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松尾崇(鎌倉市長)氏

未来を見据えた地方自治体のビジョン、戦略に学ぶ vol1.神奈川県鎌倉市

歴史を参照しつつ地元愛の総量を増やし、そこに最先端IoT技術を加える行政

2020.01.10

Updated by WirelessWire News編集部 on January 10, 2020, 10:18 am JST

いまや鎌倉にはIT企業をはじめとする様々な業種のスタートアップや大企業の研究部門が集積しつつあり、産業・暮らし・教育・福祉のエコシステムが高いレベルで調和する地方創生の大成功例といっても過言ではない。果たしてその成功の秘訣はどこにあったのか。年間約2千万人の観光客を集めているにも関わらず、鎌倉の本質はそこにはなく、むしろそこに暮らして新しい価値創造をするためにこそふさわしい街なのだと語る松尾崇(鎌倉市長)氏に森本登志男(キャリアシフト株式会社代表取締役 、総務省委嘱地域情報化アドバイザー、岡山県特命参与、佐賀県・情報エグゼクティブアドバイザー)が聞いた。

▼(左)松尾崇(鎌倉市長)氏 (右)森本登志男
(左)松尾崇(鎌倉市長)氏 (右)森本登志男

クラウドファンディングがうまくいく秘訣

森本 松尾市長はそもそも鎌倉市議だったわけですが、市長を目指そうと思われたきっかけのようなものはありますか。

松尾 私自身が鎌倉に生まれ、そこで育つ中で、様々なボランティア活動とか地域の方たちと触れることが多かったことが遠因でしょうね。100年ほど前に鎌倉同人会という現在でも活動中の会が立ち上がって、みなさんが身銭を切って段葛(だんかずら)や鎌倉駅の修復など鎌倉のまちを育ててくれた。他にも鎌倉市民の活動は活発で御谷騒動(おやつそうどう)にはじまる緑を守る活動の活性化、森林資源の手入れ等、多くの分野でたくさんの功績を残していただいています。こういう歴史があるところを住民の力でもっと良くしていくためのサポートをさらに強力に推し進めたい、と考えたことが大きいです。

そして、そういう活動の原点にある気持ち、つまり“鎌倉が好き”ということですね。これは私に限らずですが、地元を愛する人たちがとても多いのが鎌倉の特徴かと思います。これが実際にクラウドファンディングなどで効いてくるのです。善意のお金が集まりやすい。これも一種の資金調達ですが、私たち行政としては、その善意にきちんと応えて行かなければならない。

今、新たな動きとしてカマコンですとか、まちのシリーズ(まちの社員食堂・まちの保育園・まちの映画館など)、FabLab、リビングラボなんかもそうなんですけれども、地域の人たちが自分たちの手でまちを良くしていこうという、新たな取り組みがどんどん出現してます。これをもっと加速させていくことによって、本当に皆さんの思いや願いがこの鎌倉の中で形作られていくのをサポートしたいというのがそもそもの原点にあった部分でもあります。

ただ、まだまだ行政と住民の皆さんと一緒になって創っていくという中では、情報公開、情報・課題共有、この辺が上手にできていません。もっと“見える化していく”ことに力を入れていかなければいけないという意味でEBPM(証拠に基づく政策立案)の取り組みを重視しています。行政としてこの業務を中核に据えて、行政としてやるべきこと・やっていることがどういうふうに住民の皆さんにとってのメリットにつながっているかというところをきちんと見せていかないと、これから先の強い信頼関係が築けないでしょうから、この取り組みは非常に大きな柱になるでしょう。

森本 私も佐賀県で5年間、県庁職員をやっておりましたので、知事とも相当話し込むんですけれども、結局、大事なのは役場の中の人・外の人、民間の人、住民、そして技術をいかに首長さんが采配して動かせるかに尽きるなと感じたのですね。鎌倉の場合、ここに歴史的な文化的資産や自然が入ってくる。その前提での鎌倉市の将来のビジョンをお聞かせください。

松尾 今、国もSociety5.0を実現しようという方向で考えていますが、これまでできなかった、もしくは諦めていたことがテクノロジーや何らかの新しいツールで可能になる社会が目前に控えているはずで、鎌倉としてもそれを目指していくのだろうと思います。

特にダイバーシティ(多様性)、すなわち一人ひとりの個が尊重されて、その人らしく生きていくことができる社会を目指したい。 そしてもう一つは人口減少の中における「地方での格差」という議論から離脱して、地方ならではの魅力、極論すれば何もなかったことがむしろ魅力的、という価値観転換の先導役になりたい。そして最終的には、便利さや効率性よりも、多少不便だけど豊か、人と人とのつながりが強い社会、人々が求めているのはそういう社会だろうと考えています。

