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なぜ富裕層は豊かであり続けるのか?

Why rich can keep their wealth

2019.05.31

Updated by Mayumi Tanimoto on May 31, 2019, 07:20 am UTC

ネットの発達でどこでも仕事ができるようになったのに、非常に面白いなと思うのは世界のテクノロジークラスタというのは一定の都市に集中していることです。

製造業のように工場のような生産手段が必要がないのにも関わらず、 どこでも仕事ができる知識産業の人々は特定の都市に集まっており、その集中度はむしろ年々高まっているのです。

例えばイギリスであれば、ロンドン、ケンブリッジ、オクスフォードです。バーミンガムやニューカッスルにも若干のテクノロジー企業はあるのですが、大規模な集団を形成するまでには至っていません。 特にロンドンの場合は、テクノロジー企業というのは東ロンドンに集中しています。ロンドンは東京よりもはるかに小さな町なのですが、それでもなぜか東部に集まっています。

ドイツの場合はベルリンでフランスの場合はパリです。 その他の欧州の国の場合は、首都に集まっていることが多いです。

これがアメリカであれば シリコンバレーやニューヨークシティ、ワシントン DC、 オースティン、シアトルといった都市ですが、これは20年前とあまり変わっていません。 カナダの場合はトロントやオタワ、モントリオール、バンクーバーですが、やはりこれも変化がありません 。

なぜこのように人々が物理的に特定の都市に集まるのかというのは、経済地理学でも研究が行われていますが、 やはり富の集積に有利だから、ということがいえるでしょう。

アメリカで南北戦争後に富裕層がどのように富を復活させたかという研究を読むと、現代のテクノロジー企業が特定の都市に集積する理由を理解できるでしょう。

南北戦争後に政府により富を没収された奴隷主の白人富裕層は、比較的短期間で富を回復しましたが、そのキーになっていたのが人的ネットワークでした。

彼らは他の富裕層家庭と結婚したり、元々持っていた人的ネットワークやノウハウでビジネスを展開し再び豊かになります。富の源泉は、この様な人的ネットワークや知識にアクセスできるコミュニティに所属することだったのです。

つまり、富を生み出す力というのは、知識や人とのつながりであって、それらにアクセスすることが有利な場に人は集まる、ということです。

ネットの発達でどこでも仕事ができるようになっても、やはり有利な情報を得たりするには人に会う必要がありますし、協力相手を探すのにも人と頻繁に会うことが重要になります。また飲み会やライブ会場などインフォーマルな場でビジネスのアイデアが花開くこともあるでしょう。

テクノロジー企業が集積している土地というのは、同業者が集まるカフェがあったり様々なイベントがあったりするので、公式な場だけではなく、非公式な場で様々な人と知り合いになれる機会があります。

これが特に大学街のようなところだと、学生が大勢いて砕けた雰囲気なので、仕事の階層や肩書きはあまり関係なく、ゆるい形で人間関係を作りやすいというのがあります。スーツではなくジーンズにTシャツでこんなことをやりたいんだよと芝生に座りながら話してみる。そんな感じでビジネスの話が始まります。これがオフィスだらけの街だとそうは行きません。

一方でこれは、資源の再配分を行い、より平等な社会を作ることにも大きな示唆があります。

富が生み出される街や地区が富裕層だけになってしまうと、階層は固定します。貧困層や中流層は、富裕層が得られる教育や知識、人的ネットワークにはアクセスできなくなるからです。

富裕層はそれらを独占したいと思うかも知れませんが、富が偏在すると、中流以下はどんどん貧しくなり、社会は刺々しくなり、富裕層が生み出す材やサービスを買うことができる人が減るので社会全体が貧しくなります。

さらに、中流以下の人々の中にも、才能がある人もいるわけですが、階層が固定するとそういった人々が能力を発揮する機会が失われ、社会的な損失となります。

そういうわけで、様々な階層が学校や居住地で混ざりあうような施策は重要なわけです。貧困層の子供が大学にアクセスできる奨学金を提供したり、公営住宅を作って様々な階層が混ざり合う都市計画は富裕層のためでもあるわけです。

しかし現在、シリコンバレーを始めとするテクノロジー企業が集まる都市では、新富裕層の出現により不動産価格が高騰し、公営住宅は削減され、質の良い公立の学校は物件価格の高い場所に存在し、大学の学費は高騰して、中流以下には大変厳しい状況になっています。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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