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5Gのメリットは「無制限データプラン」「革新的なユーザー体験」

2019.05.30

Updated by Naohisa Iwamoto on May 30, 2019, 14:00 pm JST

「5Gは、将来に向かってのプラットフォーム。モバイルの技術の枠を超えて、あらゆる産業、社会への影響をもたらす」。こう語るのは、米クアルコムで5Gの製品開発を担当するSenior Vice President and General Manager,4G/5Gのドゥルガ・マラーディ氏。同氏は都内で、同社の5Gの取り組み、産業への変革について報道関係者に説明した。

▼5Gの今後の動向を説明するドゥルガ・マラーディ氏

5Gのベネフィットは新しい体験

マラーディ氏は、「5Gのベネフィットとは何か」から説明を始めた。「5Gの重要なところは、ピークのデータレートが高いだけではなく、平均的なスループットや、セルエッジのスループットが飛躍的に改善すること。これが利用者にベネフィットをもたらす。ベライゾンのミリ波に対応した5GネットワークでGalaxy S10を使って、シカゴの街中で映画をダウンロードしたら10秒ほどで完了した。これまでになかった経験で、ユーザー体験が革新的に変わっていく」。単に時間が短縮できるということでえはなく、例えばビデオを見るときに4Kのコンテンツがあっても、4Gだと本来のビデオのフォーマットで見られないが、5Gなら90%以上の確率で4Kのコンテンツとして見られるといった「体験」が提供できるというのだ。

▼4Gと5Gによる体験の比較

一方、通信事業者の観点で、なぜ5Gのネットワークを提供する必要があるのかについても言及した。「5Gによりアベレージのスループットが上がり、ネットワークのキャパシティが上がる。キャパシティが多いということはビット単価が下がることにつながり、4Gにくらべて低ビット単価でお客様に提供できる。無制限のデータプランが5Gで広がると期待している」(マラーディ氏)。

周波数帯をバランスよく利用して多様な用途に

5Gを実現するために、様々な周波数帯の利用が考えられている。マラーディ氏は、多様な周波数帯をうまくバランスをとって活用していくことが重要だと説明する。「1つはミリ波帯などのハイバンド。大容量の通信や自営網で有効であり、ブロードバンド、データトラフィックの多い用途に適する。中間的な周波数帯であるミッドバンドは、キャパシティとカバレッジのバランスが取れていることが特徴だ。1GHzより低いバンドは、カバレッジに有利だ。さまざまな用途で使われることを想定する5Gだからこそ、こうした周波数帯の使い分けが重要だと思っている」。

▼クアルコムの5Gチップを搭載する5G端末を紹介

端末については、クアルコムの5Gチップを搭載するものだけで、「発表済み、発売済み、採用済みを合計するとすでに75機種以上ある。すでに世界各国の多様なメーカーのフラッグシップにも搭載されている。また日本のメーカーとも密接に協業させてもらっている。日本の5Gに向けても協力している」と優位性をアピールした。

さまざまな産業での活用に期待

5Gのユースケースは、多岐にわたると考えられている。マラーディ氏も、複数のセグメントでの5Gの利用について解説した。

1つは「固定ワイヤレス」への適用。ラストワンマイルのケーブルをワイヤレスにすることで、効率のよいデプロイメントが可能になるという。もう1つは、インドア、屋内への展開も重要な要素だという。特に、企業向けネットワークでWi-Fiが使われている環境への適用である。

「ノートパソコンにはWi-Fiが使われている。Wi-Fiに加えて、5Gのミリ波帯が対応している状況を考えてほしい。Wi-Fiがあるのになぜ5Gのミリ波帯が必要なのか? 自分たちでも考えて検証してきた。クアルコムの建物における実証実験では、Wi-Fiのアクセスポイントと同じ場所に5Gのアンテナを置いたところ、5Gで5Gbpsの通信がほとんどのエリアで提供できた。企業の建物内で5Gbpsという非常に高速なスループットがどこでも得られるのは大きな変化につながる。クラウドがあたかもローカル端末にあるかのように大きなデータを自在に取り扱えるようになる」(マラーディ氏)。さらに、プロジェクターやHMDなどを使って、没入的なコンテンツを場所を問わずにワイヤレスで取り扱えるようになることも指摘した。

そうした応用としては、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などを総称した「XR」の広がりも想定する。複数の場所にいる人がARグラスを使ってあたかも同じ場所にいるように共同作業をするために、5Gの高いデータレートが効果的だという。

▼産業用途では5Gによる通信が多くの側面で有効

インダストリアルIoTでも5Gは大きな役割を果たす。マラーディ氏は「ドイツの自動車メーカーとの状況をお伝えする。自動車の製造工程では、アセンブリラインの最後に4Gや5Gといった通信モジュールを組み込むものと思っていた。ところが通信モジュールは最初に取り付けられ、アセンブリラインを流れていく途中で膨大なデータ通信が行われ、品質管理などのデータ分析に利用されていた。工場では様々な作業で多くのデバイスが動いている。産業ロボット、HMD、ハンドヘルドデバイス、自動走行の車などをすべてコントロールしているネットワークは、信頼性や遅延にクリティカルな要求がある。まさにこうした部分が5Gの産業用途に求められる部分だ」と語る。

また、自動車についても「様々な意味でつながるようになってきた。クルマとクルマ、クルマと人、クルマと信号などの設備などがすべてつながる。今後は自分の周りの車に通信して、自分がどんなアクションをしたいかを伝えて、安全な運転ができるような世界が到来する。自動運転の時代というのは、カメラやセンサーに加えて、通信の部分が非常に重要になる、5Gがその通信の役割を担う」(マラーディ氏)という。

最後にマラーディ氏は、「5Gは今まさに始まって、いろいろなところに広がっていく段階にある」と、今後の5Gの市場とユースケースの拡大を確信するメッセージで講演を締めくくった。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。