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安全保障分野で活躍するスタートアップ

Startups disrupt the defence industry

2024.09.05

Updated by Mayumi Tanimoto on September 5, 2024, 16:10 pm JST

近年のIT業界では、画期的なアイディアや技術を持つスタートアップが大企業が手が回らない分野や気が付かなかったビジネスで大活躍し市場に変革をもたらす、ということが 珍しくありませんが、これが安全保障の世界でも起きています。

例えば、ニュースサイトのDefenceOneの報道によれば、Theseus社で働く24歳のイアン・ラフィーさんはAIの開発者ですが、サンフランシスコで開催されたハッカソンに参加した際に、ロシアとの戦争の最前線から来たウクライナ人が「GPS誘導に依存せず、ジャミングで移動を妨害されないドローン」を求めていることを知ります。そして、同僚と2日間不眠不休で作業し、ドローンのカメラで写真を撮影し、Googleの画像マップデータベースと比較する機械学習を使用するという、GPSに依存しないドローンを開発します。

このドローンは500ドル未満で作ることが可能で、圧縮方法を工夫すると、256ギガバイトのSDカードに大量のマップを収めることができ、10,000平方キロメートル以上の範囲をカバーできる上、この機能を搭載したコンピュータはあらゆるドローンに搭載可能で、データのアップロードは数時間で完了します。

元々ウクライナの前線向けに超短時間で開発されたこのドローンの機能は、なんと米国陸軍特殊作戦部隊の目に止まり、現在実証実験が行われているのです。

このように、市場を変革させるようなスタートアップの技術は、防衛産業でも非常に重要になってきているわけですが、このような事例は安全保障におけるいくつかの課題を浮かび上がらせます。

一つ目は、AIやドローン、SNS などの発達により、防衛産業にはかつてよりもスピードが求められているということです。技術の発達はかつての防衛技術よりもはるかに早く、開発から実装までの時間が驚くべき速さで短縮されているのです。これが、敵国よりも遅れる場合は戦況で大変不利な状況になるのは明らかです。

2点目の問題としては、このような画期的なアイディアや技術を持つスタートアップや技術者個人を防衛産業がどのように囲い込むか ということです。彼らは、伝統的な兵器産業の企業ではなく、民生分野のスタートアップや独立した個人ですから、この人々に防衛産業の守秘義務の厳守や国防分野に関わることへのコミットを求めるのは非常に難しいでしょう。

民間企業の人々であり、規模の小さなスタートアップや個人ですから、防衛産業の大企業のように 政府がコントロールをすることがかなり難しくなります。彼らが敵国に技術を提供した場合、国家的な危機が発生する可能性もあります。

3点目に調達の問題があります。従来の防衛産業からの調達は、入札などを経て、様々なルールや審査を経てからでなければ導入することができませんでしたし、予算を付けることも難しかったのですが、これだけ スピードが高まっていると今までの調達方法は妥当ではありません。ドローンやAIといった技術に対しては、空母 やミサイルとは異なった調達方法が必要になるでしょう。

さらに、アメリカの国防総省がこのようなスタートアップの若者たちが提案した技術にも興味を示し、実証実験をすぐに行っているというのは、単にスピードを重視しなければならないということだけではなく、アメリカの国防が非常に難しい状況にあるということも 示唆しています。アメリカは、国防に割く予算がかつてのようには大きくなく、経済も厳しい状況ですから、安くて早い技術に飛びつかなければならない状況にあるということです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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