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現代の「キャリバン」たちへ

2023.02.02

Updated by WirelessWire News編集部 on February 2, 2023, 07:21 am JST

未来のための再読ノート

2019年に逝去した作家の橋本治は共著も含めると200を超える著書を残した。だがその多くは現在、絶版あるいは入手困難である。没後、一部に復刊・再刊の動きもあるとはいえ、その膨大な著作の全体像を見渡すことは、書店に並ぶ本からだけでは不可能だ。本連載はそうした橋本の旧著を再読し、その思想をあらためて描き出そうとするものである。

橋本は生前、古今東西の多くの古典(『古事記』や『源氏物語』から『ハムレット』まで)に対して現代語訳や大胆な翻案を行ったが、橋本自身の著作もいまや「古典」と呼ばれるべき風格を供えている。再読、三読に絶えうるというだけでなく、読み返すたびに今日的な意味を投げかけてくれるのだ。

私自身が橋本治の読者になったのは十代の終わり、1980年代初めのことだ。だから、かつてリアルタイムで読んだ本のなかには、充分に理解が及ばなかったものもある。これから再読する本のなかには、十年どころか数十年ぶりに読むものもあるが、そのような旧著からも多くのことが引き出せるはずだ。なぜなら橋本治が終生一貫して主張し続けたことの多くが、日本の社会ではまだ少しも実現していないからだ。したがってこの再読ノートは回顧的なものではない。むしろ未来を志向するものだ。そのようにお断りしてから連載を始めたいと思う。

活字こそがあらゆる文化の中心

最初に取り上げるのは『浮上せよと活字は言う』という論集である。1993年に総合雑誌『中央公論』で連載が始まり、翌年に単行本化された。その後増補され、平凡社ライブラリーの一冊として刊行されたが、いま店頭で見かけることはほとんどなくなった。しかしすべての出版関係者、そして言葉を表現手段とする者にとってこれは必読の書である。

『中央公論』でこの連載が行なわれた1993年は、いわゆる「バブル経済」の崩壊直後であった。当時の中央公論社会長だった嶋中鵬二から直々に、同誌の「巻頭論文を書いてほしい」と依頼された橋本が、「衰退する活字文化」をテーマに一年にわたり論じたものだ。したがって本書の内容は基本的に書物論、出版論である

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
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