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鶏肉 調理 部位 イメージ

6)チキンカレーで使うべきは鶏のどの部位か?

2019.04.22

Updated by Toshimasa TANABE on April 22, 2019, 20:11 pm UTC

インドカレーの中でも最もポピュラーなカレーは、チキンカレーではないだろうか。とはいえ、カレーベースの種類や鶏肉の部位などによって、チキンカレーには多くのバリエーションがある。

・トマトベースの基本のチキンカレーの場合
師匠のメヘラ・ハリオム氏が公開している「ベーシックなトマトベースのチキンカレー」を念頭に置いて、鶏肉はどの部位を使うべきか、その選択は何がポイントなのか、といったことを考えてみたい。

簡単に言ってしまうと、チキンカレーは「胸肉」で作るのが美味しい。同じ作り方でモモ肉と胸肉のカレーを作って比べてみるとよく分かるが、モモ肉よりも胸肉の方が食感がふっくらとソフトでさっぱりと美味しい。モモ肉だと脂が強いということもあって、鶏くさくなってしまう(その方がコクが感じられて好き、という人もいるだろうが)。

また、筋肉組織の違いから、モモ肉だと肉にカレーの味が入りにくいということもある。カレーベースに肉の味が出て、肉にはカレーの味わいが入り込む、このバランスが肉に火が通るタイミングで丁度良い、というのが胸肉の良さなのだ。

ただしこれは、作り置きではないでき立てのカレーを食べる場合に限った話だ。胸肉は、時間が経過すると火が入り過ぎて固くなってしまうので、完成した状態で作り置きするような場合は、モモ肉の方が良い。あるいは手羽元など長時間の加熱を前提にした骨付きの鶏肉を使う。和食であれば出汁の沁み込んだ「筑前煮」などを思い浮かべてみると、胸肉のカレーが長時間経過したらどうなるかが想像できるだろう。

ひと口大に切った鶏胸肉を使うチキンカレーは、胸肉のソフトでさっぱりとした味わいを最小限の加熱で味わう、というカレーなのである。チキンの味わいをカレーベースに出しつつ、火を入れ過ぎずにふわっとした鶏肉が味わえるように作る。作ったときのでき立ての美味しさをその都度味わうものである。サグ・チキンカレー(ほうれん草や菜の花で作る緑のチキンカレー)も同様だ。鍋料理でいうところの「煮え端の美味しさ」なのである。この火を入れ過ぎない、胸肉とモモ肉の使い分け、という点はカレーに限ったことではなく、チキンのトマト煮などについても言えることだろう。

もう一つ大事なことは、皮を取ってから調理する、ということである。皮と余分な脂(黄色いのがちょっと付いていたりする)はあらかじめ取り除いておくのが、鶏肉の純粋な美味しさを味わうためには重要なことだ。

・例えばヨーグルト風味のチキンカレーの場合
チキンカレーのバリエーションとして、ヨーグルトの酸味を生かしたヨーグルト風味のチキンカレーがある。あらかじめ、ひと口大に切った鶏肉をヨーグルトとスパイスを混ぜたものに漬け込んでおく。それをヨーグルトも一緒に一気に煮込むので、先に紹介したようなカレーベースを作ってから最後に鶏肉を加えるカレーに比べて煮込み時間が長くなる。このように煮込み時間が長い場合は、胸肉よりも肉に味が入りにくく固くなりにくいモモ肉が適しているだろう。

また、作り置きも想定されるような場合には、意図的にモモ肉や骨付きの鶏肉を使う。モモ肉の方が加熱によって固くなることが少ないし、カレーの味が沁みこんだ美味しさを味わうことができる。さっと加熱しただけだと、胸肉に比べて鶏くさい感じもするが、じっくり加熱すると鶏から出る旨みがカレーに馴染んでコクのある味わいになる、という側面もある。

手羽元などの骨付きの場合は、骨が容易に外れるくらいまで煮込むと、鶏の味わいがしっかりとカレーソースに感じられるようになって美味しい。銀座の某有名店の名物ランチは、身離れが良くなるまで煮込んだ骨付きのモモ肉を客の目の前で骨を外してほぐしてくれるのが売り物だ。

そういうわけで、チキンカレー、サグ・チキンカレー、豆とチキンのカレーなど、鶏肉を最後に入れるタイプのカレーは鶏胸肉で、ヨーグルト風味のチキンカレーのようにある程度煮込む場合にはモモ肉で、といった感じで使い分けている。さらに長時間かけてじっくり煮込むタイプのカレーの場合は、手羽元や骨付きの肉を使うこともある。

・鶏ひき肉のカレー
鶏肉を使うカレーは、ゴロッとした鶏肉が入っているカレーだけではない。ひき肉を使った「キーマカレー」も代表的、かつ基本となるカレーの一つである(リンク先のレシピは、とても簡単でしかも失敗する心配がまずないので、ぜひお試しを。特に初めての場合は、スクロールすると見える「その2」のレシピがお勧め)。キーマは「ひき肉」を意味する。羊肉のひき肉を使うカレーもあるが、単にキーマカレーというと通常は鶏ひき肉のカレーを指す。

