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なぜイギリスの地方が保守党に落胆したか?

Why UK's north disappointed with Tory

2019.05.30

Updated by Mayumi Tanimoto on May 30, 2019, 07:10 am JST

欧州議会選挙が実施され、イギリスでは、離脱派のブレグジット党(Brexit Party)と、残留派の自由民主党(Lib Dem)が票を伸ばし、保守党と労働党の2大政党が大敗する結果となりました。

特に今回注目されたのは、東中部も北東部等の地方が、保守党にも労働党にも愛想をつかしたことです。

これらの地域は伝統的に重工業や製造業が中心で労働者が多く、労働党支持で、非熟練労働者の外国人の流入に反対する人が多いので離脱派です。

EUに残留していると、EU国籍の人であれば、ビザなしでイギリスに来て住めて働けるので、自分達の競合となる外国人労働者の流入を防げないと考える人が多いのです。その上、ドイツが決めた割当枠に従って、シリアやアフガニスタンからの難民を受け入れなければなりません。

スウェーデンやドイツと同じく、難民の多くはロンドンのような首都ではなく地方の定住センターや公営住宅に送られることになります。

学校の多言語支援、急激に増える病院のキャパ、公共交通機関のキャパ増加、公営住宅等の費用を負担することになるのは地方自治体です。しかしそういう地方は老人だらけで、金融やITの仕事はないのです。

実際、リンカンシャーの農業地帯は東欧からの移民労働者が激増したために、地元の単純労働の賃金が下がってしまっています。地元の人はもっと賃金の高い他の街に働きに行ったり引っ越しています。

私がグランサムというサッチャー元首相の出身の街に取材に訪れた際には、ボロボロで落書きだらけの駅に、寂れた目貫通り、通行人はヒョウ柄のレギンスをはいて子供を連れた東欧の若い母親だらけ、営業してる店屋は疲れ果てたディスカウントショップと東欧の食料品店のみという光景に愕然としました。この地区は離脱派が61でした。

この辺りの主な産業は農業と食品加工です。

農場では、最低賃金で働く東欧の若い人がキャベツを収穫したり、食品工場で流れ作業でパック詰めをやっています。ヒゲに黒縁メガネの今風のヒップスターの若者はいませんし、ブロンプトンに乗る人も、小規模蒸留所、アーティザンコーヒーの店、タワマンもありません。

ロンドンとの経済格差は広がる一方で、賃金の高い金融やITの仕事はこれら地域にはなく、若い人はロンドンや海外に行ってしまいます。

離脱派の多い地域は、閑散としており過疎状態です。

これらの地域でも保守党のソフトな交渉、延期に次ぐ延期、間違った意思決定にうんざりしている人が多いのです。

その上、保守党も労働党も地域経済活性化はそっちのけで、有権者の生活を考えない政治論争ばかりやっています。しかし耳に入ってくるニュースは、IT大手は増収、金融業界は下っ端はリストラする一方で幹部は相変わらず大金を稼いでいるという話。労働党は共産主義者のような党首に、ユダヤ人イジメに熱心です。気がつくと、ビスケットの枚数は減っているし、鉄道料金は上がる一方で、ナイフ犯罪は全然減りません。

保守党は交渉の落とし所も締切もはっきりしないので、不動産価格は下る一方、企業もEUに移転するべきかどうかわからない、という状況では困ります。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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