6月19日に東京・大手町で「未来」オープンイノベーションミートアップ イスラエル×デジタルヘルスが開催された。
「【穴場イベント!】イスラエル大使館主催“ミートアップ”」の最後でも紹介しているが、イスラエル大使館経済部が主催するミートアップイベントの一つで、イスラエルの医療・ヘルスケア分野のスタートアップ10社が意欲的なプレゼンテーションを行った。
イスラエル大使館のミートアップイベントは、いろいろな分野を対象に実施されているが、今回の「イスラエル×デジタルヘルス」は三井住友銀行が共催する3回目のイベントである。過去には、2017年7月の「イスラエルxヘルステック」、2017年10月の「イスラエルxフィンテック」が開催されている。タイトルに「未来」とついているのは、SMBCグループの日本総合研究所が企画・運営する事業開発コンソーシアムIII(Incubation & Innovation Initiative)主催の「未来2019」というインキュベーション・アクセラレーション・プログラムが関連したイベントのためである。
最初に、イスラエル保険省のイツィック・レビー氏から「イスラエルのディジタルヘルス戦略とプラットフォームの紹介」というテーマでの講演があった。彼のメッセージは極めてシンプルで、「Global resource crisis in healthcare is becoming inevitable であり、だからこそビジネスチャンスもありイスラエルはそこに戦略的に投資する」というものだ。
今のペースで高齢化が進めば、医者の絶対数が不足する。それを「System Transformation」と「Personal Transformation」という2軸で解決することが、国の成長エンジンになる、という戦略である。課題先進国である日本のほうが高齢化が先行し状況は深刻なはずだが、国の財政規律含めて様々な対策が「後追い」に見える。一方、まだ国民年齢の中央値が31歳のイスラエルが、「国の成長エンジン」としてディジタルヘルス分野の技術開発を戦略的に進めている。
2016年時点で300社を超えるスタートアップがディジタルヘルス分野で活躍しており、今回は10社が独自性のあるプレゼンテーションを行った。また、プレゼンテーション後には、ロビーで個別に各社とコンタクトできる場が設けられ、多くの参加者がそれぞれの興味に合ったテーブルに集まり、商品や技術の質疑だけではなく具体的なビジネスの相談を行っていた。
既存のバランス装置をインタラクティブなトレーニングプラットフォームに変える1枚の「ボード」を開発している。
家庭やフィットネスジムで利用されているバランスボール等の既存のバランス装置は、データが取得できるわけでもなく、効果的な使い方ができるかどうかはトレーナーに依存する。
boboProという1枚の板は、それら既存のバランス装置の上に置いて利用する。加速度計とBluetoothが内蔵され、アンドロイドOSベースのコンソールと連動する。これにより、DummなツールがSmartになり、利用状況をモニターしながらトレーニング用プログラムやゲームと連動することができるようになる。
病院やジムだけではなく、既に米国では76ersのようなスポーツチームにも導入されているという。
定期健康診断使われる安静時心電図検査(ECG)ではなかなか発見することができない「虚血性心疾患」を効果的に診断するHyperQという技術を開発している。
虚血性心疾患とは、心臓の冠動脈が動脈硬化などの原因で狭くなったり、閉塞したりして心筋に血液が行かなくなること(心筋虚血)で起こる疾患である。HyperQでは、心拍の周期のうち、高周波の成分を分析することで、従来は有害な症状が現れなければ気付くことが困難だった疾患を早期に診断できるようにした。
特許取得技術であり、米国FDA認証も受けている。
IoT技術を用いたホームセキュリティのソリューションを提供。既に世界で2500万台以上の装置提供の実績がある。
例えば高齢者介護施設では、高齢者に緊急通知用のボタンを持たせている。この場合は、高齢者側が緊急時に能動的にボタンを押す操作をする必要があるが、センサーや位置情報を利用し、音声を認識したり転んだことを検出することで、センターからの見守りが可能となる。
