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島内外の人の繋がりが過疎を救う。「30年後誰もいなくなる」と言われる伊豆大島の存続に向け活動する夫婦の話

2019.02.26

Updated by 創生する未来 on February 26, 2019, 16:00 pm UTC

人口減・観光客減・一次産業衰退という3つの課題。伊豆大島に移住した夫婦はいかにして結果を出したか。

全国的に地方の過疎化が進むなか、東京・伊豆諸島の一つ、伊豆大島も人口減少が著しい場所だということをご存知だろうか。東京という人口密度が日本で最も高い地域に属しながらも、30年後には人がいなくなるかもしれないと言われている、消滅可能性都市*のうちの一つだ。

千葉夫妻と長女。そして島の友人
▲千葉夫妻と長女。そして島の友人

この過疎化に直面している伊豆大島に移住した、千葉努・れみ夫妻。NPO法人Kichiという団体を立ち上げ、伊豆大島の人口減少、観光客減少、そして一次産業の衰退という3つの課題に対する取り組みを行なっている。

フリーペーパーの制作、イベント企画、そして島内外の人を繋げるコミュニティ作りなどの施策を続けて7年。平成28年から30年にかけては、伊豆大島の来島者数が2万人も増加した。また、総人口こそ減ってはいるものの、近年移住者が増えてきていると、肌で感じられるという。

もちろん来島者数や移住者が増えた全てがKichiの力によるものではない。移住者が1人増えれば、プレーヤーが増え、移住や観光の流れは加速するからだ。しかしNPO法人Kichiは、間違いなくここ数年の移住者増、来島者増の立役者と言えるだろう。彼らが結果を出せている理由は、島民だけでなく島外の人にも良い刺激を与えられるような、妥協しない情報収集・提供や空間作りにあった。

*少子化や人口流出に歯止めがかからず、存続できない可能性を持つ自治体のこと

Uターンの妻とIターンの夫の視点だからこそ見えた伊豆大島の課題と可能性。魅力を発信すべく任意団体Kichiを立ち上げる

大都会・東京都沿岸には、伊豆諸島9島・小笠原諸島2島の計11島がある。東京から飛行機で30分着く島から、船で24時間かけてたどり着く島までさまざまだが、どの島も自然豊かで、昔から農業、水産業、建設業、観光業などが行われてきた。

伊豆大島は、11島のなかで本島からもっとも近く、人口も8,000人と一番多い。都内から船で約1時間45分、飛行機であれば調布飛行場から約30分で行ける。島というと海、と結びつけたくなるところだが、伊豆大島の魅力は海だけではない。もちろん魚影が濃く、ウミガメも棲み着く美しい海岸もあるが、噴火によって生まれた火山島という一面も持つ。ワイルドな山並みや、山頂でえぐられたように口を開ける火口、一面に広がる溶岩の真っ黒い砂漠など、東京都内とは思えない、まるで他の惑星に来たかのような絶景が、たった一周約50kmの島に広がっているのだ。

また、暮らす人々にも都心とは違う魅力がある。祭りごとに熱く、6つある集落がそれぞれお祭りを開催していたり、明日葉(あしたば)など本土ではなかなか見ない農作物を育てていたり。人と人との付き合いも近く、魚や野菜が取れたら近所に分ける、困っている時は互いに助け合うということも当たり前に行われる。

火山島ならではの絶景を撮影する努さん
▲火山島ならではの絶景を撮影する努さん

横浜出身でウェブデザイナーの夫・努さんと、伊豆大島出身でグラフィックデザイナーの妻・れみさんは、2人でto-onというデザインオフィスを都内で立ち上げていた。当初は伊豆大島に移住する予定ではなかったが、努さんが伊豆大島を訪れた際に島の魅力に惚れ込み、移住を決意。それと同時に、伊豆大島には大きな課題があることにも気がついた。

「東京から船で2時間以内で行ける立地の良さ、火山島ならではの壮大な自然、長きに渡り受け継がれる祭りや伝統、都会では出会うことができない職業や発想を持った人々…こんなにも魅力を持つ島なのに、本土の人は伊豆大島の存在すら知らない人が多いのです」

観光者数は1973年の83万人をピークに著しく減少し、2000年代初頭は20万人ほどまで落ち込んでいた伊豆大島。

「島ブームだった1970年代からこんなにも観光客が減少してしまった理由はさまざまだと思いますが、一つとして、伊豆大島自体の魅力がきちんと発信されていないことが挙げられると考えました」

娘と散歩がてらに絶景を見にきた努さん。散歩コースで気軽に火山を訪れるというのも伊豆大島ならではの体験だ
▲娘と散歩がてらに絶景を見にきた努さん。散歩コースで気軽に火山を訪れるというのも伊豆大島ならではの体験だ

クリエイターとしての能力を持ち、島内のことを知るれみさんと、流行や島外の人が好むものなどを把握している努さんの2人の力を合わせれば、島の問題を解決できるのではないか。2012年、伊豆大島に移住すると同時に、NPO法人Kichiの始まりである、任意団体Kichiを立ち上げた。

