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移民で栄えるモデルの典型例としてのアメリカ

Migrants support America’s economy

2024.09.06

Updated by Mayumi Tanimoto on September 6, 2024, 16:11 pm JST

日本では最近、移民に関するトピックが注目されるようになっていますが、実は日本の人々は、世界から優秀な頭脳を集めることがいかに大事かということを理解していない人が多いように思います。

優秀な頭脳を集めている典型例はアメリカですが、実はアメリカに限らず世界のトップ企業の多くは移民が立ち上げたものです。2020年の場合、Fortune 500企業のなんと約45%は、移民によって立ち上げられた企業です。

例えば、SpaceXの創業者のイーロン・マスク氏は南アフリカ人です。Alphabet共同創業者のセルゲイ・ブリンはユダヤ系ロシア人、半導体大手NVIDIAの創業者の黃仁勳は台湾人で、多くの企業が移民1世や2世3世が立ち上げたものです。

トップ企業の創業者の多くはアメリカの学部や大学院に留学し、修士号や博士号を取得してテクノロジー企業を立ち上げています。2000年以降に科学分野でノーベル賞を受賞したアメリカ人の約40%も外国生まれです。

つまり、最近のアメリカの力の源泉というのは、良い教育を受けられる大学の学費や大学院の魅力、そして卒業後に創業しやすいという環境に惹かれてやってくる外国人が支えているわけです。

一方で、アメリカの初等から中高等教育のレベルは全体的に低下しており、生徒の学力レベルは東アジアをはるかに下回ります。例えば、世界中の15歳の学力を検査するOECDが実施するPISA試験では、2022年のアメリカの生徒のレベルは18位で、2018年より低下しています。

上位はシンガポール、マカオ、台湾、日本、韓国、香港と東アジアが独占し、その後はエストニアやスイスなどの欧州の小国や、カナダやオーストラリアなど英国連邦圏の国が続きます。アメリカは、特に数学の点数の低下が目立ちます。

従って、アメリカというのは大学や大学院の教育環境を魅力的にし、能力がある外国人には就労許可や滞在許可を出し、創業しやすい環境を作り出すことで、海外で教育を受けた特に優秀な人々の頭脳をアメリカに取り込むことに成功してきたのです。

ただし、アメリカのこの仕組みというのは、最近では脆弱性が指摘されており、 多くの大学では政府の補助金のカットにより学費が高騰し、20年以上前に比べると学生に出る返還不要の奨学金や、大学の中で働く代わりに学費が無料になったり生活費が出るという支援も薄くなってきているので、アメリカに行かずに母国にとどまる人も出てきています。

実際、私の周りでもアメリカの大学の学費があまりにも高いために、子供は留学することを諦めて ヨーロッパにとどまるという家庭が少なくありません。

つまり、アメリカが海外から優秀な人材を引き付けることができず、中等教育を強化しない場合、アメリカの高等教育や研究機関のレベルは下がってしまうという可能性があり、これは 技術力や 国力の低下につながる恐れがあるということです。

日本は、2022年のPISAの総合ランクで世界4位です。PISAは各国の人口を考慮した上で、正確な学力を測れるように、生徒のサンプルを集め、結果を反映するので、人口が多ければそれだけ生徒のレベルもバラバラなので学力に差が出ます。日本の人口は東アジアの小国より遥かに多く、イギリスやドイツの倍、アメリカの人口の半分という「規模の大きな国」なのに、これだけの結果を出しているのは凄いと言えましょう。

しかも、シンガポールや香港などに比べると、子供にガリ勉を強要しているわけではありません。人口が多ければ、それだけ学力が低い生徒が含まれるはずなのですが、つまり日本は全体的なレベルが高いということです。日本の最近の中高生の学力レベルの平均を見る限りは、日本の将来に関してそれほど心配しなくても良いのかもしれません。

日本の問題は、そういった学力が平均的に高い若い人たちが高い報酬を得られる仕事を作らなければならない、ということです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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