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なぜ千葉県流山市は、資産価値の下がらない街づくりと子育て世代のブランディングに成功したのか?- 日本を変える 創生する未来「人」その7

2019.11.27

Updated by 創生する未来 on November 27, 2019, 10:21 am UTC

全国の自治体のなかでも、まさに今、千葉県流山市が特異な変化を遂げていることに気づいている読者は少ないかもしれない。同市は、よくある首都圏界隈のベッドタウンとは異なるユニークな施策とマーケティング戦略によって、急激な少子高齢化の進行をわずか14年間で食い止めたどころか、逆に子育て世代の人口を増加させたのだ。第7回の創生する未来「人」では、持続的に発展する流山市の都市計画に成功した流山市長の井崎義治氏に、市政を預かる立場から話をうかがった。

都心へのアクセスが良く、周辺に緑が多い良質な環境がポイント

エリートサラリーマン然とした佇まいで、我々を出迎えてくれた井崎氏は、2003年に流山市長に就任し、すでに16年目を迎えている。在任期間の長さからも、市民に絶大な支持を受けていることは想像に難くない。

▲千葉県流山市 市長 井崎義治氏

現在、流山市の人口は約19万4000人(令和元年11月現在)で、年4000人から5000人のペースで増加。人口増加率は、千葉県の自治体で6年連続1位をキープしているそうだ。すべての世代での転入超過数も、全国の自治体のなかで8位(平成30年)と好位置につけている。

また、つくばエクスプレス(以下、TX)沿線でも特に流山市の不動産価格が高騰し続けており、ブランドとして認知されつつあるという。アンケートでも「市民の82%が住み続けたい街」という結果が出ている。しかし、ここまでの道のりは長かった。

井崎氏は、現在の流山市のキャッチフレーズである「都心から一番近い森のまち」をイメージして市政を展開してきた。もともと同氏は、市長になる前に都市計画コンサルタントや国際NGO団体で世界5大陸100都市を駆け巡り、さまざまな街を見てきたという。

同氏は、「必ずしも人気のある住宅地は高級な住宅地というわけではありません。都心へのアクセスが良いことに加え、緑が多い良質な住環境があることが人気の高いまちの共通する条件です。そのようなまちほど資産価値も高くなり、売り出してもすぐ買い手のつく人気のまちでした」と語る。都市計画の仕事を通じて、「住みよい街とはどういう街か」を経験的に知っていたわけだ。

だからこそ同氏はこだわりを持ち、「TX沿線で一番早く、一番高く売れる街」の条件を満たすため、流山市の都市計画を進めてきた。具体的には、緑地を生み出しやすい大街区(★注1)にすることで良質な住宅街を形成し、活性化させようとしたのである。

(注1)大街区  複数の街区に細分化された土地を集約・整形し、大型の街区を創出することで、敷地の一体的利用と公共施設の再編を図る方策。

 

というのも、昔の流山市は何の変哲もない地味な地域で「洗練されていない街」(悪く言えば「ダサい街」)というイメージが強かった。確かにもとより緑は豊かで、雑木林に囲まれた良質な住宅地も点在していたが、その林で不法投棄が横行したり、「痴漢に注意!」といった看板も目立ち、芳しくないイメージがあったのだ。

また知名度も、周辺の街ではつくば・柏・守谷が上位で、人口規模を鑑みると流山の知名度は著しく低いものだった。交流人口という観点でも、ヒト・モノ・カネが集まらず、むしろ他の地域へと流出してしまっていた状況であった。この時すでに、全国の自治体と同様に流山市も少子高齢化の波を受けていた。とりわけ団塊の世代が多く、高齢化が深刻な状況だった。街自体に魅力を感じなければ、若い人が集まらないのは当然の成り行きだったのかもしれない。

そんな折り、「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法(宅鉄法)」(★注2)の施行(平成元年)もあり、2005年にはTXが開通する。TX沿線の区画整理事業は、流山市の面積全体の18%に及んだ。そのため、街の緑そのものが減ってしまうという課題にも直面した。

