間近に見ると、遊びの次元をはるかに超えて、非常に有効な学習メソッドであることがわかる。林氏は、ゲームで学ぶメリットとして「とっつきやすいこと」「失敗しても損失はないこと」を挙げた。

これまでの研修というと、まず座学やOJTを受けて内容を理解してから、実戦投入という流れが定石だった。林氏の研修では、固い座学の前に、ビジネスゲームを取り入れた実践的な体験から始まるため、その後の座学やOJTの理解度が断然深まる。実際に、その効果はテキメンだった。

「Regional Gate」は、参加者が6名ずつのチームに分かれ、各人がチームのなかで、地域活性化を目指すリーダー役(1名)と、それに反対する地域住民役(その他の5名)を持ち回りで演じながら、自身のアイデアを発表しあって、全員で評価するというものだ。

これを4回分(4年分)行っていくなかで、目的到達へのイメージがつかめるようになっていく。組織・地域活性化のアイデアが明確になり、方向性も定まっていくのだ。もちろん、これまで発案したアイデアに関する想定問答は、ストックとして貯められていく。これも後から使えるようになるだろう。

いかに相手の住人を説得しながら、共感を得られるようにプレゼンテーションできるかという点がポイントにつながるため、自身のプレゼンテーション能力や、相手の気持ちを汲んだリーダーとしての資質も向上するように工夫されている。これらのメリットを挙げると、地域活性化のゲームというより、むしろ「楽しみながら学べる地域活性化の教科書」というイメージだ。

やることは至ってシンプル、しかし周到に考え抜かれたゲーム内容

さて、ここからゲームの概要とルールについて触れてみたい。用意されるアイテムは、1枚のゲームシートと、住民トークン×36個。重要なのは、個人のアイデアとプレゼン時に求められる瞬発力だ。以下に、ゲームの流れを示す。

【1】住民の理解とやる気を示すトークン3個をセットする

まず、ゲームシートに各人が手元に住民トークン(住民が賛同し、評価している自分の能力を示す)を3個ずつ置く。これが各人の初期値だ。

【2】その年にやる地域活性化プロジェクトを決める

ゲーム参加者は、ゲームシート左側に記載されたカテゴリー別のプロジェクト(A〜P)から、自分がやりたいと思う分野を選ぶ。

▼ゲームシート左側に描かれた図表から、その年にやる地域活性化プロジェクトを決める。カテゴリー別のプロジェクトがA〜Pまで16個ぶん用意されている。
ゲームシート左側に描かれた図表から、その年にやる地域活性化プロジェクトを決める。カテゴリー別のプロジェクトがA〜Pまで16個ぶん用意されている。

この分野には「産業」「くらし」「文化」「イメージ」という4つの大枠があり、そのなかで細分化されたプロジェクトが用意されている。

たとえば、産業ならば「特徴的な産業」「就業環境」「観光資源」「産業集積」、くらしならば「居住空間」「育児・教育・福祉」「交通の利便性」「住民所得」、文化ならば「歴史・伝統」「個人・有名人」「食文化」「文化・芸術・芸能」、イメージならば「住民の気質・活気」「自然・機構・風土」「地域の自己イメージ」「外部からのイメージ」というように、計16分野の選択肢がある。

これらのプロジェクトには、1〜5までの難易度があり、各人が所有するトークン数に対応している。ただしプレイヤーが最初に持っている住民トークン(前掲)は3つだけ。つまり、ゲーム開始時に、参加者は難易度3以下のプロジェクトしか選べない。ゲームを進める中で、住民の賛同が得られ、トークンをゲットできれば、より難しい4以上のプロジェクトに取り組めるというルールだ。

【3】具体的にどんなことをやるのかを即興で考える

たとえば1年目は、Aプロジェクトを選んだとしよう。これは「特徴的な産業」とう分類になっており、「これぞ、ご当地!」という事業づくりという説明書きだ。このカテゴリーを選んだプレイヤーは、地域ならではの特徴を活かした産業を即興で考える。たとえば秋田では雪が多いので、雪に関連した事業もよいだろう。

