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数学 数学者 探求 イメージ

ゾクゾクするような数学的冒険譚。これはSFではない。真実なのだ

2019.04.29

Updated by Ryo Shimizu on April 29, 2019, 08:33 am UTC

数学が「つまらない学問」の代名詞のように使われるのはなぜだろう。
それは数学があまりにも難しいからだ、と僕は考える。

人間にとって、数学の発展とは「認識の発展」の歴史そのものであり、数学上の大発見というのは人間にとってあまりにも不自然だから受け入れることが難しい。
また、数学は自然科学とは異なり、一種の宗教なので、数学を受け入れるということは、ある宗教に入信し、修行するのと同じくらい抵抗があるのである。

たとえば、0の発見、虚数の発見、無限の発見、ネイピア数の発見といった出来事は、人間の「数」に対する認識を度々根底から覆してきた。

同時にこれらは、一見すると、わざわざ発見しなくても人生にたいした影響を及ぼさないように思える。しかしこうした概念を発見し、受け入れ、義務教育に組み込んできたことによって今の人類は2000年前の人類と比べて圧倒的に賢くなっているわけで、数学的真実はほかのあらゆる科学とは違い、決して否定されることがない(という意味で宗教である)。

そして数学は芸術の一形態でもあるため、理解するのが極めて難しい。その必要性を感じない幼少期から数学的概念を教え込まれた子供が、数学に対して苦手意識を持つのはある意味で必然的なことなのだ。

STEAM教育において重要なのは、数学を単体のものとして取り出さず、自己表現のための単なる道具(ツール)として数学をクレヨンやハサミと同じように使うことで数学の利便性に気づかせることである。

数学は、それを使いこなすものにとっては非常に強力な武器であり、マイティ・ソーのムジョルニアと同じように、それを使う準備のある人間にしか決して使うことができない。そして正しく使えば数学は宇宙最強の武器である。人類は数学という道具を使いこなすことによって宇宙船を作りコンピュータを作り、全地球規模に広がるテレパシーにも似た通信網を作った。数学以上に効果的な道具は今の所発見されていない。

そして数学自身も、ごく少数のエリート数学者たちの手によって、この宇宙の真実へと迫るさらなる冒険を重ねている。この冒険は、いろんな人がなんども登っている山に登るのとはわけが違う。常に前人未到の未開地をごくわずかな手がかりだけをもとにして斬り進み、真実を明らかにする、へたをすれば、命を失う戦いである。実際、数学的冒険の魅力に取り憑かれ、命を落とした数学者も少なくない。

さて、その数学的冒険の最先端にあるのが、京都大学の望月新一教授による宇宙際タイヒミューラー理論(IUT理論)である。
最初は難問として知られたABC予想を解くために考案されたが、ABC予想を解くことは、IUT理論が可能にすることに比べたらかなり些細なことであることがわかった。

IUT理論は、足し算の宇宙と掛け算の宇宙という、大きさの全く異なる二つの宇宙を独創的な方法で乗り越え、二つの宇宙に存在する数を結ぶ特殊な関係性であるΘ(テータ)リンクを形成する。

少し聞いただけでも、難解すぎて理解できないように思えるだろうが、これを中学生でも理解できるように解説しようとした試みが本書である。

実際、IUT理論の論文は、あまりに難解なため、世界のトップ数学者たちが5年かけて論文を読み込み、どうやら矛盾がないらしいことをようやく突き止めた。

しかし本書のユニークなところは、ユーモア精神旺盛な望月先生自らのたとえによる、「Θ(テータ)リンクは逃げ恥の契約結婚である」とか、「IUT理論は乃木坂46のサイレントマジョリティーである」とか、わかるようなわからないような比喩を始め、できるだけ普通の人にも、IUT理論がなんなのか噛み砕いて説明しようと奮闘している。

本書の成立は、川上量生氏が後援していたMath Powerという数学イベントで東京工業大学の加藤文元先生がIUT理論の解説を試みたことに端を発している。このイベントに向けてスライドの製作を下命された僕は、「そもそも数学が嫌いな僕が、果たして最新の数学理論をスライドになんてできるのだろうか」と疑問を持ちながらも、加藤先生の解説を聞いてるうちに、目がさめるような感覚に襲われた。彼は心の底から数学を愛しており、その素晴らしさ、わくわくするような数学的冒険の楽しさをなんとか色々な人に伝えたいと願っている人だった。そして全ての解説を聞き終わった時、数学に関してはほとんど素人である僕にも、「なんとなくIUT理論がわかった」気がするところまで持って来てくれたのだ。

この仕事は僕の人生にも少なからず影響を与えた。僕にとって、数学とは未だ愛するものではなく便利な道具に過ぎないが、単なるスクリュードライバーやハンマーのような、現実をコントロールするための道具にとどまらず、顕微鏡や望遠鏡のような、現実を認識するための道具としても使うようになった。

「数学は苦手」と思っている人にこそぜひ手にとって読んでいただきたい一冊だ。
10連休で持て余したヒマに数学的冒険と感動を

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。

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