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シアトル 自然 水 イメージ

2010年創業の蒸留所からシングルモルトの新提案 ウイスキーと酒場の寓話(7)

2019.11.11

Updated by Toshimasa TANABE on November 11, 2019, 16:01 pm UTC

WESTLAND」は、米国ワシントン州シアトルで2010年に創業した蒸留所のアメリカン・シングルモルト・ウイスキーである。日本に初めて入ってきたのは2016年らしいが、遅れ馳せながら定番の3種類を比較試飲する機会があった。

ワシントン州は、スコットランドより暖かいとはいえ湿潤な気候風土でウイスキーの熟成に適した土地なのだという。仕込み水は、地元のシダー川流域の水だそうだ。

WESTLANDのラインアップは、写真左から、

・アメリカンオーク(ベーシックな味わい)
・シェリーウッド(スペインのシェリー樽で熟成)
・ピーテッドモルト(アイラ島のピートで燻したモルトを使用)

の3種類で、アルコール度数はいずれも46度である。

westland

3種類のウイスキーで使われている基本のモルトは、ワシントン州産2種類、ワイオミング州産1種類、英国産2種類の合計5種類がブレンドされている。さらにピーテッドモルトには、スコットランドのアイラ島のピートで燻されたへビリー・ピーテッド・モルトが追加される。特徴的なのは、基本の5種類のモルトの一つとして麦芽を焙煎した「チョコレートモルト」が入っていることだ。なお、発酵させる酵母は、ベルギーのセゾンビールの酵母だという。

樽も同様に、複数の樽材を使っている。少なくとも18カ月は自然乾燥させたオーク材の樽は、自然乾燥の期間と内側の焦がし方の程度が異なる3種類である。さらに、シェリーウッドには「オロロソ」と「ペドロ・ヒメネス」という2種類のスペインのシェリー樽が使われる。これらの樽をアメリカンオーク、シェリーウッド、ピーテッドモルトの3種類のウイスキーによって組み合わせを変えて熟成に使っている。

2010年創業ということで、まだ若い原酒ではあるが、第一印象は「3種類とも、とてもバランスが良い」であった。若いモルトにありがちな暴れた感じがまったく感じられない。また、シェリーウッドもピーテッドモルトも、その特徴的な味わいがじわっと感じられて、自己主張し過ぎることがない。WESTLANDの個性は、バランスの良さとともに独特の「軽み」があり、酒に立体感が感じられることだろうか(ダメな酒は平板な感じがするものだ)。

とはいえ、最近の国産のウイスキーやビールに感じられる「引っかかるところをなくして、誰にでも飲みやすいであろう方向性」というものではない。あくまでも、ベーシック・バージョンであるアメリカンオークの味わいをWESTLANDの太い軸に据えたうえでのバリエーションである。他のウイスキーとは異なるこの蒸留所固有の個性をベースにした3種類のラインアップであり、どれを飲んでも、WESTLANDであることを主張している。

この「バリエーションはあるが、中心となる軸がはっきりしている」というのは、シングルモルト・ウイスキーを名乗るための大切な条件の一つであろう。蒸留所のある土地の気候風土、蒸留設備、原材料であるモルト、酵母、水、さらに熟成させる樽、それらをコントロールする作り手によって、蒸留所ならではの個性が醸成されるからだ。最初の製品でありながら、軸が明確でありつつのバリエーションを実現させ、しかも、それぞれがバランス良い酒に仕上がっているわけで、これはなかなかできることではないだろう。

蒸留所長のマシュー・ホフマン氏は、スコットランドのエジンバラにあるヘリオット・ワット大学の「醸造・蒸留科(Brewing and Distilling)」に米国から留学して酒造りを学び、帰国後、WESTLANDを立ち上げた。伝統的なスコットランドのシングルモルト・ウイスキーを踏まえ、それをリスペクトしつつ、模倣するだけではなく自分なりのオリジナリティのある「ワシントン州ならではのアメリカン・シングルモルト・ウイスキー」を作ろうと考えたのだという。