【4】住民をその気にさせるようなプレゼンテーションを行う

いよいよプレゼンテーションの開始だ。リーダー役のプレイヤーが「この地域(秋田)を、こういう手段で活性化させたい」と、他メンバーに対してアイデアを提案する。すると、事前に参加者からアンケートを取っておいたネガティブワードが発せられる。

▼プレゼン時に参加者から発せられるネガティブワード。たとえば「住民はこのままでよいと思っているから騒がないで欲しい」といったものだ。
プレゼン時に参加者から発せられるネガティブワード。たとえば「住民はこのままでよいと思っているから騒がないで欲しい」といったものだ。

たとえば「うまいこと言っても、予算が尽きたら手のひらを返すように去っていくんだろ?」「住民はこのままでよいと思っているから騒がないで欲しい」といった、よくある反対の言葉だ。どれも頭の痛いネガティブワードだ。問いかけや疑問がランダムに選ばれ、しかもどんなアイデアにも当てはまる普遍性をもつ反対であることがポイントだ。

地域活性化を担ったリーダーは、住民役の他メンバーを説得するために、数分間のプレゼンを行って、反対ワードを乗り越えられるだけの具体的な施策を説明する。他のプレイヤー(反対の住人)に共感を得られるようなプレゼンテーションになるかどうかが勝負の分かれ目だ。

【5】同じテーブルの参加者(反対の住人)がプレゼンテーションを採点する

他の参加者は、リーダーのプレゼンを聞きながら、1年目(1回目)の事業アイデアの評価を行う。評価項目は「(住民の)気持」「具体性」「根拠」「持続性」の4項目で、5段階の評価をつける。

▼プレゼンの判定。「気持」「具体性」「根拠」「持続性」の4項目を5段階で評価し、ゲームシートに書き込む。
プレゼンの判定。「気持」「具体性」「根拠」「持続性」の4項目を5段階で評価し、ゲームシートに書き込む。
▼参加者の皆さん。ゲームといっても真剣だ。各人の評価を参考に、最もよいと感じたプレゼンテーターを、あとで選ぶことになる。
参加者の皆さん。ゲームといっても真剣だ。各人の評価を参考に、最もよいと感じたプレゼンテーターを、あとで選ぶことになる。

【6】採点の結果、住民のやる気も向上

同様のプレゼンを参加者が持ち回りで実施し、6名全員のプレゼンが一巡した段階で、参加者全員が目をつぶって、自分以外で最も良かったと思われる人に向かって指をさす。

▼全員のプレゼンと評価が一巡した段階で、もっとも良かったプレゼンターを選ぶ。一人の人に集中することもあるし、バラバラに評価されることもある。
全員のプレゼンと評価が一巡した段階で、もっとも良かったプレゼンターを選ぶ。一人の人に集中することもあるし、バラバラに評価されることもある。

ここで自分の事業アイデアが誰かに指名されると、他のプレイヤー(反対住民)から賛同が得られたことになり、その賛同者分だけポイントとしてトークンがもらえる。逆に誰からも賛同が得られなければ、トークンをひとつ失うことになる。

▼他プレイヤー(反対住民)から賛同が得られると、賛同者分だけポイントとしてトークンがもらえて、やる気度が増す。
他プレイヤー(反対住民)から賛同が得られると、賛同者分だけポイントとしてトークンがもらえて、やる気度が増す。

【7】地域活性化リーダーのポイント算出と、チームごとの勝敗を決定

最後に仕上げとして、地域活性化リーダーのポイントと、各チームごとの勝敗も決める。

地域活性化リーダーのポイントは、そのプレイヤーのリーダーとしての資質の目安になる。これはゲームの中で得られた各要素「判定×票数×やる気」の掛け合わせによって表現される。

▼地域活性化リーダーのポイント。「判定×票数×やる気」の掛け合わせによって表現される。
地域活性化リーダーのポイント。「判定×票数×やる気」の掛け合わせによって表現される。

いくらやる気があったとしても、住民からの賛同が得られず、事業アイデアが支持されなけば、判定がゼロになってしまうので、最終的な掛け算のポイントはゼロになる。今回のゲームでは最高得点は50点だった。

