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第4回 グローバル市場での通信運用自動化の動向(2)

第4回 グローバル市場での通信運用自動化の動向(2)

2019.02.07

Updated by Takashi Kokubo on February 7, 2019, 10:08 am UTC

前回の連載から少し間が開いてしまいましたが、第3回に引き続き運用自動化やAI導入のマーケット動向を、この分野に関連した標準化の面から説明したいと思います。「標準化」は通信やIT業界においては、世界共通の技術仕様を定める活動を意味します。また、その技術仕様の内容を議論・整理して最終的な業界標準を策定するための場として「標準化団体」が存在します。3GPPなどの代表的な標準化団体の活動には主要な通信事業者やベンダーはほぼ全て参加しています。

各ベンダーが標準化されている共通の技術仕様を用いているため、通信事業者は様々なベンダーの機器(スマートフォンを含む)やソフトウェアを組み合わせて通信ネットワークを構築することが可能となります。ただし、必ずしも標準化で全ての技術仕様が定められているわけではありません。通信事業者の方針に任されている部分も多くあり、ベンダーも様々な独自仕様を提案しています。実はこの連載のテーマとして自動化の対象となっている「通信の運用」に関わる部分は、各通信事業者が自社の運用方針や環境に応じて独自に作りあげる分野であること、またそのプロセスには人間による作業が多く含まれることから、標準化とはあまり相容れない分野と考えられていました。

しかし、最近になって運用の中でも比較的ネットワーク機器と直接データのやり取りを実施する部分を中心として、「運用自動化」の標準化を行おうという動きが出てきました。ここではTuplでも動向をウォッチしている二つの標準化団体に絞って、活動の概要を示したいと思います。

ETSI (European Telecommunications Standards Institute)

ETSIは歴史あるヨーロッパの通信関連の標準化団体であり、様々な分野の仕様を策定していますが、その中の一つの標準化グループとして2017年12月にZSM-ISG (Zero touch network and Service Management Industry Specification Group)を発足させました(ニュースリリース)。Zero touchという言葉は聞きなれないかもしれませんが、「全く人手を介さない」という意味であり、まさに通信ネットワークとサービス管理の自動化を目標としています。以下にETSIのサイトから参加企業の一覧画像を添付しますが、日本の通信事業者を含めて、多くの通信事業者・ベンダーが参加しています。

第4回 グローバル市場での通信運用自動化の動向(2)

ISGの自動化の対象としては「all operational processes and tasks (e.g. delivery, deployment, configuration, assurance, and optimization) - 全ての運用プロセスとタスク(例:受け渡し、展開、コンフィグ、品質保証および最適化)」と記載があり、通信事業者の運用作業全てを自動化するという意欲的な目標を持っています。また、ソフトウェア開発の中で大きな流れとなっている「オープンソースプロジェクト」と標準化団体の協調を手助けすることも狙いとしています。

ここで策定される仕様とは、自動化を実現するためのソリューション・アーキテクチャや管理対象の装置との間のインタフェースになります。ただし、全ての標準化を同時に検討することは難しいため、まずは5Gのネットワーク、その中でも特にSDN(Software-Defined Networking)やNFV(Network Functions Virtualization)をソフトウェアが自動的に管理するためのアーキテクチャやインタフェースの仕様策定に取り組んでいると聞いています。実際にサイトを見ても、まだ仕様も一つしかなく、より具体的な結果が出てくるにはもう少し時間がかかりそうです。

TIP (Telecom Infra Project)

TIPはFacebookが主体となって2016年に立ち上げた新しい標準化団体です(アウトプットの範囲が広いため、厳密には標準化団体とは異なりますが、ここでは分かりやすく標準化団体として整理しています)。ハードウェア製品を含む通信業界の製品にもオープンソース・プロジェクトと同様の開発手法、つまりアーキテクチャ・仕様をある程度オープンに議論をして、様々なプレイヤーが協力しながら開発する手法を取り入れようとしているものです。通信機器ベンダーの大きな差別化要素の一つであるハードウェアのオープン化ということで、参加メンバーを見ると多くの通信事業者が参加している一方、必ずしも主要ベンダーが全て賛同・参加しているわけではありません。実際に、この光装置関連の事例にもあるように、インタフェース仕様の策定だけではなく、実際のソースコードがGitHubで開発・公開されることになります。

運用自動化の標準化という観点では、「Artificial Intelligence and Applied Machine Learning」というプロジェクトグループが存在し、AIを用いてネットワーク運用とお客様体験を向上させるための仕様が議論されています。こちらのリンクでプロジェクト概要を確認することができ、以下の画像のようにスコープが整理されています。

第4回 グローバル市場での通信運用自動化の動向(2)

現在エンジニアが実施している作業の自動化もユースケースとしてカバーしており、Tuplが取り組んでいる領域と重なる部分も大きいと感じています。例えば、スコープの一つである「Customer behavior-driven service optimization(お客様行動に基づくサービス最適化)」の項目は、第2回で紹介した「ACCR(お客様苦情の自動解決)ソリューション」を含むかもしれません。

残念ながらこちらのプロジェクトグループの検討状況は公開されていないのですが、各スコープの最終フェーズのターゲットが2018年第4四半期となっていますので、そろそろ何かリリースされるのではないかと期待しております。

今回は二つの標準化団体のみをピックアップしましたが、他にも運用自動化の標準化、および通信に対するAI適用の標準化として、以下のような取り組みもあります。興味があれば定期的に確認してみてください。

ONAP (Open Network Automation Platform)
ITU-T FG-ML5G (Focus Group on Machine Learning for Future Networks including 5G)

これら各団体の活動を確認することで、以下の三つのことが運用自動化のマーケット動向として言えると思っており、今後の自社戦略を考える上で意識する必要がありそうです。

・様々な標準化の動きがあるということは、通信業界において運用自動化は避けられない流れとなっている証拠であり、各企業・関係者間で自社メリットをより大きくするための綱引きも始まっている。

・運用自動化の対象は大きく二つの分野に分けられる。一つは「NFVなどの非常に複雑なネットワーク制御、すなわち人間が対応するのがそもそも困難な分野の自動化」。もう一つは「これまで分析(Analytics)に基づいて人間が判断していた業務の自動化」。

・AIや機械学習といったIT分野の技術活用が必要になることから、通信ネットワーク用の製品・ソリューションにおいてもオープンソースを意識した取り組みが必要になってきている

ただし世の中のニーズの観点からは、できるだけ早い自動化が必要とされており、ここに挙げた標準化のスピード感とはギャップがあると考えています。そのため実際の通信の運用自動化に関しては、まず先進的な通信事業者や強力な通信機器ベンダーが独自仕様で実装・導入を先に進め、将来的に標準仕様に調整されていくような気がしています。

最後に、通信業界の海外動向を一番肌で感じることのできるイベントとして、毎年バルセロナで開催されているMWC Barcelona(旧Mobile World Congress)があります。昨年に引き続き5Gが主要トピックにはなるでしょうが、2019年は間違いなく、AIや自動化も大きなトピックとして盛り上がると考えています。その時期の各社発表を確認する際は、ぜひAIや自動化といったキーワードにも注意を払ってみてください。

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小久保 卓(こくぼ・たかし)

TUPL ジャパン・カントリー・マネージャー。NTTドコモにてネットワーク装置開発や経営企画に従事後、2009年に外資通信機器ベンダーであるノキアシーメンスネットワークス(現ノキアソリューションズ&ネットワークス)へ転職。ノキアでは日本の事業戦略統括やフィンランド本社での事業分析責任者を歴任。2017年2月より現職。2001年京都大学情報学研究科社会情報学専攻修了。