もちろん好みはあるだろうが、キーマカレーの場合も、胸肉で作った方がさっぱりとしてトマトやショウガの味わいもよく分かって美味しい。モモ肉で作っても美味しくできるが、やはりちょっと濃厚な味わいになるし、冷えるとゼラチン質で全体が固まってしまう(実害はないが)。

胸肉、モモ肉のいずれの場合も、理想的には皮を取ってから調理直前に1回挽き、である。スーパーのパックになった挽肉ではなくて、店頭で肉を挽いてもらうのが良い。余談だが、「鶏ひき肉」というのは胸肉のひき肉のことを指す、ということを近所の肉屋で初めて知った。

・チキンカレーのスパイスはシンプル
先に紹介したハリオム氏によるチキンカレーとキーマカレーのレシピを見ると分かるが、チキンカレーを作るための基本のスパイスは3種類程度で十分なのだ。以前に紹介したジャガイモのカレー「アルジラ」とほとんど変わらない。基本中の基本ともいえるキーマカレーを例に、チキンカレーのスパイスについて少し考えてみよう。

ニンニク、ショウガのほかには、パウダースパイスとしてパプリカ、ターメリック、カイエンペッパーの3種類しか使わない。最後に投入するガラムマサラ(仕上げに使うミックススパイス。これにもいろいろなスパイス調合の流儀がある。詳細はガラムマサラの回を参照)には、クミン、コリアンダー、シナモン、カルダモン、ブラックペッパー、メースなどが入っているが、これはあくまで最後の香り付けにごく少量使うだけであって、カレーとしての味のベースは先の3種類のスパイスで構成する。要するに、トマト、玉ねぎ、鶏肉の味わいを殺さないように最小限のスパイスでカレーに仕上げるのが、キーマカレーやチキンカレーのようなシンプルなカレーのポイントなのである。

キーマカレーは、カレーそのものに鶏のひき肉から出た味わいが良く感じられるので、他の材料、例えばナス、オクラ(1枚目の写真)、ジャガイモ、豆などを追加しても美味しいカレーになる。ただし、追加する他の素材はシンプルにしたい。何でもかんでも入れてしまうと、何のカレーなんだかテーマが判然としなくなるからだ。大根やカブを入れて、ふろふき大根の鶏そぼろ餡をイメージさせるようなカレーも美味しいし、キーマカレーに鶏胸肉を追加して多少スパイスを強めにしたダブルチキンのカレーも、ちょっと贅沢で美味しいカレーである。

オクラ入りキーマカレー

ひき肉ではないゴロッとした鶏肉で作るチキンカレーでも、野菜などを合わせることでバリエーションが広がる。キーマカレー同様にナス、大根、カブ(2枚目の写真)、ジャガイモ、ニンジン、マッシュルームなどが挙げられる。和食で言うと「鶏大根」などのようなものだろうか。いずれにしても、あまりたくさんの素材を組み合わせるのではなく、お互いを引き立てるようなシンプルな組み合わせにして、組み合わせる素材によってスパイスを多少調節する、というのがポイントだろう(素材によってスパイスをどう調節するかについては、別途記事を作成する予定)。

カブとチキンのカレー

鶏といえば、ちょっと変わり種になるが「砂肝のカレー」も格別だ。コリコリとした砂肝独特の歯ごたえに、胸肉などよりはちょっとスパイシーに仕上げたカレーがとても良く合う。ハリオム氏は、丸のまま買ってきた鶏肉を捌いた後に、残った首肉で「まかない」的なカレーを作ったりもしている。


※本連載は、横浜市都筑区のインド家庭料理「ラニ」のオーナーシェフであるメヘラ・ハリオム氏と、同氏を師と仰ぐ田邊(富士山麓のcafe TRAILでカレーを提供中)の共著という形で、インドカレーのセオリーについて考え、それを分かりやすく提示する試みです。もちろん、いくつか代表的なカレーのレシピも掲載していきますが、いわゆるレシピそのものを紹介すること自体は目的ではありません。このレシピはなぜこうなっているのかを理解することで、レシピを見なくても、自分にとって美味しいインドカレーが作れるようになることを目指しています。また、各種スパイスについての解説は、食材やスパイス同士の組み合わせや相性を中心とし、スパイスの歴史や特性などについては、他に優れた本がたくさんあるので、それらにお任せするというスタンスです。

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田邊 俊雅(たなべ・としまさ)

北海道札幌市出身。システムエンジニア、IT分野の専門雑誌編集、Webメディア編集・運営、読者コミュニティの運営などを経験後、2006年にWebを主な事業ドメインとする「有限会社ハイブリッドメディア・ラボ」を設立。2014年、新規事業として富士山麓で「cafe TRAIL」を開店。2019年の閉店後も、師と仰ぐインド人シェフのアドバイスを受けながら、日本の食材を生かしたインドカレーを研究している。