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イスラエル総選挙のゆくえは?

2019.04.02

Updated by Hitoshi Arai on April 2, 2019, 12:02 pm JST

4月9日にイスラエルで総選挙が行われる。定員120名の国会が解散し、4期12年続いたネタニヤフ政権に対する審判が下る。リクードを中心とする連立与党が勝利するのか、対抗馬として現れた元IDF(イスラエル国防軍)トップのベニー・ガンツ(Benny Gantz)の率いるIsrael Resilience Partyが、同様の路線を取る他の野党と連合することで、リクード主導の政権を倒せるのか、注目されている。

Israel general Benny Gantz emerges as surprise election threat to Benjamin Netanyahu

3月28日には、在日イスラエル大使館でも既に在外投票が行われたようだ(イスラエル大使館の動画)。

日本でも報道されているが、ネタニヤフ首相は汚職疑惑で検察から起訴される可能性があり、国民の評判は決して良くない。検察当局は2月末、国内通信大手に便宜を図った見返りに傘下のニュースサイトでの好意的な報道を求めるなどしたとして、ネタニヤフ氏を収賄罪などで起訴する方針を示した。

ただ、不安定な中東に位置するイスラエルの最重要課題は安全保障であり、右派であるリクードの強硬姿勢が支持される背景もある。

一方のガンツ氏は中道であり、パレスチナ及びアラブの隣人との和平を目指すと主張している。兵役のあるイスラエルでは、軍の指導者は尊敬される存在であり、また、“見た目の良さ”もあって世論調査では急速に人気を集めている。

仮にネタニヤフ氏が起訴されたとしても、もしリクードが選挙で勝てば、法律上は彼が5期目の政権を取ることは可能だという。その起訴から判決確定までに大変な時間がかかるからだ。

ただ、その場合でも政権に参画する政治家は少ないのではないかという見方もある。政権が変わった場合、各大臣だけではなく、電力会社などの国営企業のトップもすべて入れ替わるという。汚職疑惑で起訴される可能性のある指導者のチームメンバーに加わる、というのは、控えめに見ても得策ではない。特に政治家であれば、そのように考えるのではないだろうか。したがって、仮に選挙で勝ったとしても、ネタニヤフ氏が首相を務め続けるのは難しいのかもしれない。

一方で、ガンツ氏が勝利した場合、中東の和平は進展する可能性はあるのだろうか? 25年前のオスロ合意は既に意味をなしてない。行き詰まりの要因は、一方ではイスラエル側の右傾化であるが、他方ではパレスチナ側の指導者が分裂状態にあり、交渉できる「主体」を確立できてこなかった点もある。

自治区の現状についても、自治政府による占領、と表現するパレスチナの若者もおり、「その占領とイスラエルの占領とを区別する唯一の違いは、彼らの話す言葉がアラビア語だということだ」とコメントしている。

オスロ合意から25年、希望を見いだせないパレスチナの若者たち

東洋英和女学院の池田学長によれば、両者ともお互いに和平の実現のためには「ある程度譲る」ことが必要であることを頭では理解しているが、感情がついて行かない、という。ロジックではなくセンチメントが支配する状況が変わらなければ、ガンツ氏がどのように和平を進めようとするのか、具体的な方向は容易には見えないだろう。

また、安全保障については、アラブ各地の内戦がイスラエルに波及してきているという状況も大きな転機になったと池田学長は指摘する。例えば、対立するシリアとイスラエルの間では、従来はゲームのルール(この線を超えたら攻撃する)が確立していたので、ゴラン高原はある意味で平穏であった。ところが、イスラエルを消滅させると主張するイラン系の武装勢力がシリアの中に分散してきたことで、従来のルールが成立しなくなり、戦時でも無く平和でも無い、という状態(Campaign Between Wars)の常態化が進んできた。これにどのように対応するか、というのが今のイスラエルの安全保障の課題である。

イスラエルは単独の政党が政権を取ったことがなく、常に複数の政党による連立政権で成り立っている。つまり、誰が勝つのかよりも、どのような連立が組まれるのか、のほうが重要なのだ。 その意味でも大きく変わることはないのかもしれない。

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新井 均(あらい・ひとし)

NTT武蔵野電気通信研究所にて液晶デバイス関連の研究開発業務に従事後、外資系メーカー、新規参入通信事業者のマネジメントを歴任し、2007年ネクシム・コミュニケーションズ株式会社代表取締役に就任。2014年にネクシムの株式譲渡後、海外(主にイスラエル)企業の日本市場進出を支援するコンサル業務を開始。MITスローンスクール卒業。日本イスラエル親善協会ビジネス交流委員。E-mail: hitoshi.arai@alum.mit.edu