WirelessWire News Philosophy of Safety and Security

by Category

北欧 環境 人 イメージ

液冷基地局やAI制御で消費電力削減――温室効果ガス削減に対するノキアの取り組み

2021.09.01

Updated by Naohisa Iwamoto on September 1, 2021, 14:30 pm JST

ノキアソリューションズ&ネットワークスCTOの柳橋達也氏
ノキアソリューションズ&ネットワークスCTOの柳橋達也氏

通信事業者を取り巻く環境は変化を続けている。その1つが、クリーンテクノロジーへの取り組みの必要性だろう。温室効果ガスの排出に対して、国内、海外を問わず通信事業者は排出削減目標を掲げている。それでは温室効果ガスの排出削減を実現し、企業としてのサステナビリティを維持する具体的な方策はあるか。ノキアソリューションズ&ネットワークスでCTOを務める柳橋達也氏に、ノキアおよび通信事業者の取り組みの状況を説明してもらった。

――ノキアのカーボンニュートラルへの基本的な考え方を教えて下さい。

柳橋氏:世界のGDPが増えて経済が発展していくと、一般的に温室効果ガスの排出が比例して増えていきます。GDPの1%の増加が温室効果ガス排出の0.5%増加に寄与してしまうとも言われています。通信事業者、特にモバイルトラフィックの成長も、GDPの成長とほぼリニアな関係があります。すなわち、通信事業者のビジネスの成長は温室効果ガスの排出増加と相関関係があることになります。

しかし、このまま手をこまねいているわけにはいきません。5Gが登場したことは、モバイルトラフィックと温室効果ガスの相関関係を切り離す新しいテクノロジーの発達の契機になると考えています。

――温室効果ガスの削減に取り組む必要性を感じる市場環境の変化は。

柳橋氏:投資家にとって、通信事業者が温室効果ガスの削減を実現することはステークホルダーとして無視できない条件になってきています。携帯事業者は、投資家や株主からプレッシャーを受けるようになってきていて、ステークホルダーに対する姿勢としてクリーンテクノロジーへの取り組みの必要性が高まってきたことが大きな変化でしょう。

モバイルネットワークの割合は小さいが、第一歩が必要

――携帯事業者が提供するモバイルネットワークを考えたとき、温室効果ガスの排出に影響を与えているのはどのセグメントでしょうか。

柳橋氏:ノキアの調査からお伝えします。圧倒的に大きくほぼ半数を占めるのが端末の影響です。バッテリーが減れば充電しますが、その台数は世界中でものすごい量ですから、発電所による温室効果ガス排出に大きな影響を与えます。次いでデータセンター、固定ネットワークの順で、携帯事業者ならではのモバイルネットワークは全体の11%を占める程度です。内訳としては少ないですが、ノキアが温室効果ガスの削減にまず取り組む対象として、モバイルネットワークに目標を定めました。

モバイルネットワークの温室効果ガス排出状況

――ノキアのお膝元のフィンランドでは、どのような取り組みが進んでいますか。

柳橋氏:フィンランドは気候変動への取り組みにも先進的な国です。ICTのセグメントに対して直接的な努力目標を世界に先駆けて発表しています。そうした中で、フィンランドの3キャリアはすでに5Gの基地局のゼロカーボンを実現しています。5Gの基地局限定という範囲ですが、努力目標を達成するだけの取り組みを進めているのです。

――ノキアとしてのカーボンニュートラルへの取り組みの目標は。

柳橋氏:ノキアでは、企業活動のどの部分が温室効果ガスの排出に寄与してしまっているかを調査しました。すると、販売した製品がお客様の環境で使われることによる影響が全体の90%を占めていました。もちろん社内で出張を削減することでも効果は得られますが、圧倒的な割合を占める製品利用の低消費電力化が、最も効果的な取り組みになることがわかりました。

ノキアでは、2030年までに、2019年比で温室効果ガス排出量を50%削減する目標を立てています。ノキアは通事業者に対して幅広い製品を提供しています。端末、固定アクセス、固定トランスポート、無線アクセスなどです、それらの全体で50%削減を目指す方向です。それも、ハードウエアやソフトウエアの効率化、技術のイノベーション、上位レイヤーからの俯瞰的なネットワークの最適化など、小さな貢献を積み上げていくことで努力目標を達成しようと考えています。

