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ウェブが探索的思考のための装置になり得ない理由 「ウメサオの霧箱」を3D空間で展開してみよう

ウェブが探索的思考のための装置になり得ない理由 「ウメサオの霧箱」を3D空間で展開してみよう

Technology for Converting from Search to Idea

2022.06.24

Updated by Schrodinger on June 24, 2022, 15:55 pm JST

情報の整理と活用、ということでインターネット第一世代の私が真っ先に思い浮かべるのは、メメックス(Memex)でしょうか。これはヴァネヴァー・ブッシュ(Vannevar Bush)が1945年に発表したハイパーテキストの概念です(ただし、単なる概念に過ぎません)。これがテッド・ネルソン(Theodor Nelson)のザナドゥ計画 (Project Xanadu) に引き継がれたかと思いきや、1989年に発表された欧州原子核研究機構(CERN)のティム・バーナーズ=リー(Tim Berners-Lee)による「World Wide Web」がこのハイパーテキスト計画をさっさと実装してしまい、これが現在のインターネット空間になっています。

この間、情報量が爆発的に急増し、様々な体系化の試みが浮かんでは消えてきたわけですが、極めてシンプルなアルゴリズムを実装したGoogleという検索エンジンが、体系化を放棄した魑魅魍魎化したハイパーテキストの世界で唯一ともいえる「情報の整理と活用のツール」になってしまいました。

しかし、これが発想支援ツールになり得ない最大の理由は、知識(=ウェブページ)同士の関係性が静的(static)にしか記述できない、ということに起因します。ハイパーテキストの最大の特徴と最大の弱点がここにあります。私たちは、朝から晩まで「クリック」を繰り返すのが普通になっていますが、自分をメタ認知してみると「俺、何やってんだろ?」と不思議に感じるはずです。早い話、ウェブページのクリックを繰り返していてもあまりアタマが良くなる感じがしないのです。

さて、『知的生産の技術』で有名な梅棹忠夫(1920-2010)は、浮かんでは消えてしまう様々な情報を自分の発想や思想の素材とするためには「ウイルソンの霧箱(cloud chamber:蒸気が気体から液体になる瞬間を捉え、宇宙線を観察しようとする試み)」のような装置が必要だ、と主張しました。

高校生の頃、この梅棹の発想に出会った高野先生は、それ以来、ヒラメキを生み、思考を深めるであろう「ウメサオの霧箱」という情報環境はどう実現されるかを考えるのが基本方針になったのだそうです。膨大な量のハイパーテキストに実装されたリンクのクリックを繰り返す行為とは、本質的に異なる情報環境です。

そしてついに高野先生は、企画展「梅棹忠夫生誕100年記念・知的生産のフロンティア」で、私たちが見たこともないデジタルアーカイブの新しいインタフェースとして「梅棹忠夫アーカイブズ・クルーズ」を作ったのでした。

冒頭の写真は、このシステムのスクリーンショットですが、球やトーラスの形に配置された梅棹忠夫の資料群を3D空間で自在に操作しながら、資料の選択や並び替えによって新たな関係性を探ることができるシステムです(開発は阿辺川 武氏)。

企画展での限定公開であったことと企画展自体が終了してしまったので、改めて29日の「シュレディンガーの水曜日」をこの梅棹忠夫アーカイブズ・クルーズをみなさんに体感していただきながら、日本の(デジタルも含む)アーカイブズの将来がどのようなものになっていくのかを妄想する夜にしたいと思います。公文書(archives)を簡単に廃棄してしまう癖が抜けない政府が統治する日本という国における自律分散型アーカイブズの在り方などについても語っていただけると予想しています(というよりも、語ってくれとお願いしています)。(竹田)

募集要項
6月29日(水曜日)19:30開始
ウェブが探索的思考のための装置になり得ない理由

高野明彦(たかの・あきひこ)国立情報学研究所・特任教授高野明彦(たかの・あきひこ)国立情報学研究所・特任教授
1980年東京大学理学部数学科卒。博士(理学)。日立製作所・基礎研究所での勤務を経て2001年より国立情報学研究所教授。2002年より東京大学大学院コンピュータ科学専攻教授併任。NPO連想出版理事長。WebcatPlus、新書マップ、想・IMAGINE Book Search、文化遺産オンライン、TIMEMAPなど様々なデジタルアーカイブズサービスを展開。千代田区立図書館をはじめとして、数多くの図書館におけるデジタルライブラリ構築にも関わっている。

・日程:2022年6月29日(水曜)19:30から45分間が講義、その後参加自由の雑談になります。
・Zoomを利用したオンラインイベントです。申し込みいただいた方にURLをお送りします。
・参加費:無料
・お申し込み:こちらのPeatixのページからお申し込みください。


「シュレディンガーの水曜日」は、毎週水曜日19時半に開講するサイエンスカフェです。毎週、国内最高レベルの研究者に最先端の知見をご披露いただきます。下記の4人のレギュラーコメンテータが運営しています。

原正彦(メインキャスター、MC):東京工業大学・物質理工学院応用科学系 教授原正彦(メインコメンテータ、MC):東京工業大学・物質理工学院・応用化学系 教授
1980年東京工業大学・有機材料工学科卒業、1983年修士修了、1988年工学博士。1981年から82年まで英国・マンチェスター大学・物理学科に留学。1985年4月から理化学研究所の高分子化学研究室・研究員。分子素子、エキゾチックナノ材料、局所時空間機能、創発機能(後に揺律機能)などの研究チームを主管、さらに理研-HYU連携研究センター長(韓国ソウル)、連携研究部門長を歴任。現在は東京工業大学教授、地球生命研究所(ELSI)化学進化ラボユニット兼務、理研客員研究員、国連大学客員教授を務める。

今泉洋(レギュラーコメンテータ):武蔵野美術大学・名誉教授今泉洋(レギュラーコメンテータ):武蔵野美術大学・名誉教授
武蔵野美術大学建築学科卒業後、建築の道を歩まず、雑誌や放送などのメディアビジネスに携わり、'80年代に米国でパーソナルコンピュータとネットワークの黎明期を体験。帰国後、出版社でネットワークサービスの運営などをてがけ、'99年に武蔵野美術大学デザイン情報学科創設とともに教授として着任。現在も新たな表現や創造的コラボレーションを可能にする学習の「場」実現に向け活動中。

増井俊之(レギュラーコメンテータ):慶應義塾大学環境情報学部教授増井俊之(レギュラーコメンテータ):慶應義塾大学環境情報学部教授
東京大学大学院を修了後、富士通、シャープ、ソニーコンピュータサイエンス研究所、産業技術総合研究所、米Appleにて研究職を歴任。2009年より現職。『POBox』や、簡単にスクリーンショットをアップできる『Gyazo』の開発者としても知られる、日本のユーザインターフェース研究の第一人者だがIT業界ではむしろ「気さくな発明おじさん」として有名。近著に『スマホに満足してますか?(ユーザインタフェースの心理学)(光文社新書)など。

竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人
日経BP社でのインターネット事業開発の経験を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。2010年にWirelessWireNewsを創刊。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997〜2003年)、独立行政法人情報処理推進機構・AI社会実装推進委員(2017年)、編著に『ネットコミュニティビジネス入門』(日経BP社)、『モビリティと人の未来 自動運転は人を幸せにするか』(平凡社)、近著に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス/ミシマ社)、など。

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