【島薗進氏による私塾】死にゆく人と愛の関係を再構築する技術 第2回:グリーフケアの集いと物語アート 2021年6月18日開催
2021.05.24
Updated by Susumu Shimazono on May 24, 2021, 19:46 pm JST
2021.05.24
Updated by Susumu Shimazono on May 24, 2021, 19:46 pm JST
2021年6月18日(金)、グリーフケア研究所所長である島薗進氏のオンライン私塾の第2回をオンラインにて開催します。
第2回の題材は「グリーフケアの集いと物語アート」。ゲストに「ミシュカの森」主宰、上智大学グリーフケア研究所非常勤講師で世田谷区グリーフサポート検討委員の入江杏さんをお迎えし、集いや物語が悲しみと向き合うため、また心の傷を癒やすためにどのようにはたらいてきたのかを考えます。
トークの後には、交流会を開催。島薗進氏やゲストの入江杏氏に聞いてみたいことを直接お話しいただけます。また、塾生同士の会話・交流も推奨しています。グリーフケアについてより深く学びたいと考える方にはまたとない機会となることでしょう。
聞き手は医療・科学ライターの小島あゆみ氏が担当。医療現場を取材するなかで培った知見を基にグリーフケアを学ぶお手伝いをします。
第1回にご参加いただけなかった方にも有意義な内容にしていきますので、奮ってご参加ください。
小林一茶(1763-1828)は娘の死を嘆く気持ちを俳文物語『おらが春』にまとめた。生後1年ほどで亡くなった長女さとを疱瘡で喪う哀切な経験を信州の村に起こった出来事の物語としてまとめたものだ。さとの死を描いたすぐ後に掲げられた句は次のものだ。
露の世は露の世ながらさりながら
だが、そこには同じ地域の寺の息子の死の逸話や、他の俳人の死んだ子どもをめぐる句も引かれている。
愛子をうしなひて 春の夢気の違はぬがうらめしい 来山
何人かの俳人が子供を失ったときに作った句をあげて、悲しみの声を響き合わせているようである。
このような「悲しみの響き合い」の響き合いは、宗教的な儀礼においてもたらされることが多かった。だが現代のグリーフケアにおいて、それは集いや物語アートという形で具現することが多くなっている。
20世紀の最後の四半世紀以来、小説や映画、絵本やアニメ、そしてカフェや集いにおいて、悲嘆をともにしながらいのちの恵みを思い起こす機会が増えている。余命がいくばくもないことを覚悟した母親が5歳の娘と夫との生活を綴った『はなちゃんのみそ汁』(2012年)はやがて映画となり(2015年)、絵本にもなった(2017年)。
事故・事件の被害を通して、そのような場が開かれていくことも少なくない。2000年に起こった世田谷の一家4人殺害事件は、グリーフケアの意義を学ぶ気運を高めることになった。被害者女性の姉で隣家に暮らしていた入江杏さんの著述や「ミシュカの森」という名の集いは、悲嘆をともにすることの力を人々に知らしめている。
現代日本のグリーフケアの集いの始まりとも言ってよいのは、1985年の日航ジャンボ機事故の墜落事故の遺族による「8.12連絡会」である。この会の運営に力を尽くしてきた美谷島邦子さんは、遺体の見つからぬ墜落の地である御巣鷹山に何度も登り、そこで当時9歳だった息子と出会うという経験を繰り返す。そして、その経験は『けんちゃんともみの木』(2020年)という絵本で語られた。
現代のグリーフケアと「集い」と「物語アート」に深い関わりがある。そのことについて考えていきたい。
「世田谷事件遺族」という一事に収束されるアイデンティティを望むわけではありませんが、事件によって妹一家を喪ったことは、私の人生にとり、あまりにも大きな出来事でした。私が、その悲しみに向き合うことができたとすれば、「物語」と「アート」の力動を借りてのことだったかもしれません。
「人は自らの経験に物語を通じて意味を与える」という臨床心理の方法論を、「ナラティブ・アプローチ」と呼びますが、「グリーフケア」は、そのナラティブ・アプローチに導かれた「亡き人との出逢い直し」でもあるでしょう。喪われた日々、先に逝ってしまった人たちの物語をひたすら、ありのままに語り直してみると、自分の悲しみや苦しみよりも、一生懸命生きた人たちの生命の美しい物語が、ただただ鮮やかに私の胸によみがえってきたのです。悲しみの物語は、図らずも希望の物語となって、私を支えてくれました。
自分の悲しみにとどまらず、悲しみの水脈の広がりに気づかされる瞬間の訪れ。自分の悲しみだけでなく、人が苦しむ姿に寄り添い、耳を傾ける。自分のことだけに関心を抱くだけでなく、他者の悲しみの物語に思いを馳せる。その時、悲しみは生きる力に向かっていったように思います。喪失の物語から希望の物語へ。「物語」が「言語」によるグリーフケアの核となるなら、「アート」は「非言語」によるグリーフケアを支えてくれました。アートを通して、森羅万象の美しさに再び目ざめ、悲しみの檻からの解放されたように思います。
「悲しみから目をそむけようとする社会は、実は生きることを大切にしていない社会なのではないか」この問いかけから営まれてきた「ミシュカの森」の歩みにも触れながら、悲しみから学ぶグリーフケアと私との関りについて少しだけお時間を頂戴します。
19:00 島薗氏によるトーク
19:50 入江氏によるトーク
20:30 休憩
20:40 ダイアログ
21:00 質疑応答
21:30 交流会
※プログラムの内容・順番・時間などは予告なく変更となる可能性がありますのでご了承ください。
島薗 進(しまぞの・すすむ)
1948年東京都生まれ。東京大学文学部宗教学科卒業。同大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学名誉教授。上智大学グリーフケア研究所所長。おもな研究領域は、近代日本宗教史、宗教理論、死生学。『宗教学の名著30』(筑摩書房)、『宗教ってなんだろう?』(平凡社)、『ともに悲嘆を生きる』(朝日選書)、『日本仏教の社会倫理』(岩波書店)など著書多数。
入江 杏(いりえ・あん)
東京都生まれ。国際基督教大学卒。「ミシュカの森」主宰。上智大学グリーフケア研究所非常勤講師、世田谷区グリーフサポート検討委員。犯罪被害の悲しみ・苦しみと向き合い、葛藤の中で「生き直し」をした体験から、「悲しみを生きる力に」をテーマとして、行政・学校・企業などで講演・勉強会を開催。「ミシュカの森」の活動を核に、悲しみの発信から再生を模索する人たちのネットワークづくりに努める。著書に『悲しみを生きる力に~被害者遺族からあなたへ』(岩波ジュニア新書)、絵本『ずっとつながってるよ こぐまのミシュカのおはなし』(くもん出版)ほか。2020年11月、編著『悲しみとともにどう生きるか』(集英社新書)を発表。
開催日時:2021年6月18日(金)19時~
参加費用:4500円(交流会込み)
場 所 :Zoomミーティングを利用したオンラインイベントです。
お申込み:Peatixよりお申し込みください。
http://ptix.at/KvhgGv
主 催 :WirelessWireNews編集部(スタイル株式会社)
おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)
登録はこちら1948年東京都生まれ。東京大学文学部宗教学科卒業。同大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学名誉教授。上智大学グリーフケア研究所所長。おもな研究領域は、近代日本宗教史、宗教理論、死生学。『宗教学の名著30』(筑摩書房)、『宗教ってなんだろう?』(平凡社)、『ともに悲嘆を生きる』(朝日選書)、『日本仏教の社会倫理』(岩波書店)など著書多数。