森本 「東京への一極集中」は止まりますかね。

松尾 止まりますよ。それが(今まで)止まらなかった理由がこれから時間をかけて少しずつ消えていくはずです。一極集中からの解放とそれを加速させるきっかけはやはり情報通信技術でしょうね。

鎌倉というポジションは非常に早くにそれが実現できている場所です。東京からも電車で一時間圏内ですし、鎌倉を含む藤沢、茅ヶ崎、平塚という、この湘南一帯が、全体として魅力を上げていくことによって、こちらに目を向けていただける。東京にはない豊かな自然と環境と人のつながりを実現していくことによって、かなり早い段階で目指すべき方向性が実現できる可能性があると予想してます。加えて、日本の地方モデルとなりながら、(他の地域を)牽引していくような役割もあるのだと自覚しています。

私自身はマニフェストとして「多様性を楽しみ、共に生きるまち」、そして「地域の課題を、鎌倉を愛する皆さんと共に解決できるまち」ということ、それから「自助互助共助が高まり、市民が安全・安心に暮らせるまち」、「いつまでも健康で、希望する誰もが働き、社会参画ができるまち」、さらに「歴史・文化、自然を活かし、家族や友人と充実した時間が過ごせるまち」を標榜しています。

鎌倉は源頼朝の頃からベンチャーだった

森本 800年以上の歴史的価値を棄損させることなく、さらにその価値を増していくのはなかなかの重責ですね。

松尾 160を超える寺社・仏閣が鎌倉の街の中にはあるわけなんですけれども、それぞれのお寺や神社さんの努力によって守られてきているというところはもちろんあるのですが、それが市民にとっての誇りでありますし、また外部の方たちにとっての大きな魅力につながっています。例えば、鶴岡八幡宮の裏山が開発をされるというときに、住民の人たちが立ち上がってそれを阻止したことがありましたが、そのような住民が持っている地域に根ざした精神性を尊重していくことには常に細心の注意を払っています。

森本 人の考え方から行動様式まで含めて歴史の思いががっちりある場所に新しいテクノロジー、というのは矛盾している、ということはないですか。

松尾 鎌倉時代に源頼朝公が幕府を開いて、新しい社会をつくりあげたという、いわゆる「時代を切り拓く力」というところや、日本で初めての禅宗道場をつくって、それを人々の心の支えにしていくということに取り組んでいった、という歴史があります。その当時のお話を聞くと、お寺の中では中国語が公用語になっていて、ある意味で世界最先端の知識はそこに集まっていた。 “鎌倉=古い”というイメージなんですけれども、当時の鎌倉の中では常に最先端のものを、世界から情報を集め、自分たちでそれをアレンジしながら時代を切り拓くということをやってきた、ということからすれば、現在の情報通信技術を駆使して時代をさらに切り開くというのはある意味、鎌倉のお家芸なのです。その発祥からしてベンチャーだったのかもしれません(笑)。

縦割り行政を横につなぎ直す

森本 人口減少にはどう対応しますか。

松尾 「緩やかな減少にとどめていく」という言い方をしています。ただ、30代、40代の若い世代が子育てをするときに鎌倉に移住していただけるという傾向が見えているので、そのあたりは取り込めそうです。首都圏に通勤できて、かつ海や山などの自然資本が豊かな環境のもとで子育てをするには鎌倉が適していると判断していただいているのです。鎌倉市の希望出生率1.74を実現できるよう産前・産後を含めた切れ目のない“子育て”、もしくは“子育ち”に対する支援というのを充実していくということを並行してやっている部分もあります。

未来を見据えた地方自治体のビジョン、戦略に学ぶ vol1.神奈川県鎌倉市

森本  “子育て”と“子育ち”と2つあるんですか。

松尾 親に対しての支援と、子どもたちそのものに対する直接的な支援ですね。 “子育ち”の部分は、まだまだ弱い部分があるのですけれども、豊かな自然に恵まれているという環境を生かし、鎌倉には「青空自主保育」という保育の形があります。一日中、山の中で、子どもたちが歩くプログラムがあるんです。その中で、本当にさまざまな学びがあって、その効果というのはたぶん数年で表れるものではないんですけれども、そこで育った子どもたちが大人になったときの力強さ、生きる力などで確実に差が出てくるはず、と確信しています。

