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マイナンバーと成績の紐付けは意味がない

Link of "My Number" and grade records does not provide added value

2020.12.21

Updated by Mayumi Tanimoto on December 21, 2020, 10:35 am JST

日本の政府がマイナンバーを小中学生の成績に紐付ける、という件がネットで大炎上しておりますね。

デジタルトランスフォーメーション(DX)が日本よりも20年くらい先を行っているイギリスや他の先進国は、そもそもマイナンバーに相当する番号がなかったりする上に、成績の紐付けなどということはやっていません。

政府は「小中学生の学習履歴や試験の成績をカードに紐付けてオンライン管理し、記録データを元に、教員が一人ひとりに合った指導ができることを目指す」とのことですが、現場で成績を付けたことがない人がプロセス設計以前に考えた話のような気がします。

そもそも、日本よりも遥かに納税管理や個人情報の透明化が進んでいる欧州やイギリスでさえ、国民番号に相当するメタデータで個人の学業成績を管理するなどということはしていません。

教育レベルの低下はこれらの国の方が日本より遥かに深刻なのでやったほうが良さそうではあるのですが、やっていないのはそれだけのメリットがないからです。

まず、成績の評価基準は、全国統一試験を除くと、各学校や地域ごとにバラバラだったりします。また他の国は、日本よりも遥かに格差社会なので、学校のカリキュラム自体も、公立と私立ではかなりの違いがあります。

例えば私立の場合は、学校ごとの特色を売りにするので、礼儀作法がもっとも重視されていたり、運動に力を入れていたりと評価基準がバラバラです。公立でも、地方分権や学校自治の観点で、カリキュラムや評価に日本よりも遥かに自由度の高い自主性を認めていたりするので、統一感がありません。

さらに各生徒の成績の全国との比較は、すでに実施されている全国統一試験(各国にあります)で大体見ることができるので、教員の主観的な評価が主な成績評価を閲覧しても、国として特にメリットがありません。

このように評価基準もアウトプットもバラバラなわけで、入力する手間暇やシステム調整のコストが莫大になるのは想像するまでもありません。また、基準がバラバラなので、閲覧のメリットもありません。そもそも全国統一試験の結果があるので、学校独自の評価にはあまり意味がないわけです。

紐付けの手間暇がメリットを上回らないないのであれば、実施の意味がありません。

これはDXの実は最も重要なポイントで、単にデジタル化するということではなく、その組織がデジタル化によって競争力や効率を上げて付加価値を高めるべきなのです。DXによってもたらされる付加価値が投資を上回らないのであれば、やる意味がありません。

今回の施策は、他のデータのマイナンバーの紐付けの前置きという感じなのかも知れませんが、それならまず医療に関するデータを優先すべきだと思います。なぜそうならないのかは謎ですね。他の国だと、まず優先されるのは医療と納税ですが、なぜか日本はこの辺のデジタル化がボロボロです。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。