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「幸せな未来はゲームが創る」 コロナ禍の遠隔学習で見えたゲームの可能性

2021.04.05

Updated by Wataru Nakamura on April 5, 2021, 18:07 pm JST

新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界中で遠隔学習は急速な広がりを見せている。日本では、全国の大学でオンライン授業が始まって既に半年以上が経ち、より厳格なロックダウンが複数回実施されている欧米各国では、小学校から大学まで多くの教育機関で過去1年オンライン授業が教育システムの中心的役割を担ってきた。ここ最近は、感染予防対策の充実やワクチン接種の開始などもあり、各国で対面授業は再開されつつあるが、欧州での再ロックダウンなどまだまだコロナ以前の日常には程遠く、引き続き遠隔学習は各国で重要な役割を果たすだろう。

では、この1年遠隔学習が急速に普及する中で浮かび上がった課題やメリットはどのようなものだろうか。今回は米テックニュースサイトGeekWireの「Remote learning at 1 year: Experts explain why the move to online education has been so painful(遠隔学習の1年:専門家が説明する、オンライン教育への移行に大きな苦痛が伴ってきた理由)」という特集記事から、遠隔学習について考えてみる。

まず、タイトルからも伝わってくるように、この記事は米国のコロナ禍でのオンライン教育への移行が直面してきた課題を中心に論じている。具体的には、ワシントン州の教育機関におけるオンライン教育への移行について、何が失敗に終わり、何が一定の成功を収めたのか、現状を伝えながら教育や教育テックの専門家に話を聞いたものだ。

子どもや若者にメンタルヘルスの危機

ワシントン州では今年3月、ジェイ・インスレー州知事が教育関係者に対して、4月中にも対面授業を再開するよう求める命令を発令した。「Children and Youth Mental Health Crisis(子どもたちや若者のメンタルヘルスの危機)」というタイトルが付けられたこの緊急宣言は、学校の閉鎖から1年近くが経過した現在、同州の子どもたちがコロナ禍での日常的な孤独やバーチャル学習に取り組む難しさ、教育者や学校関係者、メンターや友人たちとの対面でのやり取りの不足から、メンタルヘルスの危機に直面していることを指摘している。

では、同州がこのような状況に陥ったのはなぜだろうか。この記事では「結論として、数十年間の積み重ねがある対面指導から、十分な訓練もできておらず、専用に開発されたツールもないオンライン指導にわずか数週間で移行することは失敗が運命付けられていた。教師たちが失敗したわけでも、教育テックが失敗したわけでもない。システムは単に、この困難な問題を解決するためにこれほど急激な変化をする準備ができていなかった」と説明する。

現地の専門家は「遠隔で指導するための技術やツールに関する訓練を受けたことのある教師はほとんどいなかった」、「これまでの教育テクノロジーは対面学習を代替するためのものではなく、補完するためのものであった」といった指摘をしているが、これはオンライン授業導入を試みた世界中の教育現場が直面したことだろう。

そもそも、オンライン教育にはアクセスのためのテクノロジー端末や安定したネット環境が必須だが、同州の学校がオンラインに移行した際には、これらのインフラへのアクセスが整っていない学生や家庭、学校も多かったという。パンデミックが拡大したこのデジタル・ディヴァイドの解消には、その後の政府のプログラムやNPO、教育関係者らの働きかけがあったというが、その成果はまちまちだったようだ。ちなみに、米国政府の働きかけとしては今年2月、米連邦通信委員会(FCC)による低所得家計向けの月額50ドルのインターネット補助金が承認されている。

インフラやテクノロジーが問題なのではない

また、このようなインフラに問題なくアクセスできる学生たちにとっても、オンライン教育には多くの課題があったという。今回の記事では、初等教育や教育テック、学校心理学などの専門家が次のような課題を挙げている。

・学生の年齢が低いほど教育には無秩序で探索的、創造的、フィジカルな要素が求められる。現在の教育テクノロジーは、子どもたちにとって柔軟で立体感のある体験を提供するようには開発されていない。

・オンライン授業で学生は教師と過ごす時間はより少なく、集中力を維持できる時間も対面授業より短い。

・オンライン授業では教師が話す時間が中心となり、学生が自発的に何かを学習し、試行することについて教師がフィードバックするような形はとりづらい。

・教師や学生によってデジタルリテラシーに大きな差があり、遠隔学習のための有用なソフトウエアやプラットフォームが知られていなかったり、活用されていないことがしばしばある。

・オンラインでは、学校のように新たな友人を作ることや、既にいる友人とのつながりを維持することが容易ではない。学生たちはEQ(感情的知性)やソーシャルスキルを高める機会を十分に得られない。