福祉に関しても、今回の市長選挙で「福祉マニフェスト」というのをつくりました。鎌倉の中で地道にさまざまな福祉の分野、介護の分野で働いている方々の話を伺うと、実際に政治をしている我々の認識とはちょっと乖離があるなというのを、私自身の反省としてもそれを感じていたものですから、現場で働いている人たちの直接的な声を聴き、一緒に連携をして、政策を作ることに取り組みました。

これまで福祉の分野というのは、どうしても医療であったり、介護であったり、子育てというのがそれぞれ高齢者、子どもという具合に縦割りで分断されてきた歴史があるので、そこを横でつなげた福祉を目指していきたいと考えています。

例えば、子どもの施設でもそこに高齢者が来たりというような、いわゆる“ごちゃ混ぜ”な仕組みを意図的に作っていくところにこそ行政の役割があるはずです。そして様々な規制を取り除いていくことで、現場の方々にどんどん裁量権を渡していく。そうなると現場も楽しいだろうな、と思うのです。

鎌倉的資本主義による価値転換

松尾 実はこれからの40年というのを我々考えている中で、一番の課題は「公共施設の老朽化とインフラの老朽化」なんです。これをどう推進していくかというのが実は答えがまだ出せていない課題ですね。現状の機能を維持していくために約2.5倍の予算が必要というところが試算されていて、これはとても捻出できない費用になるので、特に、公共施設については集約化し効率化を図る必要があります。 インフラは、集約ができませんので、予防的な修繕という考え方で維持コストを抑えていこうと考えています。これはとても地味で、やって当たり前なのであまり評価されませんし、本当に難しい課題です。無論テクノロジーで解決できる部分もあるはずですが、住民の多くは「(とりあえず)目先のいいもの」を求めますから、そのあたりが非常に難しいですね。

ただ、「価値の意味」が大きな変換点に来ていると思うのです。鎌倉では、GDPの指標とか、お金持ちになりたいというようなことではない「新たな豊かさ」というところを求めていきたい。「鎌倉資本主義」という言葉を使う方もいらっしゃいますが、まあそういうものです。それは、鎌倉の豊かな自然、環境を守るという、いわゆる“環境資本”というものをさらに質を高めて磨きをかけていくということと、もう一つは人と人とのつながりを広げていくという“社会(関係)資本”を広げていくこと。それから、経済的にも併せて活性化していけるという、「環境」「社会」「経済」というこの3側面をしっかりバランス良く成長させていく。これが実はSDGsの理念とも完全に合致しているのです。

鎌倉・大船・深沢の3拠点での広域まちづくり

森本 鎌倉は民間企業の頑張りも含めた注目すべき動きがたくさん情報としても入ってきますが、行政として“産業”の育成戦略のようなものはどう考えていますか。

松尾 カマコン(Kamacon)による若い人たちの活動の勢いが注目される中、市の取り組みとしては鎌倉・大船・深沢の3拠点でのまちづくりを進めています。鎌倉はご案内のとおり、鎌倉駅を中心としたエリアは神社・仏閣が集約しているところで、かつ古都保存法で守られている緑と海があります。一方、大船はアメ横的な元気な商店がたくさんあって、“鎌倉の台所”になっています。そしてその周りに企業さんが集中していて商業的に活気のある街です。それに続く第3の拠点として、深沢のまちづくりを現在計画中です。

深沢周辺は武田薬品さんを始めとして、湘南アイパークには医療やバイオのベンチャーの企業や研究機関などが続々と集まってきています。また東レさんや、人工衛星をつくっている三菱電機さんなど、未来の成長産業と言われるような分野の企業が集積しつつあります。深沢の街づくりは「ウェルネス」というテーマを掲げているのですが、ここで人々が健康で長生きできるという、こういうことを実現できるまちづくりにつなげていきたいと思っているところです。健康・医療に関連した企業の誘致を実現し、住民の皆さんが企業と一緒に豊かに暮らせる街を作っていきます。特に深沢の企業誘致は専属の担当者をつけようと考えています。

森本 企業が深沢に魅力を感じる理由はどこにあるのでしょう。

松尾 これは武田薬品の方からお聞きした話ですが、大阪と神奈川とを両天秤にかけたときに、最終的なポイントになったのは、子育て環境のようですね。自然が豊かということ以上に、教育の充実が決め手になったということです。県立大船・鎌倉・深沢・七里ガ浜高等学校、栄光学園、鎌倉学園、鎌倉女学院、清泉女学院、鎌倉女子大、北鎌倉女子学園、横浜国立大学教育学部附属という具合に実績のある学校がすでに多数存在しています。さらに、健康・医療系産業を重視するのは神奈川県の“未病”施策とも合致しているのです。