伊豆大島を知ってもらい、関わる場を作る。島内外の人を結ぶために行った3つのステップ

Kichiが主に今まで行ってきた取り組みは大きく3つ。フリーペーパーの発刊、コミュニティスペースの企画・運営、そしてイベント企画だった。

「この3つの事業はそれぞれ役割が違います。3つがあるからこそ、伊豆大島を知るところから、伊豆大島で行動する、というところまでを繋げられる。それが、人口減少、観光客減少、一次産業の衰退を止めるきっかけや気づきになると思います」

ステップ1. フリーペーパーで伊豆大島の魅力を周知する

まず、大島を知ってもらうために始めたフリーペーパー制作では、夫婦にかつて味噌作りなど昔の知恵に関するフリーペーパーを自費出版した経験があったため、そのノウハウを生かした。

人々の繋がり方・建築・自然・食・遊びなど、ガイドブックには載っていないような、2人だからこそ感じた大島の魅力をまとめ、発行のたびに改訂を重ねつつ進化させていった。

2017年12月発行分が25号目にあたり、発行部数は累計45,000部。配布先は島内と島外で半分ずつ、フリーペーパーの雰囲気に合うようなカフェや雑貨屋などに置いてもらっている。

12class
▲伊豆大島のフリーペーパー「12Class」のウェブサイト。このウェブサイトの作成からフリーペーパーの紙面デザイン・コンテンツ作りまで印刷に関わるところ以外を千葉夫妻で行っている

また、ディープな伊豆大島の良さを広げる認知活動のなかで、夫婦は人脈という財産も築いていった。

「類は友を呼ぶと言いますが、伊豆大島在住で地域振興に関心のある人や、島外在住で地域活性に関心がある人々など、自分たちと似たような目線を持っている人たちとの出会いの機会に多く遭遇しました。そして、彼らを繋げれば、面白い化学反応が起こるのではと気づき、コミュニティスペースを作ることにしたのです」

ステップ2. 人々が交流できる物理的な場所を設ける

「フューチャーセンター」と呼ばれる場を知っているだろうか。
「フューチャーセンター」とは、企業、政府、自治体などの組織が、中長期的な課題の解決を目指し、さまざまな関係者を幅広く集め、対話を通じて問題の解決策や新たなアイデアを見つけ、実践に繋げることを目指す施設を言う。

コミュニティスペースを作ろうとした2人が目指したのは、単に人々が集うだけでなく、このフューチャーセンターとしての役割を持った場だ。

「伊豆大島にも交流場所を設けることで、島内外関わらず知恵やアイデアを人々がシェアでき、お互いがインスパイアを受け、そこから新たなカルチャーが生まれるような中継地点となってほしい」

2人のアイデアに共感してくれた知人が、目の前に海が広がり港から徒歩1分という、最高の立地にある元ジャズ喫茶を紹介してくれたおかげで、2人が移住した2012年の夏という早い段階で、物理的なコミュニティスペース・Kichiを作ることができた。人々がより気軽に訪れることができるよう、カフェ営業も同時におこなった。

ステップ3. 島の魅力に触れられるよう、実イベントを企画・開催する

コミュニティスペースKichiで開催したイベントは多数。しかし島内外の人を集めた最初の交流会こそ夫婦で考え実施したが、その後は集う人のあいだで自然にブレインストーミングが行われ、イベントのアイデアが生まれるようになっていった。島外から講師を呼んでのワークショップ、ミュージックライブ、アートイベント、子ども向けイベントなど、ユニークな企画が生まれるようになっていったのは、まさにKichiがフューチャーセンターとして機能した結果だろう。

夫婦が培ってきた繋がりだけではなく、交流会に参加した人々がそれぞれの繋がりやコンテンツを持ち寄ることで、イベントが実現するという良い流れが生まれている。

コミュニティカフェ・Kichiでのイベントの様子。多くのお客さんが訪れた
▲コミュニティカフェ・Kichiでのイベントの様子。多くのお客さんが訪れた

また、一見、関連性のないイベントが単発的に行われているように見えるが、ここにはきちんと「伊豆大島から、次世代の若者が積極的に何かに取り組めるような社会を作り出せるようなイベント」という一本のテーマがあった。

「島外にあり普段目に触れることができない物、食べ物、人々と伊豆大島の人が触れる機会をつくることで、島からいろいろなことにチャレンジしやすい環境を作る。自分の島が面白い、チャレンジができると感じれば、島で生まれ育った人は島に戻ってくる可能性があります。また、島外からイベントを通して来島してくれた人たちも、島や人々に触れることで面白いと思ってもらえたら」

さらには、島のスーパーマーケットの駐車場を借りて島のクリエイターや飲食店を集めたマーケットを開いたり、伊豆諸島の一つ、新島のバーが伊豆大島で1日限りの出張バーを開いたり、映画の撮影場所として伊豆大島が選ばれたりと、コミュニティスペースを飛び出し、活動領域はどんどん広がっていく。

