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厚生労働省の「毎月勤労統計」問題をITガバナンスの観点から検討(4)

Discuss Japanese Government's stat scandal with IT Governance

2019.01.31

Updated by Mayumi Tanimoto on January 31, 2019, 07:15 am JST

4回にわたって厚生労働省の「毎月勤労統計」問題をITガバナンスの観点から検証してきましたが、今回はまとめです。

今回のスキャンダルは思った以上の大事件ですが、問題が明るみになったことには良い点もあります。

それは、気が付かなった問題が可視化され、対策が取りやすくなった、ということです。気が付かなければそのままでしたので、被害はもっと大きくになっていたでしょう。

 

・単なる犯人探しは避けるべき

野党は問題を追求する予定のようですが、単なる犯人探しはシステムや組織の改善には繋がりません。改善の機会はどこにあり、どうしたら今後は問題を回避できるかという建設的な提案を議論していくべきではないでしょうか。

犯人探しに熱心になると、現場は萎縮し、改善作業も難しくなってしまいます。

また原則そして、この様な問題には罰則を適用するべきではありません。

・日本政府への提案

日本政府に対しては、ITガバナンスの観点から以下を提案します。

1. 政府全体でのITガバナンス体制の構築、標準とフレームワークの策定、実装

現在日本政府に不足しているのは、中央官庁全体での共通するITガバナンスの仕組みです。

今回の厚生労働省の統計問題では、変更管理プロセス、リソース管理、インシデント/プロブレム管理のプロセスが成熟しておらず、改善の余地があることが明らかになりました。これらのキープロセスを含め、ITガバナンスの標準とフレームワークを定義し、各省庁が実装する必要があります。

2. 外部コンサルタントによるプロセス監査

ITガバナンスで最も重要な活動の一つはプロセスの適正化です。プロセスが実装され、適切に運用され、またそのパフォーマンスが適切かどうか、定期的に外部コンサルタントにより監査を受ける必要があります。

3. プロセス評価を業績評価に連動する

結果は、全省庁で共有し、プロセスのKPIは各行政官の実績の5%程度に反映するべきでしょう。KPIは四半期ごとに定義し、上長と担当者が合意する必要があります。統括したKPIは上長や幹部のKPIの一部になり、最終的には事務次官のKPIの一部となるべきです。

4. ITガバナンスを政府のIT戦略の骨子に含める

ITガバナンスの適正化は、政府のIT戦略の重要課題に含まれるべきです。適切なITガバナンスは行政効率化を推進し、税の効率的な配分を使用に貢献します。

5. プロセス管理システムの導入

変更管理の申請や結果等、各プロセスのキーになる情報は各ステークホルダと共有され、迅速に検証、承認される必要があります。担当者が出張や病気で不在だったり在宅勤務の場合もありますので、仮想化ソリューションを導入しその上で使用できるようにする仕組みも必要です。

6. 民間から中途採用者の採用

民間のIT企業から技術者や管理者を採用し、外部の視点を導入するべきです。また、システムを担当する要員は大学や大学院で数学や情報科学などを担当した専門家とし、IT専門家のキャリアトラックを作るべきでしょう。民間の経験者を採用する際は特例として市場レートの賃金を支払うべきです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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