(注2)宅鉄法 新鉄道の整備により大量の住宅地の供給が促進されそうな地域において、宅地開発や鉄道整備を一体的に推進するための特別措置法。大量の住宅地の円滑な供給と、新鉄道の着実な整備を図り、大都市地域における住民の生活向上と当該地域の秩序ある発展を促すことが目的。

日本初! 市役所にマーケティング課を置き、流山のイメージ戦略を策定

「人口減少」と「緑の減少」というダブルパンチに見舞われた流山市の再生は急務であった。そんな状況で井崎氏が起こしたアクションはユニークなものだった。これは同氏が優秀な企業人であったからこそ、思いついたことかもしれない。

まず同氏は役所内にマーケティング課を作った。同課の狙いは、流山市の「イメージ戦略を練る」こと。地方自治体にこうした課を設置したのは流山市が初めてで、いまでもこの種の部門を置く自治体は珍しく、数えるほどしかないのが実情だ。

▲流山市では、自治体で初めて役所内にマーケティング課を置いた。まさに民間の発想なのだが、こういったエリアマーケティングの観点が地方創生には重要だろう。

「他の自治体ではトップが戦略や方向を示さず、担当者にお任せしているので長続きせずに辞めてしまいます。流山市では、現在5人がマーケティング課に属し、そのうち2人は民間から即戦力として来てもらっています。いかにして『住み続ける価値』と街のブランド力を高めるのかを考えながら進めてきました」(井崎氏)。

筆者は、このような担当課を置くことが地方創生、あるいは地方活性化におけるキーポイントの1つになると考えている。だが、残念なことに、考えが硬直化した役所ではこうした発想がなかなか出てこないのかもしれない。

そして、井崎氏が掲げた流山市のマーケティング戦略の柱は3つ。

まず1つ目は冒頭のキャッチコピー「都心から一番近い森のまち」にあるように、流山という街の商品イメージを高めるためのアピールと具体的な施策だ。

前出のように、TX開通によってどんどん緑地が失われていくなかで、緑を回復するために考えた苦肉の策が「流山グリーンチェーン戦略」だった。この戦略の一環で「流山グリーンチェーン認定制度」を設けたという。

▲街の緑を守り、新たに緑を作り出す仕組み「流山グリーンチェーン認定制度」。認定条件はかなり厳しいが、それでも認定を受けた物件は資産価値が高まり、中古物件でも高く売れるという。

この制度の狙いは、端的には接道面に一定の高さの木を一定間隔以内で植樹すること。道路表面の温度上昇や放射熱の抑制、住宅敷地間の通風確保、地球温暖化の原因となるCO2排出の抑制効果など、7つの指標をベースに評価して認定する。平成18年から始まり、戸建・集合住宅・商業施設を合わせ、令和元年5月現在298件、約6,700戸の住宅に認定実績があるそうだ。

「認定を受けた物件を購入する際には、市内の指定の金融機関から住宅ローン金利が優遇されたり、森のまちエコセンターで剪定枝の無料処分が受けられます。よい物件が街に建てられると、その資産価値(周りの中古販売も含む)も向上していきます。実際に東京大学の調査では、グリーンチェーン認定を受けたマンションは、認定を受けていないマンションよりも一戸あたり約494万円も高いという結果が出ています」(井崎氏)。

ほかにも流山市では、景観条例や街づくり条例、建築物の高さ制限や広告物条例など、かなり厳しい条例も策定した。新旧の建築物の条件をコントロールすることで、環境価値が高く、緑のあふれるまちづくりを推進していったのだ。

