WirelessWire News Technology to implement the future

by Category

真の科学者へと駆り立てるのは神秘の感覚である

2023.05.02

Updated by WirelessWire News編集部 on May 2, 2023, 06:33 am JST

「選択と集中」は悪か?

前にも述べたように「選択して集中する」という手法は常に正しいわけではない。それが有効に働く場合、つまり選択が賢明であり、しかもその選択したものに集中的にリソースを注ぎ込むことができた場合にのみそれは正しかったといえるのであって、それは結果が出てみないとわからない。

ここから先は私の持論だが、選択と集中は全面的に間違っているわけではない。今述べたように、成功する例もあるからだ。ただ、選択する選択肢が十分な考慮のもとに並べられているかということと、それから「the way not taken」で、本当に他に選択肢がないのかと疑いを常に持つこと、その姿勢は重要である。それがあれば当然、あるものを選び取ってそれに集中することにためらいが生じる。そのようなためらいをリーダーが持つことは一般的には非難されることが多い。しかし「ネガティヴ・ケイパビリティ」という言葉を用いて考えると、そのためらいは全く悪いことではない。

ネガティヴ・ケイパビリティとは元はイギリスの詩人であるジョン・キーツが著した概念で、私はこれを作家の帚木蓬生氏に学んだわけだが、「何かことを決めるときにはためらいなさい。ためらう勇気を持ちなさい。そういう勇気を持つ能力をネガティヴ・ケイパビリティだ」ということになろうか。

帚木氏は作家と同時に精神科医であり、その診療においてもネガティヴ・ケイパビリティは重要だと説く。病院にやってくる患者がいれば、通常医師は「これはうつ病だ」「これは統合失調症だ」と診断をくだし、症状をすぐに病気の名前でくくりたがる。くくりたがるというか、くくらないと治療ができない、薬出すこともできないのが医療の現状なのかもしれない。しかし身体の病気よりも遥かに精神の問題は多様な形をとるし、一つの兆候だけで簡単に網をかけて、病名を決めて、その枠のなかで薬やら入院措置やらの治療法を決めていくことは極めて危険な領域なのだと、専門家の見地からお考えになっているようだ。

選択肢の枠外のものを検討する「ゆとり」

現在のリーダーは、果敢な判断力と実行力と人を引っ張っていく力などがまず求められる。それは一概に間違いだとはいえないが、例えば岐路に立ったときに「こっちに行くんだ」という選択をズバリとやれる能力も持ちながら、「待てよ」と立ち止まれる能力を持つことはさらに可能性を増やす。「こっちへ行くことは必然なのか、別の見方をしたらもしかしたら別の選択肢が見えるかもしれない。どのくらいかかるかわからないけれど、考えてみよう」。そういうためらいを持つことが通常の言葉で言えば、ゆとりなのではないか。選択と集中というと「これしかない」と選択肢が決まっていて、その中でのベストを選ぶことになる。けれどそもそもその枠組みを外してみるだけの、ゆとりや度量といったものが人間には必要なのではないだろうか。

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
この筆者の記事をもっと読む

「データの民主化」を考えるウェブメディア『モダンタイムズ』「データの民主化」を考えるウェブメディア『モダンタイムズ

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

RELATED TAG