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関 修平(せき・しゅうへい) 京都大学 工学研究科 分子工学専攻応用反応化学講座 教授

シュレディンガーというよりはディラックだと思いますがね

Paul Dirac, rather than Erwin Schrodinger

2022.07.29

Updated by Schrodinger on July 29, 2022, 14:52 pm JST

エポニム(またはエポニウム:eponym)という言葉があります。新しい発見や発明、スポーツの技、誰もが使う有名な道具などに、それを発見あるいは開発した人物の名前を冠することと考えて良いと思います。

例えば、フィギュアスケートでの「アクセル」や「サルコウ」、体操競技では「トカチェフ」「ツカハラ」「シライ」などが有名ですよね。エポニムは、「友禅」や「ホチキス」など、スポーツに限らずありとあらゆる分野で利用されていて、特に自然科学系では「巨人の肩(Sholders of Giants)」自体がエポニムで形成され、さらにその肩の上に大量の新しいエポニムが積み重なってきた歴史があります。

スポーツでは、その技の難度を上回る技が開発されると古い技は使われなくなり、同時にエポニムも自然消滅してしまうことが多いのですが、自然科学では、例えばニュートン力学は、量子力学研究全盛の現代でもいまだに有効なエポニムです。

ただし、エポニムで危険なのは、当該人物のファーストネームを覚える習慣がなくなることにある、と関先生はおっしゃいます。「信長」が「織田信長」であることを知らない日本人はあまりいないと思いますが、京都大学に入学するような生徒でさえ、「ニュートン」が「アイザック・ニュートン」であることを知らないことが多いのだそうです。フルネームで当該人物を記憶しておくことは、その人物の研究者としての生活まで含めた時代背景、あるいは同時代の人間関係の観察などにつながるので、その法則に対する歴史的理解がより深まるのですね(ちなみに冒頭の写真は、留年覚悟で山登りに夢中になっていた関先生の学生時代のショットです。中央左の青いウインドブレーカーに白いセーターがご本人)。

関先生は、「シュレディンガーの水曜日というタイトルには賛同しかねる。量子科学の発展に貢献したのはシュレディンガーよりはむしろ、ディラック(Paul Dirac)でしょう」と主張します。7月6日に話題提供いただいた東京大学の長谷川先生からも、「シュレディンガーの水曜日ではなくディラックの木曜日にすべき」という冗談だか本気だかわからない提言をいただいたこともあり、「シュレディンガーの水曜日」の先行きに暗雲が立ち込め始めたような気がしますが、アタマの良い面倒な人たちの戯言として軽く受け流すことにして、先に話を進めます。

さて、関先生の目下の関心事は「電子共役概念の変革」です。「有機化学に基づく分子性物質の設計・分子間空隙の制御・凝縮相における熱ゆらぎ抑制により、新しい分子間電子共役を達成しつつ、最先端の機能物性科学的評価手法により、得られた高密度共役物質の優れた電子伝導やスピン輸送、特異な電子相関や局在状態に関わる未踏機能を実現する」ことなのだそうですが、なんだかよくわからないので、詳細は8月3日のシュレディンガーの水曜日でお聞きすることにしましょう(こういう意味不明な研究ほど、本番が実はべらぼうに面白い、というのが今までの「シュレディンガーの水曜日」から得た経験則です)。

ちなみにこの研究を進めるにあたって関先生は、膨大な論文を漁ることになるわけですが「いやー、この人、アタマ良いなあ」と思ったのが、前出のディラック、そして理化学研究所の故・菊池正士氏(長岡半太郎の弟子筋ですね)だそうです。ご参考まで。(竹田)

募集要項
8月3日(水曜日)19:30開始
シュレディンガーというよりはディラックだと思いますがね

関 修平(せき・しゅうへい) 京都大学 工学研究科 分子工学専攻応用反応化学講座 教授関 修平(せき・しゅうへい)
京都大学 工学研究科 分子工学専攻応用反応化学講座 教授

東京大学大学院工学系研究科原子力工学専攻修士課程修了、2007年大阪大学 大学院工学研究科 応用化学専攻 准教授, 2009年同教授、2015年から現職

・日程:2022年8月3日(水曜)19:30から45分間が講義、その後、参加自由の雑談になります。
・Zoomを利用したオンラインイベントです。申し込みいただいた方にURLをお送りします。
・参加費:無料
・お申し込み:こちらのPeatixのページからお申し込みください。


「シュレディンガーの水曜日」は、毎週水曜日19時半に開講するサイエンスカフェです。毎週、国内最高レベルの研究者に最先端の知見をご披露いただきます。下記の4人のレギュラーコメンテータが運営しています。

原正彦(メインキャスター、MC):東京工業大学・物質理工学院応用科学系 教授原正彦(メインコメンテータ、MC):東京工業大学・物質理工学院・応用化学系 教授
1980年東京工業大学・有機材料工学科卒業、1983年修士修了、1988年工学博士。1981年から82年まで英国・マンチェスター大学・物理学科に留学。1985年4月から理化学研究所の高分子化学研究室・研究員。分子素子、エキゾチックナノ材料、局所時空間機能、創発機能(後に揺律機能)などの研究チームを主管、さらに理研-HYU連携研究センター長(韓国ソウル)、連携研究部門長を歴任。現在は東京工業大学教授、地球生命研究所(ELSI)化学進化ラボユニット兼務、理研客員研究員、国連大学客員教授を務める。

今泉洋(レギュラーコメンテータ):武蔵野美術大学・名誉教授今泉洋(レギュラーコメンテータ):武蔵野美術大学・名誉教授
武蔵野美術大学建築学科卒業後、建築の道を歩まず、雑誌や放送などのメディアビジネスに携わり、'80年代に米国でパーソナルコンピュータとネットワークの黎明期を体験。帰国後、出版社でネットワークサービスの運営などをてがけ、'99年に武蔵野美術大学デザイン情報学科創設とともに教授として着任。現在も新たな表現や創造的コラボレーションを可能にする学習の「場」実現に向け活動中。

増井俊之(レギュラーコメンテータ):慶應義塾大学環境情報学部教授増井俊之(レギュラーコメンテータ):慶應義塾大学環境情報学部教授
東京大学大学院を修了後、富士通、シャープ、ソニーコンピュータサイエンス研究所、産業技術総合研究所、米Appleにて研究職を歴任。2009年より現職。『POBox』や、簡単にスクリーンショットをアップできる『Gyazo』の開発者としても知られる、日本のユーザインターフェース研究の第一人者だがIT業界ではむしろ「気さくな発明おじさん」として有名。近著に『スマホに満足してますか?(ユーザインタフェースの心理学)(光文社新書)など。

竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人
日経BP社でのインターネット事業開発の経験を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。2010年にWirelessWireNewsを創刊。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997〜2003年)、独立行政法人情報処理推進機構・AI社会実装推進委員(2017年)、編著に『ネットコミュニティビジネス入門』(日経BP社)、『モビリティと人の未来 自動運転は人を幸せにするか』(平凡社)、近著に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス/ミシマ社)、など。

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