基地局の装置の冷却効率を高めるLiquid Cooling

--温室効果ガス削減に向けたノキアのソリューションは。

柳橋氏:携帯ネットワークを構成する装置は、3G、4G、5Gと複数の世代のサービスを提供する事業者では、世代に伴い増えていってしまいます。ノキアはこれまでに、単一のハードウエアで複数の世代の機能を提供できる装置を提供してきましたし、1つのソフトウエアモジュールで複数世代に対応できるような取り組みもしてきました。機器を増加させないことは、消費電力を増やさないための根本的な解決策だからです。

そうした上で、温室効果ガス削減への取り組みとしては、「Nokia Liquid Cooling」と呼ぶ基地局装置の冷却ソリューションを提供しています。一般的に基地局の装置はエアコンで冷やした空気で間接的に冷却しています。しかし、これは冷却効率の面からはベストな解ではありません。Liquid Coolingは、液体の媒体を基地局の中に通して排熱処理をするソリューションです。空冷よりも直接冷やせる液冷のほうが冷却効率も高く、劇的な効率向上が見込めます。液冷の媒体を通すための改修は必要ですが、既存の基地局装置も流用でき、効果を考えると負担は大きくないと考えています。

Nokia Liquid Cooling

もう1つが基地局のソフトウエア面での対応です。例えば、通信するデータの状況を判断しながら電波をオン/オフしたりマッシブMIMOのアレイを一部ミュートしたりする機能もありますし、複数のレイヤーで無線を使っているときに特定のセルをシャットダウンする機能もあります。ソフトウエアで低消費電力化に貢献するソリューションです。

さらに、AIやマシンラーニング(機械学習)を使った低消費電力化のソリューションも提供しています。iCES(Intelligent Cognitive Expert Services)と名付けたソリューションです。基地局がどういう使われ方をしているかをログの情報を基にAIが状況を判定して、基地局の動きを低消費電力化に向けて制御するものです。夜間に特定の周波数を停波するといった場合でも、基地局固有の環境や利用者の状況などを判断しながら、適切な制御を行えます。単体の基地局だけでなく、複数の基地局をまたいだ低消費電力化に対しても、基地局から見ると外部にあるAIのインテリジェンスが適切なシナリオを決めてアクションを起こすことができます。iCESの特徴としては、ノキアの基地局だけではなく他社の基地局に対しても情報の収集と制御ができれば、シナリオを実行できることです。

iCESの動き

国内ではKDDIと実証実験を開始

――紹介があったソリューションは実際に通信事業者ですでに使われているのでしょうか。

柳橋氏:フィンランドでは、携帯事業者のElisaがLiquid Coolingを2018年から商用ネットワークの2G/3G/4G基地局に導入しています。ここでは基地局サイトの電力コストを33%削減したほか、基地局からの温室効果ガスの排出を87%削減するといった効果が具体的に現れています。Elisaでは5G基地局の液冷化も2020年5月に実施しています。

国内では、KDDIとカーボンニュートラルに向けた取り組みを始めています。KDDIとノキア ソリューションズ&ネットワークスが共同で実施するもので、商用基地局での取り組みとしては国内初となります。具体的なソリューションとしては、Liquid CoolingとiCESによる基地局AI制御を行います。Liquid Coolingでは基地局の電力使用量をエアコンに対して70%以上削減することを、AI制御では基地局の電力使用量の最大50%の削減を目標としています。

――こうした取り組みは、今後国内外でさらに広がっていくと考えますか。

柳橋氏:取り巻く環境が5年前、10年前から変化しています。通信事業者が社会的責任を果たすために、温室効果ガス削減は実際に取り組まないといけない課題になっているのです。KDDIの実証実験については2021年6月に発表したところ、想像を大きく上回る反響がありました。海外の記事として約200件の掲載があったこと、国内の通信事業者や機器ベンダーなどからの問い合わせがあったことだけでなく、海外の通信事業者からも日本のノキアに直接問い合わせが来るような状況からも反響の大きさがわかります。世界で大きく注目される取り組みだということを改めて実感しましたし、エコ、サステナビリティ、省エネといった取り組みはそれだけ重要なものになっているのです。

【関連情報】
KDDIとノキア、日本初となるAI制御で最大50%の基地局電力使用量を削減する実証試験に合意

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。