photo by 佐藤秀明
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子供たちの遊びと繋げてみると
日本の建築・都市の文化的な基層である「ものづくり人」の世界が急激にすり減ってきている。ものづくり自体は面白くて好きだという人が少なくないはずなのだから、もっと色々な人が気楽に出入りできる世界になれば、日本の建築・都市の文化的な基層は未来に繋げられるその厚みを保ち続けられるだろう。それが、本稿における筆者の基本的な考えだ。
前2回は、まだまだ珍しい女性大工の方々の話に耳を傾けた。今回は、伝統的な建築職人という点では大工と同じだが、全く異なる技能が求められる「左官職」を取り上げる。
大工にせよ左官にせよ千年以上も前から成立しているものづくり人であり、当然のことのように自然素材を主たる相手としてきた。だから、子供の遊びの中に、そこに通ずるものを発見することも容易だ。大工は主に木を扱う。子供の遊びで言えば、積み木遊びや、その辺で拾ってきた草木を集めて秘密基地をつくる遊びの延長線上に大工技能を位置付けることができる。
これに対して、左官は土を扱う。粘土をこねて好きなものをつくる遊びや、土や砂に水を混ぜて器らしきものをつくる遊びや、そもそも泥んこ遊びの延長線上に位置付けられると言って良いだろう。
今回も、女性のものづくり人の話を伺うという点では前回、前々回と同じなのだが、興味深いことに、木と土の違いがくっきりと浮かび上がるダイアローグとなった。
元外務省職員からアメリカ籍まで。個性豊かな5名の左官職人
今回は左官に詳しい編集者の多田君枝さんにお願いして、東京周辺と京都周辺で活動する経験年数5~10年の女性左官職5名に、オンラインではあったが、一堂に会してもらった。先ず、5名の方の経歴を紹介しておこう。なお、今回のグループ・インタビューも前回、前々回と同様に、科学研究費基盤研究(B)「建築現場を担う人材の多様なあり方に関する研究」(課題番号20H02326)の一環として2021年に行った。また、本稿での彼女たちの名前は仮名である。
一人目はキミさん。左官としての経験年数は10年で、今は東京の左官店に属しているが、社員としてではなく一人親方として活躍している。農業系の大学を卒業したキミさんは、当時は造園に興味があり、富山職藝学院で日本庭園を学んだ。
その在学中に能登半島沖地震が発生し、震災ボランティアとして石川県輪島市に赴き、土蔵の解体修復現場に配属されたことで、左官職の存在とその仕事を知ることになった。職藝学院卒業後は、輪島で出会った滋賀県の左官職の下で約10年間修業。その間に結婚し、妊娠を機に退職。二人目の出産後に半年間地元の左官店で働き、今は東京の左官店に外注職人(一人親方)として入っている。
※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
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