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教育から探るイスラエルの強さの秘密(3) ラビ・アキバの物語 その1

2018.09.29

Updated by Isaku Aoki on September 29, 2018, 13:42 pm UTC

イスラエルの教育を語る時、必ずある人物の名前が出る。それは紀元1世紀末から2世紀にかけて活躍したユダヤ教最高の律法学者であるラビ・アキバである。このラビ・アキバについて何回かに分けてお話したい。

まずは今回は、ラビ・アキバの生まれ育ちと生涯の伴侶となる女性との出会いについて。


ラビ・アキバは、ローマ軍によってユダヤ王国の首都エルサレムが破壊される年(A.D.70年)の17年前に生まれた。ラビ・アキバの父ヨセフも、またその祖父や曾祖父もみな無学な羊飼いであった。またアキバも、子供の頃、貧しく満足な教育は受けられなかった。学校には行けず、アキバは羊の番をしながら家族の手伝いをしていたのだ。

青年になったアキバは、当時のイスラエルで最も裕福な層の一人であるカルバ・サブアの羊飼いとして働いていた。カルバ・サブアには、ラケルというとても美しい娘がいた。ある日、ラケルは父親の羊の様子を見に野原に出かけた。貧しい羊飼いアキバは、一瞬にしてラケルに恋心を抱いてしまった。彼の心はとても幸せな気持ちになった。そしてその想いは日に日に募るのだった。

ラケルは、来る日も来る日も羊を見にやってきた。そう、彼女もアキバに想いを寄せるようになったからだ。何日かたった後、意を決したアキバは遂に想いを打ち明けた。

「ラケル。私はあなたがお金持ちの娘で、自分は貧しいただの羊飼いだということが分っている。しかし、これ以上黙っていることはできない。私の君への愛を隠しておくことはできないんだ! 私の妻になってほしい。それ以外の幸せはないから!」

ラケルは答えた。「もしも、あなたがトーラー(ユダヤの経典)の勉強をし、ユダヤの教育をあきらめずに受けるなら、結婚する」と。

その答えにアキバはとても悲しくなった。「貧しくて、仕事に追われている自分が、学校に行くことなどできるはずがない。年も取っている上、読み書きもろくにできない私が、難しいトーラーなど学ぶことができるだろうか?」

ある日、アキバは寂しげに羊の群れの中に佇んでいた。すると妙なものを見つけた。深い穴が開いた大きな硬い岩である。何がこの岩にこんな深い穴を開けたのだろうか?

アキバは不思議に思って近寄ってよく見ると、それは上から落ち続けた水の雫によってできた穴であることが分かった。絶え間ない水の雫が、長い時間をかけて硬い岩をも削ったのだ。

「素晴らしい!」アキバはそう呟いた。柔らかい水であっても、硬い岩に穴を開けることができるのだ。

それでアキバは悟った。たとえ若くなくても、教育を満足に受けていなくても、トーラーの学びに彼のすべてを賭けることができる。学び続ければ自分は変われるんだ、と。


次回からは、無学だったアキバがその後、どう学んで尊敬を集める存在になっていったかをお話ししようと思う。

(つづく)

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青木 偉作(あおき・いさく)

エルサレム・ヘブライ大学社会学部政治学科卒。日本経済新聞社記事審査部スタッフを経て、現在、大阪大学・ユダヤ文化研究会ヘブライ語講師。主な訳書・著書に『ハマスの息子』(幻冬舎)、『ユダヤ人に学ぶ日本の品格』(PHP)、『ユダヤ人の勉強法』(中経出版)、『まずはこれだけヘブライ語』(国際語学社)等がある。