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スタートバーン、ホワイトペーパーを公開(1)

スタートバーン、ホワイトペーパーを公開(1)

startbahn published “the” white paper

2019.11.29

Updated by Taihei Shii on November 29, 2019, 10:30 am JST

スタートバーン株式会社は、「Art Blockchain Network(以下ABN)」の全貌を記したホワイトペーパーを公開しました。そもそもブロックチェーン技術を志向する人たちのコミュニティでは、ICO(Initial Coin Offering)と併せてホワイトペーパーを公開する習慣があります。しかし、ABNのホワイトペーパーはICOではなく技術的な理解を深めていただくことが中心であるため、IT業界で流通している“ホワイトペーパー”とは意味合いもクオリティも異なるものといえます。

ブロックチェーン界隈でのICOに紐付いたホワイトペーパーといえども、品質はまちまちで、とても重要な部分が公開されていないペーパーが散見されるのも事実です。加えて、お金を預かるビジネスという側面があるので「不具合があったり人気がなければどんどん改良すればいい」というわけにもいきません。ですから、細かい修正はあるにしても最初のコンセプトが大きく変化するようでは信用されません。

今回、私たちが公開したホワイトペーパーは、アート業界内に誤解をしていたり怖さを抱いている人が多いように感じたので“バカ”が付くくらい細かく正直に作りました。ABNは2018年7月のプロジェクト構想発表後、1年を超える実証期間を経て設計の細部に至るまで改良を重ね、ホワイトペーパー公開時点で既にtestnet Ver.5になっています。ここに至ってようやく、詳細をきちんと公開し理解を広め、利用者を募ることができるものになったと考えました。

ホワイトペーパーに「The」という定冠詞を与えたのは「満を持して」という決意表明だと受け取って欲しい、という意味も込めています。。事業(メインネット運用)は2020年初頭を想定しているので、そこを見据えたホワイトペーパーでもあります。

もともとスタートバーンは、多くの人たちに新しい時代に適応したアートのインフラを提供するために作った会社で、そのコンセプトは今も全くブレていないのですが、それにしては今回のホワイトペーパーは、内容がちょっと専門的で難解だな、と感じた人も多いはずです。実をいえば、意図的にコア層にターゲティングした内容としています。

これまで私たちは、スタートバーンの活動を通じて、そもそもアート業界はボトムアップと相性が悪いと感じることが数多くありました。アーティストは、どこかでアートをアートたらしめる権威に引っ張られたいと思っている人が多く、周辺にいるユーザーも中心(コア)が認めた、というお墨付きが欲しい。

したがってABNも、やはりまずは「アートのコアにいる人たちに歓迎されるインフラ」でなければならない。そのコアにいる人が、自分の身近にいるエンジニアに「この(スタートバーンが作った)ホワイトペーパーをちょっと評価して」と依頼し、そのエンジニアに「これは良くできていますね」と理解・評価してくれる、ということが大事だと考えています。。

もちろん、最終的には多くのユーザーやアーティストを巻き込むものにしたいのですが、その頃には次世代の著作権管理(DRM:Digital Rights Management)がどのようなスタイルになっているのかを検討してみるのも面白い。例えば、“多くのユーザー”として巻き込みたい国の一つに中国があります。多くの人々は、中国に対して贋作の温床という印象を持っていますが、しかしその贋作の最大の被害者は中国自身に他ならないことを中国人はよく理解しています。だからこそ彼らは、日本発祥のABNに期待している、という側面もある。多神教国家としての和文化に基づくテクノロジーに対するニーズは、ことアートについては、世界からの期待が非常に大きいと実感します。

そもそも、世界最古のオークションハウスであるサザビーズ(Sotheby's)が古書を売却するために設立された会社だったことや、日本において浮世絵がかつては大衆文化だったことなども併せて考えてみると、これからの事業拡大フェーズにおいて“アート”の先にあるものは、今、私たちがイメージしているものの範囲や業界を大きく逸脱している可能性すら考えられますし、実際にそうなったら面白い。その時代に、多くの人がその豊かさを享受できるインフラになれば本望です。ABNは、その公共性を重視するため、近日中に設立されるABN協議会が運用します。既に、協議会設立事前ミーティングを3回に渡って実施し、参加いただいた25団体から広く意見を募っています。今後もABNは、スタートバーンだけでなく、協議会を経由し「脱中心的」な運営を計画しています。

なお、ホワイトペーパーの閲覧・ダウンロードはこちらのURLから可能です。
https://artblockchainnetwork.com/whitepaper/abn_wp_jp_v001.pdf

先に述べたように、内容は随時アップデートしていく予定なので、今後も、WirelessWireNewsのこのコーナーで随時ご案内していく予定です。

また、「スタートバーンとかABNってそもそも何?」という方には、過去に行われた様々なメディアによる報道や掲載記事を下記にご紹介しておきます。

お時間のある時にお読みいただければ幸いです。


2018/7/5 日経電子版 「美術品管理のスタートバーン、1億円調達」

2018/9/3 WIRED「ブロックチェーン的」な世界を、アートから切り拓く:起業した美術家たちが考える「美と価値と公共」

2018/12/5 Forbes 「散りゆく伝統工芸をブロックチェーンで救う──ある老舗企業とスタートアップの企み」

2019/3/4 talked.jp「ブロックチェーン×アートで新時代のイノベーションを起こす」
(ブランドコンサルタント 福田淳氏との対談)

2019/3/19 TechCrunch「ブロックチェーンでアート市場を変えるスタートバーンが3.1億円を調達、元Anypay CEOの大野氏が取締役に」

2019/4/10 国内初。スタートバーンとSBIアートオークションが事業提携、オークション落札作品にブロックチェーン証明書を発行

2019/8/15 H (エイチ)「ブロックチェーンが創る、アートの未来市場」
(小山登美夫ギャラリー代表 小山登美夫氏との対談)

20198/19 B-OWND MAGAZINE「工芸×ブロックチェーン その可能性とはなにか (前編)「アートの民主化」」
(森美術館館長 南條史生氏との対談)

2019/11/13 日経産業新聞「ブランド工芸の絶滅防げ、ブロックチェーンで作家支援」

https://taihei.org/
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施井泰平(しい・たいへい)

1977年生まれ。スタートバーン株式会社代表取締役社長。少年期をアメリカで過ごす。東京大学大学院学際情報学府修了。2001年に多摩美術大学絵画科油画専攻卒業後、美術家として「インターネットの時代のアート」をテーマに制作、現在もギャラリーや美術館で展示を継続。2006年よりstartbahnを構想、その後、日米で特許を取得。大学院在学中に起業し現在に至る。東京藝術大学での教鞭を取り、講演やトークイベントにも多数登壇。特技はビリヤード。https://taihei.org/biography