施設だけではなく、家庭でも利用できるプラットフォームを提供することで、高齢者がアクティブなライフスタイルを継続できるように支援する。
普段利用するスマホを、規制認可対象の臨床グレード尿検査装置に変えるキットを提供する。
既存の尿検査試験紙をベースに、ラボでのスキャナーに代わってスマホのカメラとアプリで自宅で尿検査を可能にした。アプリがステップ・バイ・ステップで利用手順を案内する。
検査結果は自動的に医師に送られる。既にアメリカのジョンズ・ホプキンス大学で試験済みだという。
既に日本法人もあるInsightecは、1999年に設立され、社員300名規模の企業。MRI(磁気共鳴画像診断)に集束超音波を組み合わせ、周囲に悪影響を及ぼさずピンポイントにターゲットとする患部組織を切除する。
例えば、本態性振戦という病気の患者は、手が震えてノートに線を描画することができない、などの症状を呈する。原因としては、脳の特定箇所の障害などがある。本装置を用いてMRIで確認しながら、頭蓋骨を傷つけること無く患部を切除することで、手の震えが止まり、文字が書けたり真っ直ぐな線が引けるようになったビデオが紹介された。
既に世界で45台、日本にも9台(北海道大野記念病院、湘南藤沢徳洲会病院など)に導入されている。今後、パーキンソン病やてんかん、脳腫瘍への応用を目指して研究が進められている。
子供のADHD(注意欠陥・多動性障害)を治療するための装置を開発している。電極が設置されたヘッドギアから、脳の複数領域を刺激する信号を送ることで、薬に頼らず副作用のない治療を行う。
米オックスフォード大学やイエール大学と共同で臨床研究が行われている。まだ臨床試験段階で、今後、規制認可を得るための活動を進める予定。機器を売るだけではなく、刺激信号のプロトコルを販売するモデルも検討している。
血管の縫合部を望ましい角度で支える外部支持装置を開発している。
透析を必要とする患者は、装置と動脈や静脈をつないで透析治療を行うが、この接続部縫合の角度が悪いと、血流が乱れて障害を誘発する場合がある。詳細な解析により、正しい角度で縫合部を支える外部支持装置を開発した。
現在ドイツ市場をターゲットとしており、その後、中国市場への展開を計画している。
衝撃波治療システムを提供する会社で、既に日本法人がある。
腎臓や循環器の病気に、音響技術による衝撃波を利用した治療を提供する。前立腺炎等、様々な治療事例、結果のデータが示された。
美容やリハビリテーションへの応用も可能である。既に世界80カ国以上の病院で利用されており、すべて米国FDAの承認を受けたシステムである。
脳梗塞などの疾病後、歩行困難になっている患者のリハビリ向けに開発されたツール。
臨床研究により、機能的に根拠のある反復的な集中療法を行うことで、四肢の機能回復の可能性が証明されている。
Saluteが開発したツールは、腰のベルトにつけた「抵抗(linear registance)」を生成するデバイスと、両足につけた治具をケーブルで接続し、療法士の指導のもとに適切な負荷を掛けながら歩行訓練をすることにより、機能改善を促進する。
実際にリハビリに利用され、効果が現れた実例のビデオが示された。極めてシンプルな構造であり、病院だけではなく、家庭でのリハビリにも利用可能。特許申請中。
ヘルニア治療で用いられるメッシュ固定法では、現状はアンカーやマニュアルでの筋膜縫合が用いられている。これらは、固定の安定性や手術の時間に課題がある。
Via Surgicalが開発したFasTouch TM システムは、専用のガンのような装置でループ状の治具で極めて簡単に患部を固定することができる。
同社は2012年に設立で、米国では既に広く利用されている。
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登録はこちらNTT武蔵野電気通信研究所にて液晶デバイス関連の研究開発業務に従事後、外資系メーカー、新規参入通信事業者のマネジメントを歴任し、2007年ネクシム・コミュニケーションズ株式会社代表取締役に就任。2014年にネクシムの株式譲渡後、海外(主にイスラエル)企業の日本市場進出を支援するコンサル業務を開始。MITスローンスクール卒業。日本イスラエル親善協会ビジネス交流委員。E-mail: hitoshi.arai@alum.mit.edu