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HARMAN's Infotainment Division(HARMAN)

サムスンのハーマン・インターナショナル買収 その狙いとコネクテッド・カー分野への影響を探る

2016.11.16

Updated by Hayashi Sakawa on November 16, 2016, 15:25 pm JST

サムスンが車載情報システムの大手メーカー、ハーマン・インターナショナル(以下、ハーマン)を80億ドルで買収し、自動車関連分野に本格進出するとのニュースが週明けに流れていた。いわゆるコネクテッド・カー分野の成長やその先にある自動運転車市場を視野に入れた動きとされている。一部の媒体には、これまで大型の企業買収をしてこなかったサムスンにとって異例の動きである点に注目している記事もある。また約710億ドルという潤沢な手元資金をもつサムスンが、自動車関連分野参入にかかる「時間を買った」という指摘もあり、その点ではNXP買収を通じて自動車関連半導体分野をテコ入れすることにしたクアルコムの動きとも共通点が感じられる。

サムスンの状況

昨年12月には、サムスンが自動運転車用部品を手がける独立した事業部門を新設したことが報じられていた。また今年7月には同社が中国の大手バッテリー/EVメーカー、BYDに4億5000万ドルを出資したことも発表されていた。いっぽう、アップルやグーグルとは異なり、サムスンが自社ブランドの自動車開発に乗り出す可能性などを指摘した話はいまのところ見当たらない。

それとは別に、サムスングループの実質的な指導者となった李在鎔(Lee Jae-yong)がエクソール(Exor)というフィアット・クライスラー(Fiat Chrysler、FCA)の持株会社の社外取締役を務めていることを踏まえ、FCAが子会社の自動車部品メーカー、マニエッティ・マレリ(Magneti Marelli)の売却をサムスンに持ちかけているとする話もReutersで9月初めに報じられていた。ただし、Galaxy Note 7リコール騒動の影響などもあり、この話もいまのところは結実していない。

今回の動きを報じたニュース記事のなかには、サムスンがディスプレイやチップ類など車載情報システムに使われる部品を多く手がけていることから、ハーマンの獲得を通じて、これらの部品の販路を急速に拡大できる可能性を指摘するものもある。

なお、フィアット・クライスラーはすでにグーグルのパートナーとしてグーグルの自動運転車開発に関与していると同時に、同社はハーマンにとって製品供給先のひとつでもあり(昨年夏に「車載システムを無線経由でハッキングされた」と一部で話題になっていた「Jeep Cherokee」には ハーマンのシステムが採用されていた)、このフィアット・クライスラーを媒介として、サムスンとグーグルとが自動車分野でどのような関係を結ぶことになるかも注目点のひとつと考えられる。

ハーマンの状況

ハーマン・カードン(Harman Kardon)、JBL、インフィニティ(Infinity)、マーク・レヴィンソン(Mark Levinson)など、音響/ビジュアル関連のさまざまなブランドを傘下に抱えるハーマンでは現在自動車関連製品の売上が全体の約3分の2を占めており、同分野ではパナソニックと並ぶ最大手とされる。同社の2015年度の売上は約69億ドルで、自動車分野の強化に乗り出す前の2007年の3600億ドルからほぼ倍増。また同社のディネシュ・ワリワル(Dinesh Paliwal)CEOは、Automotive Newsとのインタビューのなかで「2015年度の売上のうち自動車関連は45億ドル」「全体の売上は7年前の29億ドルから倍以上になった」と述べている。

さらに、同CEOはハーマンの取引先についてメルセデスベンツ、BMW、ゼネラルモーターズ(GM)、フォルクスワーゲン、フィアット・クライスラー、ヒュンダイ(現代)、トヨタ、スバルの名前を挙げている。また「われわれはハイエンド(高級車)市場で圧倒的に強いが、売上増加のスピードでは中型車市場のほうが上」などとし、新たな収入源として具体例としてフィアット・クライスラー、GM、スバルなどを挙げてもいる。