DEWKsを中心に定住人口を増やし、短期間で歪な人口構成を改善

2つ目の戦略は、定住人口の増加を狙い、メインターゲットを共働きの子育て世代「DEWKs」(Double Employed With Kids)に設定し、さまざまな施策を打ち出したことだ。親が安心して共働きをするには、子供を預ける保育園が必要になる。2010年時点で市内に保育園は17園あったが、そこからの10年間(2020年度)で77園まで増える予定だ。今年の春、流山市の保育園数はコンビニの数を超えたそうだ。

「とにかくDEWKsに必要不可欠な社会インフラを必死に整備しています。流山市はメインターゲットを設定していますが、そのほかの世代を制限しているわけではありません。子育て世代が住むと、彼らの親も孫の顔を見に遊びに来て、結果的に流山市を気にいって移住してくれるケースもありました」(井崎氏)。

なかでも子供を持つ親に大変評判が良い施策が「駅前送迎保育ステーション」だ。これは10年ほど前に流山おおたかの森駅と南流山駅に設置されたもので、このステーションと市内の指定保育園をバスで結んで、園児たちが登園・降園できるシステムだという。

▲子育て世代に重宝がられる「駅前送迎保育ステーション」 。駅などに設置されたステーションと指定保育園をバスで結び、園児たちが登園・降園できる本システムは、共働きの親の負担をかなり軽減でき大好評だ。

これは全国の自治体でも10ヵ所ほどで同様の施策が打たれている。が、流山おおたかの森駅では最初からビルにステーションがビルトインされ、児童が風雨に晒されず、外部者が入れない安心・安全な施設を作り上げた。共働きの親は園まで送迎せずに、駅で子供をピックアップできるため負担も大幅に減る。現在、学童クラブの児童を対象に、学童クラブ最寄りのバス停から駅前まで乗降できる路線バス帰宅も試行中だ。

このような施策の結果、流山市の人口構成はわずか10数年で大きく変わった。平成17年は30代後半から40代半ばの子育て世代が極端に少なく、人口構成に2つの山ができていた。しかし現在は人口が4万人も増え、同世代が明らかに増えて山が1つに戻った。短期間で変貌した好例と言えるだろう。

▲流山市の人口構成図は、かなり衝撃的な結果かもしれない。わずか十数年で、人口構成分布もここまで変えられるのだ。いかに流山市が真剣に取り組んできたのかという証左であろう。

さらに特筆すべき点は、合計特殊出生率(一人の女性が15歳から49歳までに産む子供の数の平均)の推移だ。平成16年と比べると1.14から1.62へ、4割も増えている。また、市内の全小学校を対象に行った児童のキョウダイ人数の調査では、2人キョウダイが56%を占め、一人っ子(15%)よりも3人キョウダイ(24%)のほうが多いのだ(出生率は2.19)。

▲合計特殊出生率の推移。十数年前は千葉県および全国平均値よりも下回っていたが、数年後には逆転し、現在はいずれも流山市のほうが上回っている。ここまで短期間に効果が現れた事例はかなり珍しい。

「この10数年間で、地方自治体のなかで合計特殊出生率が、これほど上がった例はないと思います。これは我々にとって大変うれしい出来事でした。子育て環境の充実によって、安心して子供を産めると認知されたのかもしれません。今後も市としては、妊娠・出産・子育てに対する切れ目のない政策を強化していきます」(井崎氏)

交流人口を増やすユニークなイベントと地域資源ツーリズムを開催

かつての流山市は、ヒト・モノ・カネが集まらず、いずれもが他地域へ流出する街だったことは先に述べたとおりだ。そこで3つ目の戦略として同市は、市民と連携し、質が高く集客力のあるイベントや、地域資源を利用したツーリズムなども数多く開催している。

音楽があふれる街を願って、市民が気軽に本物のジャズに接する機会をつくる「流山ジャズフェスティバル」は、代表的なイベントの1つだろう。ただし、これは市の主催ではなく、連携イベントとしての位置付けで、市民主導で開催しているものだ。第9回目のイベントは、約2ヵ月間にわたって市内のさまざまな会場(17ヵ所)で開催された。

