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コネクテッドカーの車内監視機能に懸念されるプライバシー問題

2020.08.26

Updated by Wataru Nakamura on August 26, 2020, 13:36 pm JST

VICE傘下のテック系メディアであるMotherBoardが先月、米マサチューセッツ州のセレンス(Cerence)という自動車関連テック企業の話題を取り上げた。マイクやバーチャル・アシスタント、視線監視カメラなどの車載システムを開発・販売する同社が今年発表したのは、車内カメラと感情認識AI(人の表情のわずかな変化を読み取り、その感情を判断するアルゴリズム)を組み合わせて収集・分析したデータを自動車メーカーと共有し、マネタイズする(あるいはメーカーのマネタイズをサポートする)新たな計画だという。

自動運転機能やコネクテッドカーが普及する中で、車内の監視は安全機能として欠かせないものとなりつつある。例えば、ドライバーのよそ見を防止する視線監視システムやハンドルを一定時間握っていない場合に警告をする機能などが一般的だ。最近では、車内に置き去りにされた子どもがいることや車上荒らしの発生などを検出するセンサーの搭載を、テスラがFCCに申請したことも話題になっていた。

とはいえ、「車内カメラと感情認識AIで収集・分析したデータをマネタイズする」となると、安全機能以上に広告での利用やプライバシーの問題が気になる。そうなるとむしろ、「安全のため」は建前でしかないようにも思える。MotherBoardによれば、このような車内監視データのマネタイズを目指しているのはセレンスだけではなく、そういった技術やソリューションを自動車メーカーに留まらずライドシェアリング企業に売り込んでいる企業もあるという。

例えば、MITメディアラボのスピンオフ企業であるアフェクティヴ(Affective)では、乗客に対して車内での感情の記録やその分析の許諾と引き換えに、ライドの無料化や値引きを提案するといった感情データを活用した新たなサービスをライドシェアリング企業に提案しているという。

「利便性と引き換えにある程度のプライバシーが犠牲になることは仕方がない」と割り切れる人なら話は別だが、プライベートな空間である車内の動画や音声などのデータが記録・分析されること、あるいはそれが広告に利用される可能性をポジティブに捉える人は多くはないだろう。これらの企業は、少なくとも実際の録画映像などのセンシティブなデータはクラウドではなく自動車側で処理されるとしているが、どこよりもビッグデータ活用が進んでいるといっても過言ではないSNS各社でセキュリティやプライバシーに関する問題・スキャンダルが続出していることを考えても、このようなデータがどのように取り扱われるかについては不安が残る。

自動車メーカー各社は、「CASE(Connected, Autonomous, Sharing, Electricの頭文字をつなげたもの)」や「MaaS(Mobility as a Serviceの略)」といったキーワードを掲げてDX戦略に取り組んでいるが、純粋に利益のみを求めた変革の過程ではプライバシーの問題は軽視されてしまうだろう。センシティブなデータを取り扱うからこそ「カスタマーファースト」の視点は忘れてほしくないところだ。

そもそも、感情認識AIのような最先端技術があるにもかかわらず、それをターゲティング広告のような従来型の広告手法に活用することは短絡的に思える。例えば、車載システムの対話型AIなどに応用した方がユーザーにとっては抵抗もなく、AIならではのより新鮮な体験や利便性を提供できるのではないだろうか。

蛇足となるが、自動車の歴史を紐解いてみると、1908年に世界初の廉価な量産車であるT型フォードが発売された。ある研究者の論考によると、米国の性道徳はこの車の登場をきっかけに変わり始めたという。若者たちが、自分たちだけの密室を簡単に持てるようになったためである。プライバシーという根源的な問題について、テクノロジーやビジネスはどういった今日的な新しい価値や体験を提供できるか、という点を考えるに際して、示唆に富むエピソードではないだろうか(注1)。

参照
Car Companies Want to Monitor Your Every Move With Emotion-Detecting AI

注1)
スーパー書評「漱石で、できている」6
ホセ・オルテガ・イ・ガセット『大衆の反逆』

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