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人通りが戻り始めた展示会 リモートワークで変化する役割と地方創生

2022.06.22

Updated by Ryo Shimizu on June 22, 2022, 13:42 pm JST

久しぶりに純粋に観客として、東京ビックサイトの展示会を訪れた。
今日はものづくり系の展示が多かった。

地方自治体がブースを出展し、地方を拠点とする小さな会社が細分化されたブースを出す例が多く、自治体の役割としては地場産業の振興であり、当の地方企業にとっては安く認知を得る手段でもあるようだった。

確かに、ものづくり系のイベントの場合は、作られた「もの」を見るのが一番効率がいい。
しかし、ものづくりが専門でない筆者にとっては、どれも同じような「もの」に見えてしまい、途方に暮れてしまった。

ただ、しばらく会場を歩き回っているうちに、どことなく「何を見るべきか」という勘が身についてきた。

どれもおなじ「もの」に見える、というのは、当の出展者が百も承知である。
だから、どのブースも、目を引く大きな文字で、「うちは切削が得意」とか「ガラス加工が得意」などの「ウリ」がハッキリと打ち出されている。

なかには「世界初」とか「業界初」みたいなわかりやすい売りも多く、そういうところは何を打ち出したいかが明確だと感じる。
次にみるべきポイントは、説明をしている人である。

説明をしてる人はアルバイトか、社員か、社員なら、どこまで内容を理解しているか。
あるブースでは、ブースは立派だったが、女性にパンフレットを渡されておしまい、ということも多かった。

少し詳しい話を聞きたかったり、細かい技術上の差異を知りたかったりしても、説明できないということも少なくない。
これはブースの大小にあまり関係ない。

これは小さな会社であればあるほど、その会社がどんな会社なのかを雄弁に語ってくれる。
熱心な説明をする社員がいる会社は、業種に関係なく興味を惹かれることが多かった。

こういう展示会の役割の一つは、企業と企業の出会いの提供で、筆者も以前、展示会に出展している最中に他のブースの説明員と意気投合し、一緒に仕事をすることになったことが何度かある。

この時大事なのは、商品を直接売り込むというよりも、「いかに自分を知ってもらうか」ということで、これを筆者は「情報は発信するところに集まる法則」と呼んでいる。

自分のことを知ってもらうことで、自分に興味をもってくれた人を呼び寄せることができる。
情報を適切に開示することで、さらに新しい情報を集めることができる。

展示会においては、他の展示ブースの参加者にいかに自分を知ってもらうか、ということが実は非常に大切なのだ。

反対に、抽象的なものであればあるほど知ってもらうのは難しくなる。
具体的な「もの」は見ればわかる、さわればわかる、ということも少なくないが、実は「みてもらう」「さわってもらう」までがとても難しい。

高額な出展費を賄うほどの成果を、直接ここで得ることは難しいだろう。
しかし、筆者の場合、隣のブースに出展していた社長と仲良くなって仕事を頼んだり、その会社が後に東証一部上場企業になったり、これをきっかけに他社から自社に転職するきっかけになったり、いろいろな人脈を作る場だった。

他のブースで面白いものを見つけた時に、「うちのブースがあっちにあるので会期中に遊びに来てください」と言えるかどうかはけっこう重要だ。
ただ名刺交換するよりも遥かに簡単に仲良くなれる。

ある種、相手にとっての「安心材料」であり、「おなじ出展者」という仲間意識も芽生える。

こんなふうにして出会った人はかなりの数に登る。

このように展示会にはメリットも多いのだが、産業が成熟期に入ったり会社が成長軌道にのると業界向けの展示会に出るのは却って効率が悪くなる場合もある。

自社で何をやっているのか、他の人に知ってもらうことにメリットとデメリットの両方が生じる可能性があるからだ。
それは自社の秘密を少しでも知られてしまうことと、自社のクライアントの秘密も漏れてしまう可能性がある。