この中では、最後に挙げた点はオンライン教育の最大の弊害といえるかもしれない。日本でも入学後すぐにオンライン授業になった大学生が友人を作れず、孤独感を募らせているといった話はニュースなどでも伝えられているが、初等教育や中等教育においては、ソーシャルスキル形成の場としての学校の役割はなおさら重要であるはずだ。また、同じように頑張っている友人たちの存在を感じられる対面授業では、学習に取り組むモチベーションも変わってくるものだ。

問題点とメリットは表裏一体でもある

その一方で、このような遠隔学習の導入後に明らかになってきたメリットもある。挙げられているのは以下のような側面だ。

・社交不安障害(人前で過度に緊張したり、不安を覚える障害)を持つ子どもたちにとってはストレスが少ない。オンラインでは直接的ないじめの機会もない。

・学生や教師のデジタルリテラシーが向上した。学生たちにとってこれらのスキルは将来の高等教育や就職先で役に立つ可能性がある。

・デジタル学習は指導をゲーム化するプログラムの使用を促進した。これは一部の子どもたちにとっては学習に取り組みやすくなる。ARやVRはより豊かな学習体験をもたらす。バーチャルの校外学習やゲスト講師の参加は学生たちに対面では不可能な新たな体験を与えてくれる。

・遠隔教育によってデジタル・ディバイドにスポットライトが当たった。デジタル端末が不足していた多くの学校や学区に学生向けの端末が配備された。

・教育関係者は学習のためのデジタル文書や動画を作成している。学生たちはこれらの教材で自習や復習を行って理解を深めたり、自分たちのペースで学習を進めることができる。

ゲームの中に課題解決のヒントがある

この中でも特に注目すべきは、「遠隔のデジタル学習でゲーミフィケーションの活用が進んだ」であろう。というのも、ゲームの中には前述した遠隔学習の様々な課題を解決するようなヒントがいくつも見付かるからだ。

例えば、スウェーデンのMojangが開発し、マイクロソフトが買収した「マインクラフト」は、ランダムに生成された世界を冒険したり、様々な素材で道具や家具、建造物などを作ってオリジナルの世界を構築したりできるものだ。ゴールやルールのない自由な楽しみ方ができるゲームであり、そこにはまさに探索的で創造的、柔軟で立体感のある体験がある。また、同じ世界を共有する仲間との共同作業が協調性を育むという側面もある。

実際このゲームには、プログラミング教育や情報教育、協同学習などの教材として使用することを想定した「Minecraft: Education Edition(教育版マインクラフト)」というバージョンがあり、すでに一部の教育機関や英会話教室などでも活用されている(最近では入試に採用している例もあるという)が、この流れはさらに進むだろう。

一方、学習利用を想定したゲームでなくても、使い方次第で効果的な教材となる可能性はある。例えば、米Epic Gamesの「フォートナイト」はクラフト要素のある人気バトルロイヤルゲームだが、最近は同ゲームで英会話を学ぶサービスなども登場している。

また、学生の集中力やモチベーションを継続させるという点でも、楽しみながら学べるゲームに大きな利点があることは間違いない。大人がなかなか継続できないものの一つに運動があるが、2019年に発売され長らく品薄状態が続いたNintedo Switchの「リングフィットアドベンチャー」は、まさにゲーミフィケーションの力で運動の継続や習慣化をもたらした。外国語学習や数学など、粘り強さや継続性が求められる分野ほど、ゲームが大きな力を発揮するのではないだろうか。

個人的に、ゲームと学習の相性の良さを最初に体感したのは「『桃鉄』をプレイしているうちに各都道府県の位置や県庁所在地、特産品が自然と身についた」、あるいは「『大航海時代』や『太閤立志伝』で世界や日本の地理、歴史に関心を持ち、知識を得た」といった子ども時代の経験だった。誰もがネット接続されたPCやスマートフォンにアクセスしやすく、VRなどでより没入感があり、リアルに近い体験も得られる現代であれば、ゲームの学習への応用可能性は当時とは比較にならないだろう。

今回取り上げたような遠隔学習の課題を解決し、メリットを最大限に活かすようなゲームが登場したり、様々な分野の学習に既存のゲームを巧みに活用するような指導法が生まれてくれば、これまでの教育をアップデートする存在となる可能性は十分にある。

・参考記事
Remote learning at 1 year: Experts explain why the move to online education has been so painful

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中村 航(なかむら・わたる)

1985年生まれ。福岡県福岡市出身。翻訳者。テクノロジーやファッション、伝統工芸、通信、ゲームなどの分野の翻訳・校正に携わる。WirelessWire Newsでは、主に5G、セキュリティ、DXなどの話題に関連する海外ニュースの収集や記事執筆を担当。趣味は海外旅行とボードゲーム。最近はMリーグとAmong Usに熱中。