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役割で定義するAI活用に必要なスキル

Define skills required to use AI based on rolls

2023.12.06

Updated by Mayumi Tanimoto on December 6, 2023, 12:00 pm JST

イギリス政府は、The Alan Turing Instituteと共に企業で働く人がAIを使いこなして働き企業の生産性を高めるためのガイダンスを発表しました。

クリックしてFinal_BridgeAI_Framework.pdfにアクセス

このガイダンスは、従業員が持つべき主要な知識、スキル、行動を示し、 AIツールの効果的な使用や機密データの安全かつ安全な管理など、AIの利点を安全に活用するために必要な要素を提示しています。

このフレームワークでは、AI活用に必要なスキルのレベルを4つの「ペルソナ」(役割)に分けて定義しています。

・誰が
・どのように
・どんな形で

AIを使用するのかということがよく整理されています。

4つの「ペルソナ」(役割)は以下になります。

AI市民
AIワーカー
AIプロフェッショナル
AIリーダー

このようにフレームワークが「ペルソナ」(役割)によって分けられているのには理由があります。各自が必要なスキルやAIの専門知識のレベルを分解して、それらのギャップを埋める形になっているためです。

このようなモデルになった理由は、多くの組織ではAIを導入したとしても使いこなすためのスキルを身に付けるのが難しい、という課題があるためです。これは様々な調査で明らかになっています。

4つの「ペルソナ」(役割)の必要なスキルの具体例は以下になります。

1. AI市民

AI市民は、人工知能を利用する組織の顧客または従業員である一般のメンバーです。

  • すべてのAI市民は、Essential Digital Skills Frameworkに示されている基本的なデータスキルに十分に精通している必要があります。
  • 彼らは生活と生計におけるAIの役割に対して有意義で批判的に関与することができます。
  • 日常生活でAI技術がどのように使用されているかを認識しています。
  • AIおよびその基盤技術の機会とリスク、個人データのセキュリティの必要性についての認識を持っています。
  • AIの批評的な消費者であり、これらの技術の能力に対する認識と、それらの実用に対する実用的な見方を持っています。

2. AIワーカー

AIワーカーは、主な役割が「データ」と「AI」の領域外にあるものの、これらの技術に隣接し、これらの技術の影響を受ける可能性がある役割に従事している従業員です。

  • 役割遂行中にAIベースのツールと対話し、それを利用する能力を持っています。
  • 役割の遂行においてこれらの技術を活用することが期待されるかもしれません。AIワーカーは、AIにおける新興技術の役割と、それが彼らの役割および広範な労働力に与える潜在的な影響を認識しています。
  • 役割遂行中に使用するAIベースのツールの能力と制限に対する認識を持っています。
  •  AIおよびその基盤技術の機会とリスク、個人データのセキュリティの必要性についての認識を持っています。
  • 自分たちのセクターや職務におけるAIのリスクの影響について特に認識しています。
  • 役割内でAIベースのアプローチが効率、精度、または生産性を向上させる可能性のある新しい領域を特定することができます。

 

3. AIプロフェッショナル

AIプロフェッショナルは、彼らの主要な責任がデータとAIに関連している従業員です。

  • AIプロフェッショナルは、AIベースのシステムの設計、作成、展開、および保守に関する能力を持っています。
  • データサイエンスおよび人工知能のサブディシプリン(例:コンピュータサイエンス、統計学、モデリング、ロボティクスなど)の1つ以上において専門的な知識を持っています。
  • 法的、倫理的、規制上の考慮事項に強い認識を持ち、これを役割にどのように翻訳すべきかを知っています。
  • 技術的な複雑さと不確実性のある状況での運用に精通しています。
  • AI技術のリスクを認識し、その役割内でこれらを軽減するために必要な手順を知っています。また、リーダーシップがこれらのリスクを理解し軽減できるようサポートすることができます。
  • AIリーダーと効果的に対話し、技術的なソリューションの正確性を伝えるだけでなく、新しいAIベースの機会を適切にフレーム化して組織内での受け入れを達成することができます。

4. AIリーダー

AIリーダーは新興技術、特にAIの導入のガバナンスにおいて高い責任を持っています。彼らは組織内で重要な意思決定責任を持ち、Cスイートまたはボードレベルの役割を含むことがあります。

  • AIリーダーは、AIが組織の目標達成にどのような役割を果たすかを理解しています。
  • 新興技術を予測し、ビジネス全体および広範囲にわたるその影響を考慮する能力を持っています。
  • 機会を現実に変えるための技術のロードマップ・アプローチに自信を持っており、これはAI戦略を通じて実施されます。
  • 組織の複雑さと不確実性のある状況下で運用できます。
  • 技術チームおよびビジネスチームとのインタフェースとして効果的に作業し、新興技術の導入に関するガバナンス責任を果たし、それによって法的および規制上のコンプライアンスを確保します。
  • AI技術のリスクを認識し、組織全体でこれらを軽減するための必要な手順を講じることができます。
  • 労働力への潜在的な影響を認識し、積極的な再スキルアップおよびスキルアップの取り組みを通じて負の影響を軽減する手順を知っています。
  • AIソリューションとリソースの調達に関して、外部組織からのサプライヤー、契約、およびステークホルダーとの関係を適切に管理します。

また「ペルソナ」で必要なスキルや訓練を分けて明確な指針、標準を示すことは、実は労使関係でも非常に重要です。イギリスはじめ欧州やアメリカは「技能型雇用」をやっています。つまり、その人の技能や想定されるアウトプットによって賃金を決めるやり方で、どんな役割にどんな技能が必要か大まかに決めた上で賃金を決める設計になっています。

日本よりも厳密で、これに沿って業界標準の報酬が決まっているので、極端に高かったり、極端に安いという賃金は不可能になります。そのため日本のように、IT業界で孫請けの技術者の賃金が異様に安いということは起こらなくなります。

業界標準の賃金がわかるので、ではその企業のコスト構造のどこがおかしいかということもわかり安くなります。自営業やフリーランスの人々が買い叩かれることもなくなり、自営業になっても搾取される可能性が低くなるので、働き方に自由度が増します。

また働く人個々の「役割」を明確にすることで、責任分界点も明確になるのが大変重要です。各役割のリスクも明確になるので、例えばリスクが高く責任が重い管理職や専門職は報酬を高くするということが可能になります。ビジネス用の保険も設計しやすくなります。

次回の記事ではこのフレームワークが定義する、AIプロジェクトのライフサイクルに沿ったスキルの定義をご紹介します。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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