そういう意味ではソフトウェア産業が展示会からどんどん遠のいていくのも、産業が成熟すれば必然的に起きることだと思えてくる。
また、ソフトウェア産業はもはやほとんどの仕事がリモートで完結してしまうので、都心から千葉や埼玉などの郊外へ住居兼仕事場を移す人が増えたと感じる。

この状況では、展示会までわざわざ足を運ぼうというモチベーションはますます減ってしまう。

IT企業の中には、ほとんど稼働していないオフィスに見切りをつけ、コワーキングスペースに本社を移転してしまうという大胆な判断をするところも現れてきた。

これまで、リモートワークのみの会社というのはかなり珍しかったが、これからは起業の形態として定着していく可能性は高いだろう。
まず、リモートワークにすれば起業のコストを抑えられるし、リモートワーカーの生活コストも抑えられる。リモートワーカーが郊外や地方に住んでいる人ならば、もともと生活コストは安いし、郊外や地方で仕事を探すよりも都心の会社のリモートワークをした方が高い賃金を得ることができるWin-Winの関係を構築することができる。

NTTなどの大企業もリモートワークに一気に舵を切り、大手企業も恒久的なリモートワークを採用し始めた。
メルカリやYahoo!Japanなどのメガベンチャーもリモートワークに対応したワークスタイルを積極的に採用しはじめてきたことを考えると、これまでのような展示会はもはや業界の出会いの場ではなくなりつつある。

そもそも、「見て」「さわる」商品であっても、「いかないとわからない」ということはよほどではないか。
たとえば、今日はものづくり系の展示会にいったが、なにか「ものをつくろう」と思った時に展示会でたまたま知り合った工場に頼むよりは、知り合いでその手のことに詳しいひとに話を聞く方が先だろう。

筆者がかつてハードウェアを開発したときは、まさに香港の展示会に行って、無限にも思えるブースを巡りながら、どうにか気の合いそうな工場を探したのだが、今はもうこんなことはできない。あれは一種の「自作ハードウェアバブル」が来ていたからできたわけで、今はそれよりはネットで探すか、伝手を頼る方が遥かに効率がいい。

結局、これも「展示会で説明する人がどれだけその会社の製品に情熱を持っているか」がその会社の評価に直接影響するかと同じく、いまどき「ネット上だけでどれだけちゃんと営業ができているか、回っているか」ということも、その会社なり工場なりの質や考え方に直結していると言っていいからだ。

仮に展示されている「もの」が素晴らしくても、今時の製品は「もの」だけで成り立っているわけではない。
どれだけ自動化されようが、AIが入ってこようが、結局は、その「もの」を取り巻く「ヒト」がどんな人物なのかによってビジネスの成否は決まることになる。

言葉にしてしまえば、これは実にすごく当たり前のことなのだが、今回、新鮮な目で展示会を回ってみて、改めて気付かされた。

もちろん展示会でなければできない価値や役割もあると思うのだが、これからは地方の製造業であっても、ネットくらい使いこなせないといよいよ国際的な競争に打ち勝っていけなくなるだろう。

地方創生というのは、自治体が地元の企業を甘やかすことだけを意味しない。
むしろ近視眼的になりがちな地方企業に全国展開やグローバル化を意識させ、適切なプロモーションを行なっていくように指導する方が、単純に「東京の展示会にでるぜ」ということよりも遥かに重要ではないかと思う。

この「プロモーション」というのは、いわゆる「バズる」ということ以前の問題で、「ネット上で買えるか」「ネット上での商談に対応してるか」といった会社の仕組み的なものである。

今はネット商談に対する意識も二年前とは随分変化しているし、むしろ「どうしても顔をつきあわせて話がしたい」というケースは、古い金融機関などかなり限られてきている。

食べ物やエンターテインメントのように、現地にいかないとどうしようもないものも当然あるが、少なくともどんな商売でも商談の半分くらいはネットで済ませることができるはずだ。

なにかもっと展示会に出る以外にできることがあるように思えた。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。

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