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朽ちる現代アート

2023.01.10

Updated by WirelessWire News編集部 on January 10, 2023, 06:48 am JST

「自然が風雪という名の鑿を加える」

先日拙著『学習の生態学』の文庫版を出版した際に、新たな表紙として使わせていただいたのが砂澤ビッキによる「四つの風」という彫刻作品の写真である。ビッキというのは、アイヌ語で蛙という意味の愛称だが、周りの人に対して「おれをビッキと呼べ」と常に命じていたというので、ここでも敬意を込めてそう呼ぶことにする。

ビッキのこの作品は、札幌芸術の森野外美術館にあるが、表紙に使ったのは、その初期の姿である。現在この作品は風雪の影響で三本が朽ちてしまい、残り一本だけが残っている。こういう事態が生じたのは、生前ビッキが、「(自分の制作後は)自然が風雪という名の鑿を加える」として、自然による変化も造形の一つと言い残したからである。実際、ビッキの生前にキツツキが作品に巣を造り始めたそうだが、彼はそのニュースにとても喜んだという。

私が感銘を受けたのは、その作品の魅力に加え、彼の思想そのものである。実際どんな作品も自然の鑿、もっといえば熱力学の第二法則(エントロピー)の影響を受ける。すべての作品は劣化し、放っておけばいずれ朽ち果てる。他方、人間にはそれをくい止め、自己維持を計る(スピノザ(B.Spinoza)風にいえば「コナトゥス」)という営為もある。

それがアート作品ともなればなおさらである。実際に関係者の間では、崩壊が進む「四つの風」に対して、これ以上の倒壊は防ぐべきだという声も上がったという。しかし激論の末、ビッキの遺志を尊重して、「四つの風」は自然の鑿に任せることになった。ある意味、変化の過程そのものもこの作品の核だからである。

特定技術に依存する作品に代替技術を使用できるのか

アート作品がこうした時間的過程の中にあるという認識は、戦後日本の前衛芸術の一派「時間派」による、アートが作品と観客の時間的関係性の中にあるという考えや、スパイラル・ゲッティのようなランドアートで有名なスミッソン(R.Smithson)による、エントロピー理論のアートへの応用など枚挙に暇がない。だがここで特に関心があるのは、以前「テクノロジーの補修論的転回」というタイトルで論じた、保存・補修問題という観点からみたアート論である。

アートという言葉が元来技や技術という意味があるという点(それゆえ美術と訳される)から言えば、補修論的視点はそのままアート作品にも当てはまるように見える。実際作品の補修や保存は、アート業界のインフラ維持的活動として、社会的重要性をもつ。他方、そこにはこの業界固有の性質もある。「四つの風」の保存をめぐる激論はその氷山の一角であるが、同様の問題は、いろいろな所で顔をのぞかせている。

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
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