大島観光協会屋上のテラスを利用した「潮風のテラス」にて、Kichi主催のマルシェを行った時の写真。海に臨む会場で、家族連れも多く参加した1

大島観光協会屋上のテラスを利用した「潮風のテラス」にて、Kichi主催のマルシェを行った時の写真。海に臨む会場で、家族連れも多く参加した2
▲大島観光協会屋上のテラスを利用した「潮風のテラス」にて、Kichi主催のマルシェを行った時の写真。海に臨む会場で、家族連れも多く参加した

2016年には、東京都アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)が展開する東京アートポイント計画に、共催団体として参加する機会にも恵まれた。地域社会を担うNPOが、まち・人・活動をつなぐアートプロジェクトを展開するもので、東京都内さまざまな地域のNPO団体が参加するこのプロジェクトに向け、KichiもNPO法人へと変更した。

大島イイもの展
▲東京アートポイント計画の一環として、都内で行われた伊豆大島の魅力を伝えるイベント「大島イイもの展」の様子。島の特産品の実物を真空パックに入れ天井から吊り下げて展示したり、島の30代にスポットを当て島の生活や未来をリアルに伝える展示、また2013年に起こった土砂災害の復興支援としてのアートや、島素材で作った創作料理の振る舞いなど、伊豆大島を肌で感じてもらえるようなイベントに仕上げた

「目先の利益にはならなくても、伊豆大島の未来のために」Kichiの活動は想いを共有する住民の助けがあってこそ

だが、Kichiの存在が知られていき、活動内容も変化し盛り上がっていく一方で、マネタイズは難しかった。今まで行ってきたKichiとしてのイベント、コミュニティスペースの運営、フリーペーパーの出版はほぼ自腹。さらに、フリーペーパーの制作を進める仲間も、ほぼボランティアで参加してくれている。イベントを開催する際も、伊豆大島の未来のために頑張ろうとしてくれる仲間がいたことで、さまざまな試みを形にすることができた。

「Kichiとしての活動を行うにあたって、妻が伊豆大島出身ということは、とても大きい。私もウェブデザイナーとして育んだ創造性や発信力が、島の役に立てばと思い、活動を続けています。でも、一番は島の皆さんがいつも快く手助けしてくれたことにあります。島民の方々がいたからこそ出来たことはたくさんあり、本当に感謝でいっぱいです。我々夫婦だけではかなり難しかったと思います」

島巡りのコーディネートや特産物のマルシェなど新しい取り組みも。伊豆大島のファン作りを続ける

2018年、3年計画だった東京アートポイント計画が終わり、また建物の事情でコミュニティカフェ・Kichiをいったん閉めることになったNPO法人Kichiは、新しいフェーズに入っている。

「移住し、Kichiとして取り組み続けて7年。伊豆大島って面白いと思ってくれる人が増え、肌感ではありますが移住者も少しずつ増えていると思います。微増ですが、観光客も増えているようで、メディアに伊豆大島が出る機会も増えたのは、嬉しい限りですね」

Kichiホームページ
Kichiホームページ。デザインからコンテンツ制作まで夫婦で手がける。イベント情報やフリーペーパーの最新情報、その他島に関わる最新情報など、伊豆大島の観光情報などを継続的に発信

今後のKichiの取り組みとしては、まず新たな場所でコミュニティカフェ・Kichiを再開すること。そして、島外の人と島内の人が、観光というキーワードでより繋がれるように、コンシェルジュをやりたいという。

「旅行者の旅をコーディネートすることで、我々が出会ってきた島で面白い取り組みをしている人と、旅行者をマッチングさせ、旅行者には普通の旅行では出来ない体験をしてもらいたいです。また、島内の人にとっても、島外の人と触れ合うことで、刺激になると思います」

また、冒頭に挙げた3つの課題の一つであった一次産業の衰退に対する取り組みのために、マルシェも積極的に行いたいとのこと。お店は構えていなくても、自慢の食材や物を作る人が、伊豆大島にはたくさんいる。その人たちを集めて、今までにないマルシェを作っていきたいそうだ。

人口や観光客を増やしたり、一次産業の衰退を食い止めることは並大抵のことではない。しかし、仲間を増やしながらゆっくり、しかし着実に関係人口、伊豆大島のファン、さらに伊豆諸島全体のファンを増やしている。これが出来ているのは、千葉夫妻が島の良いところだけを取っていくのではなく、Kichiの取り組みでも、デザインオフィス to-on の取り組みでも、なにより千葉夫妻という島の一住人としても、全てにおいて伊豆大島の人々と深く付き合っているからだ。

楽しいからできる。そう笑顔で答えてくれた千葉夫妻。この妥協のない取り組みが、伊豆大島の明るい30年後を築き上げていくはずだ。

(執筆:Fujico)

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