チーム全体の勝敗は、各メンバーの地域活性化進捗表のSTEP数の合算によって決められる。

▼各チームごとの勝敗を決める各メンバーの地域活性化進捗表(STEP数)。この合算値が高いほど、チームとしての能力が高くなる。
各チームごとの勝敗を決める各メンバーの地域活性化進捗表(STEP数)。この合算値が高いほど、チームとしての能力が高くなる。

自身が選んだプロジェクトが他人から選ばれると、その大分類(産業、くらし、文化、イメージ)に従って、進捗のポイントが得られる。この合計がチームの総合力となる。つまり、ひとり突出した人がいるよりも、他人から賛同が得られたメンバーが多いほど、そのチームは強い能力を持っていることになるという理屈だ。

実際にやって本当の効果を実感できる! 地域活性化のほか、さまざまな応用も

ここまで概要とルールについて簡単に説明してきたが、実際の参加者の様子はどうだったのだろう。筆者はプレゼンには参加せず、第三者の立場で傍観していたのだが、このゲームを通じていろいろな面白いことに気がついた。

まず林氏が説明していたように、地域活性化のアイデアをひねりだす際に、ゲームとしてのメリットを十分に実感できたことだ。

このゲームの優れた点は、年齢や役職を超えて、初めて出会った人でも、参加者全員が忌憚のない意見を気軽に出し合えるということだ。その評価も平等に行われ、上下関係もなく、忖度もない。きわめて民主的なプロセスで、最もよいプレゼンターが評価される。

1年目は、ゲームの勝手がよくわからないこともあり、参加者は手探りでゲームを進めていた。しかし2年目になると、俄然、その状況も変化する。まずプレイヤーがプレゼンに慣れて、スムーズに発言できるようになる。さらにプレイヤー同士のコミュニケーションが深まる。これは1回目のプレゼンによって、それぞれの垣根が取り払われるからだ。

さらに面白いのは、1年目より2年目のほうが、明らかに各人のプレゼン評価が高くなっていること。筆者はプレゼンに参加していなかっものの、各プレゼンの評価をさせてもらったので、この点に気づいた。筆者のみならず、他の参加者も同様に評点が高くなる傾向がみられた。プレゼンに慣れることもあるし、1回目のプレイヤーの賛同によって、プレイヤーのやる気も増し、互いを認めあう雰囲気が醸成されるからであろう。

本来のルールであれば、4回分(4年分)の事業についてプレゼンするのだが、今回は時間の関係もあって、2回分(2年分)のみが実施された。しかし、だいたい2回やればゲームの全体的な流れと、その効果を実感できるだろう。

プレイヤーによっては、1年目の事業に賛同が得られると、2年目も同じ事業を継続し、さらに具体性を持たせてブラッシュアップしていくケースもみられた。一方で、多くのトークンを得たプレイヤーは、難易度の高いプロジェクト(4以上のプロジェクトは「観光資源」「産業集積」「交通の利便性」「住民所得」「文化・芸術・芸能」「外部からのイメージ」)にチャレンジしていた。

この「Regional Gate」は、プレイをしたあとの振り返りも大切だ。これまで何かモヤモヤしていたアイデアが明確になり、何をすればよいのかということも自分の中で整理される。そして最終的に地域(今回は秋田)を活性化させるベストな企画が出てくるのだ。

今回のゲーム研修を通じて、説得性を持ったプレゼンであったり、コミュニケーションの重要性など、参加者が得られることは多くあったと思う。「Regional Gate」は地域活性化を主なターゲットにしているが、いろいろな分野に応用も利きそうだ。たとえばアイデアだしという点では、アイデアソン(ハッカソン)にも利用できるだろうし、コミュニケーションの観点からも社内プロジェクトの活性化に役立つはずだ。

実際に体験してみて、初めて気づくことも多いので、ゲームだからという先入観を捨て、ぜひ一度やってみることをお勧めしたい。

▼Regional Gateに参加たした皆さん。年齢。性別、立場を超えて、秋田を良くしたいという人々が集まった。
Regional Gateに参加たした皆さん。年齢。性別、立場を超えて、秋田を良くしたいという人々が集まった。

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井上 猛雄 (いのうえ・たけお)

東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにIT、ネットワーク、エンタープライズ、ロボット分野を中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)などがある。