新しいモデルを作れる可能性を感じる若い人たち

森本 ところで鎌倉といえばやはり“観光”ということになるかと思うのですが。

松尾 それかなりイメージ先行です(笑)。実は一人当たりの観光客の単価が6,000円~7,000円でこの大半を電車の往復運賃とお寺・神社で使うというというのが基本です。鎌倉にとって観光によるメリットは実はそれほど大きくないのです。単に観光を活性化するだけでは市のメリットを見出すのは正直難しいと考えています。もちろん滞在時間が長くなる施策や、宿泊施設の増加なども進めてはいますが、最終的に関係人口を増やすということに着目すれば、“鎌倉で働いていただく”ということでしょうね。その意味もあって、テレワークの推進に力を入れています。観光の話ではなく働き方の話になってしまうのですが(笑)。

森本 積極的に誘致しているわけではないのに若いベンチャーがどんどん鎌倉に集結するのはなぜでしょうね。

松尾 感覚的な議論ですが、今までの価値観とは違う自分たちの「これが次の時代をつくっていく」という、そういうモデルをここならつくっていけるという、新たな価値をつくれる可能性という、そういうものを感じさせるものがあるんじゃないですかね。(先ほどお話しした)鎌倉って実は(歴史的に)ベンチャーだった、という風土のようなものが伝わり始めたのだと思います。

パブリテックという考え方

松尾 2年前の市長選挙のときに“パブリテック”という言葉を初めて採用しました。パブリテックは、公共(Public)と技術(Technology)を掛け合わせた造語で、AI(人工知能)、ディープラーニング(深層学習)、ブロックチェーン等の先端技術を用いて、社会課題を解決することを指します。人にやさしいテクノロジーを活用して新しい公共サービスの形をつくる、ということで、これを推進する組織を去年発足させました。行政としては、こういう社会を目指していくということで、パブリテック担当という担当も置きながら取り組んでいるところです。

森本 これも「健康」「福祉」「子育て」あたりがポイントですか。

松尾 特に「高齢者とテクノロジー」ですね。本来、高齢者や障害者の方こそがテクノロジーの恩恵を受けるべきなのに、なかなかうまくいっていないのが現実です。そこでチャレンジの一つとしてスマートスピーカーを使って高齢者が話をすることでいろいろな情報を得たり、サービスを受けられるというプロジェクトをスタートさせています。新しいことを覚える必要がなく、「しゃべる」だけで新たな価値が手に入るというところが、まさにこれから目指していく方向性なんだろうなというのを感じた事例でして、テクノロジーの存在感を希薄にするサービスが今後非常に重要になってくるはず、と痛感しました。

この辺りをフックに、鎌倉は具体的なチャレンジをどんどん積み重ねていけるフィールドですよ、というイメージを作っていきたいと考えています。この繰り返し、つまりトライ&エラーを繰り返す中でどんどん拓かれていくはず、そんな考え方で取り組んでいます。

みまもりあいプロジェクトを通じて、人に優しいまちづくり

森本 防犯・防災対策は?

松尾 これはまさに鎌倉だけの話じゃない、地域のつながりによるところと、テクノロジーが非常に効く部分ですね。現在、「みまもりあいアプリ」を使ってます。これは認知症の方が迷子になって、それを探すというときに、まず警察に行って、警察で見つからないと行政に来て、防災無線で放送を流して見つけてとなるのですが、それを介さずに、周りの人たちに「おじいちゃん、いなくなっちゃった。探してほしい」と発信するだけでいい、そんなアプリなんです。このアプリ自体の性能が重要なのではなく、考え方が大切なのです。地域の中でみんなが互いに気にして、顔見知りになってというのを何らかの方法で強化したい、という想いですね。単純に「昔に戻れ」といっても戻れるはずもありませんから、このようなアプリがそのきっかけの一つになればいいなと考えているんです。

未来を見据えた地方自治体のビジョン、戦略に学ぶ vol1.神奈川県鎌倉市

森本 これは市でつくられたアプリですか。

松尾 いえ、民間の方がつくっているアプリです。

森本 結局、顔見知りがたくさんうまく機能するということが防犯でも防災でも、あるいは子育てや見守りにも効くということですね。

松尾 そうですね。本当にそうなんです。

森本 それを活性化するアプリを民間が作ってくれる。

松尾 そういう仕組みを我々も活用しながら、民間と連携していろいろな仕掛けを地域の中に落とし込んでいかなければというところなんですね。

森本 それと、津波警報が出たときに、この道を通ってこう逃げなさいという標識をつくられたりとか、計画されていませんでしたっけ?