グレンモーレンジィのドクター・ビル・ラムズデン(信頼できる「作り手」の酒を飲め ウイスキーと酒場の寓話(2))も、ヘリオット・ワット大学で勉強して博士号を取得しているが、後輩にあたるホフマン氏はラムズデン氏を尊敬しているという。確かに、WESTLANDの独特のバランス感やシェリー樽の使い方、ピート香の生かし方などに、グレンモーレンジィからの影響があるのではないかと感じられた。基本の5種類のモルトの一つであるチョコレート・モルトについても、グレンモーレンジィの「シグネット」というバージョンで使われており、グレンモーレンジィからの影響を感じさせる一例である。

ヘリオット・ワット大学出身でウイスキー造りに携わっている人がどのくらいるのかは分からないが、醸造・蒸留科という学科があるのもスコットランドらしいし、大学というものが、世界のウイスキー造りの継承性を担保する存在として機能していることが感じられる。日本のウイスキーの父と呼ばれる竹鶴政孝さんは英国で学んだ、というのも広く知られた事実である。英国でウイスキー造りを学んだ人は、世界中に何人もいることだろう。

WESTLANDの価値は、「アメリカン・シングルモルト・ウイスキー」という点にある。シングルモルト・スコッチを踏襲しながらも、独特の個性と軽みのある新しい方向性を打ち出している。

実はこれは、クラフトビールにも同じ様な構図がある。例えば、IPA(India Pale Ale)というビールのカテゴリがあるが、英国の「元祖IPA」のつもりで「アメリカンIPA」を飲むと、その違いが良く分かる。IPAというのは、かつての英国がアフリカ最南端の喜望峰を回ってインドに航海するときに、途中で傷んでしまわないようにホップをたくさん使って、濃厚でアルコール度数の高いビールを作るようになったことに由来する。元祖IPAはキレというより苦味と重厚さが特徴であり、あまり冷やさずに飲む。これに対してアメリカンIPAは、苦味やコクなどのIPAの伝統を踏まえつつも、現代的なキレのある冷やして飲むビールとして、北米のクラフトビールの職人たちが作ったものだ。

また、樽材としての北米の森林資源なくしては製造できないのがウイスキーである(ウイスキー・ビジネスの真髄は「森」である ウイスキーと酒場の寓話(1))。ワシントン州という樽材に困らないであろうロケーションの蒸留所であること。さらに、歴史を踏まえた上での新提案を米国ではメジャーな存在のバーボン・ウイスキーとは別ジャンルのシングルモルト・ウイスキーで始めたこと。これが、このWESTLANDという蒸留所の将来に期待したくなる理由である。

ウイスキーは、少なくとも数年間の熟成を経てようやく商品になる。WESTLANDのウイスキーには、樽の自然乾燥期間やモルトの種類など、随所に強いこだわりが見られる。創業直後、立ち上げ時期の苦労などは察するに余りあるが、レミー コアントロー社のバックアップを得て、操業を本格化させることができたという。最近、日本でもマーケティングに力を入れているらしく、本稿の参考にさせてもらった日本語の充実したパンフレットも用意されているし、比較的いろいろなところで飲めるようにもなっているという。バーで見かけたら、ぜひお試しを。「このレベルからスタートしたのか!?」と驚かされるのではないだろうか。


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書名
インドカレーは自分でつくれ: インド人シェフ直伝のシンプルスパイス使い
出版社
平凡社
著者名
田邊俊雅、メヘラ・ハリオム
新書
232ページ
価格
820円(+税)
ISBN
4582859283
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田邊 俊雅(たなべ・としまさ)

北海道札幌市出身。システムエンジニア、IT分野の専門雑誌編集、Webメディア編集・運営、読者コミュニティの運営などを経験後、2006年にWebを主な事業ドメインとする「有限会社ハイブリッドメディア・ラボ」を設立。2014年、新規事業として富士山麓で「cafe TRAIL」を開店。2019年の閉店後も、師と仰ぐインド人シェフのアドバイスを受けながら、日本の食材を生かしたインドカレーを研究している。