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日本でDXが進まない理由は「技術」ではない

The reason DX would not proceed in Japan

2020.11.24

Updated by Mayumi Tanimoto on November 24, 2020, 16:15 pm JST

日本では最近、DX(デジタルトランスフォーメーション)が話題ですね。

経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションを推進するための ガイドライン (DX 推進ガイドライン)」の定義では、DXとは

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

です。

つまり一言でいうと「ITを活用してもっと儲ける」という意味で、一昔前の「IT化」やもっと古い時代の「OA化」と基本的には同じような側面があります。

しかし、かつての「IT化」と最近のDXが大きく異なるのは、「技術」面の激変と「外部環境」の変化です。

技術に関しては、AIの登場だけではなくビッグデータからソーシャルメディア、通信環境の高度化、スマートフォンやタブレット等がこの10年ばかりの間に大量に登場しています。

外部環境の変化に関しては、大きな要因としての市場の変化とグローバル化に加えて、今回のCovid-19による働き方やビジネスプロセス見直しがあります。さらに、日本に関しては、少子高齢化による労働力の減少、国内市場の縮小という厳しい条件が追加となります。

この様な環境下であるにもかかわらず、私が驚かされることは、日本ではいまさら「DXをやりましょう」ということが話題になっている、ということです。

欧州では、そんな概念的な話はとっくの昔に終わっていて、今は各論、つまり何を実装してどうやって行くか、より効率的にして収益性を高めるにはどうするかという話になっています。

カンファレンスでもメディアでも、また業界の集まりでも、そんな総論は話題にもならないし、語っている暇もないわけです。とにかく今は、コロナでどこもそんな余裕はなく、どうやってデジタル化を効率良く進めて組織を「潰さないようにするか」ということが中心です。

欧州のその様な状況は、マッキンゼー・アンド・カンパニーが2016年に発表した「Digital Europe」というレポート(リンク先に全文)にも表れており、その中の「 Industry Digitisation Index」という独自の指標によれば、欧州全体のデジタル化浸透度は12%で、最も高いのはイギリスの17%です。アメリカの18%には及びませんが、全体としては行政でもビジネスでもかなりのデジタル化が進んでいます。

一見保守的に見える欧州ですが、確かにビジネスでも普段の生活でも、日本に比べると様々な点で遥かにデジタル化が進んでいます。

特にそれが顕著なのが行政サービスで、納税や情報配布などのデジタル化の徹底度合いは、日本とは比べ物にならないレベルで進んでいる国が多いのです(後々連載でご紹介します)。

また金融もデジタル化が進んでいる分野で、特にFintechは欧州全土で展開する企業も多く、その柔軟性やスピード、利便性は驚くべきレベルです。

なぜ古い国が多い欧州でデジタル化が日本よりも進んでいるかというと、やはり最大の要因は人件費の高さと労働慣習だと考えます。

欧州は、雇用規制が日本よりも遥かに厳しいため、労働工数の管理が厳密な国が多いのです。有給も全部消化、ルーズな印象の南欧あたりでも労働時間をきっちり守ります。日本のように人力に頼ってダラダラと仕事をすることができないのです。

また、費用分しか仕事をしないので、収益性を高めたい場合に精神論などに頼ったサービス残業や無償の追加作業依頼はできません。デジタル化して効率化する他ないのです。

私が現場で観察してきた感覚では、日本でDXが進みにくい理由は、そういう労働環境がないがために、効率化や付加価値を高めるという動機が薄いからだといえます。

DXというと、日本だとすぐに技術やトレンドの話になりがちで、バズワード的な言葉遊びで終わってしまうのですが、ポイントはそこではなく、もっと根源的なものでしょう。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。