松尾 うちは津波シミュレーション動画というのをつくって、危機意識を煽りながら、こっちというのは路面のシートで張ってあるというのはやってますが、森本さんのおっしゃるのは葉山町で実施している「逃げる方向に光で誘導する」というものではないですかね。

▼鎌倉で津波から生きのびる(英語字幕版 English subtitles)

地方創生のキーパーソンは“課長”

森本 職員の知恵や情報、そういったものを日々どのようにマネジメントされているのでしょう。

松尾 予算をかけずにスピード感を持ってやっていくというところを重視していくと、まさに一緒に組んでくれるところをどう見つけていくか、つないでくれる人を見つけられるか、というところがポイントになるのですが、そのような情報がたくさん入りやすい、という環境が(鎌倉には)ありますね。

そしてその次の段階に行くためにまさに人材が必要になるのですが、今、短期的にやっているのは、外部から人に入ってもらうという、国や県から優秀な方に来ていただいてやるということもそうですし、民間企業から研修という形で入っていただくという形もあります。それと管理職として、任期付きの職員ですけど、公募で採用するということも都度実施しており、そのあたりの方法で、役所内部を少しずつ固めているところです。ここで重要なのが課長の公募です。

森本 課長の公募ですか。軋轢はないですか。

松尾 人次第ですね。今まで4人の方が課長として実際業務についていますが上手にやってくれているし、周りの職員も外部から来た方のわからない部分をうまくフォローしながらやってくれているなというふうには見ています。

もっとどんどんこれからそこは広げていきたいですし、むしろ、広がっていくのではないかなと思っていたりします。いわゆる民間の人材や市外の人材が役所の中に入って、また外に出ていって……。それは役所の職員もそうなんですけれども、実はそのように流動的になっていくということ自体が新しい試みになるかもしれません。新しい価値をつくっていくときにはこの流動性が大事だなと感じてます。

森本 私自身は(佐賀県は)部長待遇で行ったんですけれども、結局、課長が真下に付いていないのですね。いろいろな課長とお話をしなければいけない。幾つかうまくいったものと、途中でまったくうまくいかなくなったものがあるんですけれども、全部、課長もしくは係長。係長が課長を動かすという意味では、課長がキーパーソンだったのは確かですね。

松尾 ですよね。

森本 課長がいいと進むのは全く同意です。私も結局5年いたので、最初うまく仕事ができた課長がよそに行くと、そっちの仕事がうまくいくようになるんです。課長をうまく“異動”させる、ということもポイントかもしれませんね。

松尾 ただ、職員の特性の中でも、新しいことにチャレンジしていくことが得意な方と、総務的業務が得意な方などがいるので、タイプ別の人事にはかなり気配りしているつもりです。

森本 チャレンジタイプがどの程度目立つかが、その役所の雰囲気を作ると思いますが、そういうタイプはどうやって見つけますか。

松尾 日々の仕事をしている中での、その職員のセンスの良さとか考え方とかいうところに触れると、じゃあそっちやってもらおうとかいうところはありますね。それと私自身が上から「ああせい、こうせい」という、細かいところまですべて決めて指示するというタイプではないものですから、どちらかというとサーバントリーダーシップ的な立場です。「こうしたい」「ああしたい」という、そういう提案を持ってくる職員なんかも課長と一緒に来たりするんですけど、そういうところを尊重しながら、やりたいことを任せていくということとか、小さい成功体験というんでしょうか。本当に微々たるものなんですけど、ちょっとした事務改善とか、そういうことを、日々、会話の中で提案してくれたりとか、そういうことについての評価というのはすごく私自身、高くして、そこに対して関心を持つようにしているところはありますね。

森本 民間とのリレーションはどのような戦略を?

松尾 民間と役所の垣根を限りなく低くしていきます。人が流動的にあらゆるところに行けるということを目指していく必要があるのだろうなと思っているので、外部の方も、話をしてみると行政の仕組みとか物事の決定の仕方とか、そういうものが非常にわかりにくいし、わからないということ自体を課題として持っているし、行政も民間のことがよくわかっていません。そこのところを意識しながら進めていくというのが非常に重要なところだなと思っています。

松尾崇(まつお・たかし)

松尾崇(まつお・たかし)
1973年生 神奈川県鎌倉市(第21代)市長。鎌倉市議、神奈川県議会議員を経て、2009年の鎌倉市長選挙に無所属で出馬し当選。以降3期連続の当選を経て現職。

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