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英国 労働者 イメージ

労働党の勝利を恐れるイギリス有権者

UK voters hear for Labour to win

2019.11.26

Updated by Mayumi Tanimoto on November 26, 2019, 14:27 pm JST

前回は、労働党が12月の総選挙に向けて最近発表した大変マルクス色の強いマニフェストをご紹介しました。今回は、このマニフェストをイギリスの有権者がなぜそんなに恐れているのか、ということを解説しましょう。

前回の記事をお読みいただければ分かると思いますが、これは大変マルクス色の強い内容です。特にポイントとなるのが、法人の税控除の削減、法人税やキャピタルゲイン税のアップによって、企業活動を徹底的に制限しようとしている点です。

特に最も恐れられているのが、従業員250人以上の企業は政府が毎年1%の株式を10年間に渡って取得する、という点です。これは、企業の国有化であり共産主義です。

また、法人税は26%にアップですから、先進国で最も高い部類になってしまいます。

起業家や投資家は、イギリスを避けるようになるでしょう。

イギリスのここ20年ばかりの経済というのは、自由主義に沿った金融や IT産業の活性化によるものでありました。イギリス政府は、欧州で最も自由で企業活動がしやすい環境を整えてきましたので、法人税率は低く、規制も他の欧州諸国に比べればうんとゆるくなっています。

イギリスは、特に起業を希望すると人にとっては大変有利なところで、創業者利益が大きいため、企業が上場すれば大変な富を得られます。解雇も破産も、欧州で最も容易ですし、大きな魅力は資金調達です。ですから、Brexitにも関わらず、イギリスには欧州で最大のテック系投資が集まっていますし、それが毎年増加しています。投資額は、ドイツとフランスを合わせたよりも大きいのです。

ところが、そういった活動を次々に制限しようというわけですから、イギリス経済の停滞は目に見えています。

さらにイギリスの人々が唖然としたのは、労働党はストライキの制限を廃止しようと述べていることです。

1980年代にサッチャー政権が登場して改革を行う前のイギリスは、組合があまりにも強く、どこもかしこも人だらけで国が全く機能しない状況に陥っていました。一時期には、墓掘り人やゴミ収集人までストをして街の機能が麻痺しました。そこで政府は、組合を解体し、ストを制限することで、経済が円滑に動くようにしたのです。

ところが労働党は、イギリスを70年代以前に戻そうとしているわけですから、当時を覚えている人ほどゾッとするわけです。

さらに、光熱企業や通信を国有化しようという点も、唖然とした人が少なくありません。 これもストと同じで、80年代以前のイギリスというのは様々な産業が国有化されており、その非効率性から経済が停滞するという事態を招いていました。

現在のイギリスというのは、光熱企業は民営化されており、クリーンなエネルギーを売りにする中小の発電事業者も存在するなど、日本よりも遥かに柔軟な市場になっています。

ブロードバンドも競争が激しく、携帯電話サービスもやはり競争のおかげで日本より遥かに安く、多様なサービスが存在しています。

活発な産業を国有化してしまうというのですから、正気の沙汰ではありません。

11月22日時点では、世論調査では保守党の支持率が10月10日に比べ10%アップし43%となっています。労働党は27%から29%にアップし、自由民主党とEU離脱党から有権者が移行した様子です。

今回のマニフェストは、Brexitを一刻も早く進めたいという多くの有権者の意に反したものですし、政府支出を過激に増大させ、ビジネス活動を低下させる可能性がある公約が満載で労働党内部でも議論になっています。労働党が現在の支持率を総選挙まで維持できるかどうかは不明です。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。