東京オリンピックを守るために ISDEF Japan 2018 (2)不法侵入のドローンを無力化
2018.09.08
Updated by Hitoshi Arai on September 8, 2018, 08:23 am JST
2018.09.08
Updated by Hitoshi Arai on September 8, 2018, 08:23 am JST
南米ベネズエラで8月に開催された軍事式典で、マドゥロ大統領の演説中に爆発物を搭載したドローンが爆発し、兵士7名が負傷した(ベネズエラ大統領、演説中に爆発音 ドローンでテロか)。TVニュースで事件の瞬間の映像を見た人もいるだろう。
日本国内でのドローンの利用については、航空法、小型無人機等飛行禁止法、道路交通法を始めとした様々な法律、さらに都道府県や市町村の条例の遵守が求められているが、ベネズエラの事件のようなテロ攻撃の可能性を想定すると、これら法律による規制だけではなく、施設や人を守るための具体的な対策が必要となる。
今回のISDEFでは、D-Fend Solutionという企業のCEOであるZahar Halachmi氏が"Future of Drones and Anti-Drones Systems"という講演を行い、非常に興味深いドローン対策技術を紹介した。
テロのような違法な目的で利用されるドローンから人や施設を守るためには、(1)他の飛翔体と判別して怪しいと見なされるドローンを発見する、(2)発見したドローンを無害化する、という2段階の対応策が必要となる。この「発見」と「対応」を整理したのが写真1である。
▼写真1 怪しいドローン対策の技術
ドローンを発見するには、レーダーや光学/音響技術が用いられる。どちらも郊外の開けた空間であれば有効であるが、建築物の多い都心では、見通せる距離、あるいは建物による電波の反射などの制約がある。
また、発見したあとの対応策としては、物理的に撃ち落としたり、ネット(網)で捕獲する、あるいは妨害電波により制御不能にさせるジャミングといった方法がある。しかしこれらの方法は、都心などでは落下物による人や建物への被害が想定される。
冒頭に紹介したベネズエラの事件では、対応策として2機のドローンへジャミングをかけたという。その結果、制御を失ったドローンが落下し、搭載していた爆発物が爆発して人への被害が発生した。また、日本では電波法によりジャミングは禁止されているため、対応策としては使えない。
D-Fend社は、そのような都市環境に対するソリューションを提供する。その概念図を写真2と3に示す。
▼写真2 D-Fendソリューションの概念
▼写真3 D-Fendソリューションの運用範囲
D-Fendのソリューションは、コントローラとドローンの通信をモニターして、まずドローンを検出する。そしてその通信内容を傍受し、不正なドローンであることを識別するとともに、その通信に入り込んで制御を乗っ取ってしまうのだ。
仮にオートパイロット・モードであったとしても、ドローンとコントローラとの間では、バッテリー残量、GPS信号、カメラ映像などの信号の通信は常に行われているため、その通信を乗っ取る(Take Over)ことは可能である。また、あらゆるドローンにはユニークなIDが振られているので、それを見ながら敵か味方かを判別することができる。
写真3にあるように、半径3.2キロメートルの範囲で検出し、制御を乗っ取ることで、こちらの望む安全な場所へ遠隔操作で誘導し、着陸させることができる。ジャミングのように制御不能にしてしまうと、ベネズエラの事例のように爆発物を搭載している場合には被害が出る。しかし、D-Fendの場合は制御を乗っ取るので、好きなところへ安全に誘導できるのだ。
1台のドローンを検出してから、位置・軌道を判断し、敵味方の識別後、制御を乗っ取り回避行動に持ち込むまでのサイクルは最大10秒程度とのことだ。従って、仮に1台ではなく複数台のドローンが同時に時速50キロメートルの速度で飛来してきたとしても、3キロメートル先で検知すれば、守るべき対象物へ到達するまでに十分対処可能である。
また、動作周波数も400MHzから6GHzの範囲で対応するので、改造されていたとしても十分カバーできる。
▼写真4 製品のイメージ
システムは写真4のように、センサーユニットとアンテナユニットの組み合わせとなっている。この一組で半径3.2キロメートルをカバーし、複数ユニットを配置することでさらにカバー範囲を拡大することができるという。従って、オリンピック・スタジアムは無論のこと、空港、発電所、官邸などの様々な重要施設への適用が可能である。
ハッキングして通信を傍受するだけではなく、制御を乗っ取ってしまう、という対策は、攻撃という行為から距離を置く日本人には少々衝撃的に聞こえるかもしれない。しかし、筆者が常々主張するように、セキュリティーの世界では「攻撃」と「防御」は表裏一体なのだ。「攻撃」をする力があることで「防御」が可能となる典型的事例であろう。
ジャミングが禁止されている日本では、非常に有効なソリューションであると考える。
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登録はこちらNTT武蔵野電気通信研究所にて液晶デバイス関連の研究開発業務に従事後、外資系メーカー、新規参入通信事業者のマネジメントを歴任し、2007年ネクシム・コミュニケーションズ株式会社代表取締役に就任。2014年にネクシムの株式譲渡後、海外(主にイスラエル)企業の日本市場進出を支援するコンサル業務を開始。MITスローンスクール卒業。日本イスラエル親善協会ビジネス交流委員。E-mail: hitoshi.arai@alum.mit.edu