WSJでは、ハーマンが昨年1月に買収を発表した米シンフォニー・テレカ(Symphony Teleca)、イスラエルのレッドベンド・ソフトウェア(Red Bend Software)などの獲得を通じて、ソフトウェアやサービス関連の強化を進めていることにも触れている。ただし、車載情報システム分野ではグーグルの「Android Auto」やアップルの「CarPlay」などスマートフォンとの連携を基本とする製品の存在感も徐々に高まっている。そのため今後は同分野でもサムスン、グーグル、アップルの競合・共生関係が再現される可能性もあるとするアナリストの見方も紹介されている。

そのほか、同社ウェブサイトのプレスリリース欄には、コネクテッド・カー関連のAT&T、あるいはNXPとの協業に関するものなども見つかる。

今後の注目点など

コネクテッド・カー関連の市場規模は、2016年の420億ドルから2022年には610億ドルまで拡大するとする調査会社IHS Markitによる予測がWSJ記事には出ている。上記Automotive Newsのインタビューのなかには、車載情報システムの普及率について、「現状は世界全体で25〜27%だが、これが今後5年間で倍増する」とするワリワルCEOの発言もある。また同氏が地域別の普及率について、日本が65%ともっとも高く、欧州ならびに欧米が25〜30%、それに対して中国はまだ一桁と説明している点も目をひく。市場拡大の中心はやはり中国をはじめとする新興市場ということかもしれない。

またWSJ記事のなかには、サムスンによるハーマンの買収が引き金となり、他分野の企業が自動車関連サブライヤーを買収する例が今後増える可能性もあるとする米ウェルスファーゴのアナリストの見方が紹介されているものもある。

パナソニック、パイオニア、アルパイン、富士通、JVCケンウッド、クラリオン、アイシンAW、デンソーなど、同分野では売上上位に名前を連ねる日本企業も少なくないが、たとえばサムスンがヴィヴ(Viv)の買収を通じて手に入れる音声認識・応答技術をベースとするAI機能といった新しい要素をハーマン製品にも組み込んできた場合に日本の各社がどう対応してくるか、あるいはそうしたものに対抗できる技術やサービスを提供するために、どんな相手とどのような組み方をしてくるのかなどが今後の注目点となろう。

【参照情報】
Samsung Electronics to Acquire HARMAN, Accelerating Growth in Automotive and Connected Technologies - Samsung
Samsung to Buy U.S. Auto-Parts Supplier Harman for $8 Billion - WSJ
Samsung to Buy Harman for $8 Billion Cash in Automotive Push - Bloomberg
Samsung to buy car tech firm Harman for $8 billion, South Korea's biggest overseas deal- Reuters
Samsung to Develop Components for Self-Driving Cars - WSJ
Fiat Chrysler in talks with Samsung and others over Magneti Marelli: chairman- Reuters
サムスン、中国BYDに出資 – 自動車用プロセッサ事業の拡大が狙い
Harman says car hacking risk restricted to Fiat Chrysler- Reuters
How Harman, Once Shunned, Repositioned Itself in the Automotive-Tech Arms Race - WSJ
Harman Buys Car-Software Companies for $950 Million - WSJ
Harman CEO predicts continued strong gains from infotainment - Autonews
HARMAN and AT&T Advance Next-Generation Car Connectivity - Harman
HARMAN and NXP Cooperate on Secure Vehicle-to-X Communication - Harman
Japan Watches Samsung Chip Away at Its Car Makers - WSJ

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坂和 敏

オンラインニュース編集者。慶應義塾大学文学部卒。大手流通企業で社会人生活をスタート、その後複数のネット系ベンチャーの創業などに関わった後、現在はオンラインニュース編集者。関心の対象は、日本の社会と産業、テクノロジーと経済・社会の変化、メディア(コンテンツ)ビジネス全般。