いくつかピックアップしよう。流山おおたかの森の駅前広場では、夏に「森のナイトカフェ」が開催される。高さ8mまで吹き上がる壮大な噴水ショーや、大人気のウォーターアトラクション、体験型イベントなどもあり、4日間で5万5000人の客が集まった。古い街並みを活かした流山本町イベントでは「切り絵行灯と音楽の夕べ」という催しを行う。流山本町ならではの優しい切り絵行灯が街に彩られ、浅間神社の神楽殿で邦楽やジャズなどの生演奏が楽しめるイベントとなっている。

▲流山市では交流人口を増やすイベントを数多く開催。「流山ジャズフェスティバル」は2ヵ月にも及ぶ長期イベントだ。このうち「走る流鉄プレミアムライブ」は通常運行列車の一部を貸切にするユニークな企画だ。

鉄道ファンに人気の「都心から一番近いローカル線『流鉄流山線』」の企画では、「走る流鉄プレミアムライブ」や「流鉄車両基地ライブ」も人気が高い。「走る流鉄プレミアムライブ」は、流鉄が運営する流山線の定時通常運行列車の一部を貸切にして、ジャズの生演奏を楽しみながら乗客がビールを楽しめるという大胆な企画だ。もちろん隣は一般車両なので、乗り合わせた人も驚くだろう。来年5月には、市内在住の国際的ピアニストがプロデュースする「第1回国際室内楽音楽祭」の準備も進められている。

いま流山市でアンケートを行うと「市政に自分たちの声が届く」という人、「行政を信頼している」という人が約8割もおり、「自分たちが提案したことを行政の応援で実現できる街」と感じている住民も多いという。流山市に満足している人々が増え、自分の街という「主体的な認識」が生まれているのだ。

実際に、住民のなかでは子育てだけで終わらない新しい動きが生まれている。それが株式会社新閃力が運営する「シェア型サテライトオフィスTrist」である。このオフィスは、もともと市民が率先し、ニーズを掘り起こして作り出したもので、流山市が補助金を出して支援しているものだ。

▲Tristが運営するシェア型サテライトオフィスの事例。「Trist-Station」ではマイクロソフトなどの研修プログラムを実施。最近では第二のサテライトオフィス「Trist-Airport」も開設し、海外の仕事も視野に展開中。

「母親たちが流山市で多くの人々と出会い、自己実現をする場にしようと考えているのです。そこで起業したり、NPO活動を展開したりと、自分の能力を発揮してもらえる工夫を凝らしています。これまでは電車で通勤する人の育児との両立に力を入れてきましたが、いまはサテライトオフィスや企業内託児所などをつくり、子供のそばで働ける街としても機能できるようにしています」(井崎氏)。

さらに流山市では、地域イメージをもう一歩推し進めるために、知名度アップにも注力しているところだ。首都圏駅広告用のポスターのキャッチコピー「母になるなら、流山市。」は、そういったブランド戦略に一役買っている。

▲首都圏駅広告用のポスターのキャッチコピー「母になるなら、流山市。」。井崎氏は、そのための施策も積極的に打っている。ブランドイメージもだいぶ認知され、本当に子育て世代が住みたい街になってきた。

最近ではメディアからの取材件数も増えている。映画やTVドラマのロケ地になることも多くなった。日本だけでなく、シンガポールのメディアやロイター通信など、海外からの取材も舞い込んでいるそうだ。

このように都市再生のために、マーケティング戦略を駆使し、さまざまな具体策を打つことで、見事に地域を蘇らせた流山市。同市は次の10年先を見据え、これからも成功に甘んじることなく、市民と協力しながら、「住み続ける価値の高いまちづくり」を継続的に進めていく方針だ。地域再生において、まさにお手本のような行政手腕を発揮してきた流山市長の井崎義治氏を、創生する未来「人」認定第7号とする。

 

(インタビュアー:伊嶋謙二 執筆:井上猛雄 写真:高城つかさ 編集:杉田研人)

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